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破滅の銀色と漆黒の少女

作者: 柚木

連載しようかどうか悩んで導入部分だけ書いて満足しちゃったもの。

ここに供養しておきます。

そこは水底の様に静かで、暗くて、冷たい所だった。

聞こえる音は無く、届く光も微かで、そこにいるモノを照らすことは無かった。


そこには、獣がいた。


かつては世界を滅亡まで追い込んだ破壊の権化とまで言われた獣が。


封印され、自我を奪われ、その獣はただそこに転がっていた。


その獣は、大気に僅かに含まれた魔力マナを糧に生きていた。


自分が何者か忘れ、微かな魔力を体内に取り込んで生命維持を保っていた。



コツリと、小さな物音が響いた。

獣が封印されてから始めて響いた物音だった。


コツ、コツと段々と近づいてくる物音に自我の無い獣は、微かに耳を振るだけだった。


段々と近づいてくる物音は、階段を下りてくる足音だと、獣には理解出来なかった。


規則正しく近づいてくる音が段々と大きくなり、やがて止まった。


獣はそれでも動かなかった。いや、動くことが出来なかった。


辛うじて流れ込んでくる魔力は生命維持に使う分しかなく、自我も無い獣には動ける道理が無かったのだ。


「………」


止まった足音の持ち主は灰色のローブを纏い、スッポリと頭巾で顔を隠していた。

その手に持たれている杖はその者が「魔術師」である証で、こげ茶色の杖の先端に海の色を溶かし込んだような鮮やかな宝石がはめ込まれている。

掴んでいる手は、まだ小さく、その手指は折れてしまいそうに細い。


獣の姿を捉えた者は注意深く周囲を見回すと、持っていた杖をソッと地面に押し当てた。

「………」


小さく息を吸い、微かに呪文を紡ぐと、地面に押し当てた杖の先から光が溢れ出した。

光は地面を走り、目を閉じている獣の周囲を駆け抜ける。

光の筋は幾何学的な模様を描き出し、一つの魔方陣を描き出した。


微かに紡がれた声からして、フードの者は若い少女のようだった。

光の魔法陣が一際強い光を放ったと思うと、ガラスが砕けるような高く澄んだ音を立てて魔法陣が跡形も無く消し飛んだ。


その途端、微かに降り注ぐだけであった魔力が比べようも無いくらい大量に降り注いだ。


目を閉じていた獣はピクリと反応して、うっすらと目を開けた。


くすんだ灰色だった毛並みが段々と白銀の輝きを放つのを少女は固唾を呑んで見守っていた。

うっすらと開いていた瞳は、鮮血のように深紅の輝きを放っていたが、未だに自我を奪われたままの獣の瞳は薄い膜が張っているように見えた。


獣は大きく息を吸い込み、その体内に降り注ぐ魔力を取り込んでいた。

暫くそうしていたかと思うと、獣は身じろぎをして、ゆっくりと身体を起こしていった。


先程まで、大型の犬程度であった獣の大きさが見る間に大きくなり、あっという間に馬と同等程度の大きさに変化した。


それを見て、少女は獣を刺激しないように、ゆっくりと近づくと、獣は自我の無い紅い瞳を少女に向けた。


「……今まで、貴方を縛っていたモノから解放する。その代わり、私の願いを聞いてほしい」


少女はそう言うと、杖を獣の額に押し当てた。


「…一族に伝わる、秘石は元々貴方のものだ」


杖の先端に埋め込まれていた青い宝石が、微かに明滅しながら獣の身体に吸い込まれていくのを少女はジッと見つめていた。


宝石が杖の先端から消え失せると同時に、獣の身体が光を放ち始める。

白銀の毛並みが光を放ち、少女は眩しさに目を眇めると段々と光が収まった。


その時の獣は、先程より一回り大きさを増しており、その額には先程まで少女の持つ杖の先端にあった青く輝く宝石が輝きを増してそこにあった。


その獣の瞳には知性があふれ、先程までの胡乱な瞳ではなくなっていた。

獣は幾千年ぶりに、知性を取り戻したのだった。

少女は静かに膝を折ると恭しく獣に頭を垂れた。


「……我が一族が貴方様より奪いし秘宝、今確かにお返しいたしました」

「………」


微かに震える声で少女が唇を開いた。


「…この身を、貴方様に捧げます」

「……」


少女は静かに顔を上げて獣の紅い瞳を見上げた。

その表情は固く自身が、この獣に今すぐ喰われても仕方が無いと割り切った表情だ。


「…何故、封印を解いた」


白銀の獣は自分の前に膝を折る少女を見つめて言葉を放つ。

その言葉に少女は、ハッとしたように息を呑むと緊張しているのか喉が小さく音を立てた。


「…私の願いを叶えて頂きたいのです『破滅の銀色』様」

「願い? 我の封印を解いて、何を願う? 我は破壊することしか知らぬ、お前の願いが何だか知らないが、我にはその願いを叶えられるかわからぬ」

「壊して下さい」


獣は少女を見つめて微かに首をかしげる。

その少女は、緊張した面持ちで真っ直ぐと自分を見つめる深紅の瞳を見つめ返しながらハッキリと言葉を伝えた。


「何を?」


獣は無感情に淡々と問う。

その声色に負けないほど淡々と少女も答える。


「世界を」


少女はその時になって初めてフードを外した。

サラリと肩口から流れ落ちたのは、漆黒の闇を縒り合わせたように黒い髪。

黒いのに、輝いているような錯覚を覚えるほどの黒髪。

獣を緊張した面持ちで、しかし、引く気は無いといわんばかりの意思の込められた瞳の色も同じく黒。

黒曜石を磨き上げたら、ここまで輝くだろうかと思えるほど美しい瞳だった。


透き通る様に白い肌に微かに色付く頬、染めたように紅い唇に笑みを乗せて少女は歌うように再度答える。


「世界を壊して欲しい『破滅の銀色』様」


この時から、少女と獣の旅は始まった。

『破滅』を願う少女と『壊す事』しか知らない獣の短くも長い旅が始まったのだった。

当事者以外誰も居ない、静かな旅立ちだった。


獣は少し考え、少女の願いを聞き届けると制約を交わし、その背に少女を乗せて自身を閉じ込めていた檻の外へと飛ぶように駆けていった。


少女が一段一段踏みしめて降りてきた階段を獣は飛ぶように軽やかに駆け上がった。


外界は宵闇に包まれ、空には満点の星空が静かに瞬いていた。


幾千年振りの風が獣の白銀の毛並みを優しく撫でていく。


サクサクと下草を踏みしめる感触も懐かしい。


獣と少女は世界の果て「破滅の地」に立っていた。




連載しませんよ?

もしかしたら二人はくっつくかもしれないし、くっつかないかもしれない。

予定は未定。


連載しませんってば。

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