異常の理由
冒険者ギルドでの一悶着後、二人は早速地図を頼りに計画を立て調査に出かける事にした。
先ずは浅くぐるっと村を中心に辺りを一周した後、次に猟師達からの地図に記された場所を重点的に調べ始める。
更に、村を襲ったという魔獣の痕跡なども調査する。
だがいかんせん範囲が広い。1〜2日で終わる規模でなく、更に山が隣接している上に詳しく調査するとなるともう一週間は掛かる。
二人は日の出と共に調査に出かけ、日が落ちる前に村に戻る。就寝する時は村長から態々空けたという家を借り、夜明けと共にまた調査に出かける。
そんな生活をして五日目。太陽がじりじりと照らし、真上に到達する頃。
「だぁぁあぁぁーー!! まだ追って来やがる!」
≪ガルルルルゥッ!!≫
今現在二人は多くの魔獣たちに追いかけられていた。
深い森の中にベオルフの声が響き渡る。
背後からは青い毛並みの狼、角の生えた蜥蜴、巨大な芋虫といった多種多様な魔獣魔蟲が列をなして二人を追いかけていた。
「ベオルフベオルフ! もうちょっと速度落として下さい、これでは絵が描けません!」
「この状況で何言ってんだ!?」
ピカソの声にベオルフは叫び声を上げる。
ベオルフはピカソをお姫様だっこならぬお米様抱っこしながら森の中を全力疾走していた。
ピカソはこんな状況にも関わらず帆布を抱え、片手にペンを持って追ってくる魔獣達の特徴を描いている。呑気なのか、はたまた豪胆なのか。いずれにせよ肝が座ってるのは確かだった。
「7、8、9匹……あーくそっ! ワラワラ湧いて来やがる! だから勝手に抜いちゃ駄目だって駄目だって言ったじゃねぇかお嬢っ!? 何で抜いちゃうんだよ!」
「だって自然であそこまで巨大になったマンドラゴラは見たことなかったんですよ? 貴重なサンプルとして採取するしかないじゃないですか! 形状も効能も調べるには取り出すしかないじゃないですか! 例えそれが魔獣を呼び寄せる罠だとしても! 手を出さずにいられないのです!」
二人が魔獣に追われている理由。それはピカソの腰に吊るしてあるマンドラゴラにあった。
マンドラゴラは人の顔に似た形状を持つ植物で土の中で成長する。そして不本意に抜くと大声で悲鳴をあげる。
その声量は耳の良い兎系獣人が大声量のあまり即死したという逸話があるくらい有名だ。
それをあろうことかピカソは慎重になるベオルフを他所に耳栓してすっぽぬいた。勿論マンドラゴラは金切り声を上げる。
すぐさま口を封じるが時既に遅し、魔獣達が二人に向かって来ていた。そして現在の逃走劇になったという訳である。
「その尻拭いをするのは俺なんだけどな!? マンドラゴラの悲鳴に呼び出された魔獣共に追い掛け回される身にもなってくれ! ちっくしょう、荷物は増えるし慣れない地形だから走りにくいっ!!」
「な、失礼な! 私そこまで重くないですよ! ベオルフのバカ、あほちん!」
「お、ちょっ、暴れるな! 叩かれても痛くはないが体勢が崩れる!」
「ひんっ! ベオルフお尻触りました! えっちぃです!」
「そんな短い丈の服を着ていて何言ってんだ!」
「ギルドの調査官用の指定服なんですから仕方ないじゃないですか!」
ポカポカと痛くもないピカソの殴打を頭に受けながらベオルフはこれからどうするかを考える。
相変わらず魔獣は二人を追い掛けている。普段なら颯爽と巻くことの出来る状況だが、生憎此処は深い森の中であり、草や木の根などが邪魔をする。それでもベオルフ一人ならば何とかなるがピカソがいる。
ピカソには全くといって良いほど戦闘能力はない。万人が使える精霊魔法も焚き火の種火を起こすほどの力しかなく当然魔獣相手にそんなものは役に立たない。精霊魔法のちょっとうまい子どもにすら負けるというのだからピカソの弱さがどれほどなのかわかるであろう。
その為の護衛のベオルフだが今は少し場所が悪かった。人の手が入れられていない森中ではピカソを庇いつつ戦闘するのは難しい。近くに身を隠せる物がないのも痛かった。
「くそっ、追いつかれはしないが逃げ切れもしねぇな!」
追ってくる魔獣をチラ見して再度舌打ちする。
持ち前の足の速さと身軽さで木々の隙間を軽々と抜ける。しかし、魔獣達も諦めない。
このままじゃジリ貧かと覚悟を決めた時、走っている内に木々のない円形状の空間に辿り着いた。広さも充分、邪魔なものもない。
ベオルフはこれ幸いと抱っこしていたピカソを放り上げた。
「ふわぁっ!? ふぎゃふっ!!」
奇妙な悲鳴をあげてピカソは地面をコロコロ転がってベチャっという音と同時に止まった。ペロンと短い服が捲れあがりお尻丸出しで可愛らしい下着が丸出しである。
ベオルフは足を止め、追ってくる魔獣に向き返す。
≪ガルァァッ!≫
≪ギュルルゥゥ!!≫
≪ヂィィィィ!≫
「あー……どいつもこいつも……!」
鳴き声をあげながら近づく魔獣に苛立だしげに背負ってあった棘のついた武器ーー狼牙棒を抜く。
「うるっせぇんだよぉ!!」
飛び掛かって来た青い狼を腕力任せに頭から叩き斬る。狼は地面に叩きつけられ、脳漿と血液を地面に描き沈黙する。
更にベオルフは狼牙棒を横に薙ぎ払い別の魔獣の頭を潰す。木と狼牙棒に挟まれた蜥蜴型の魔獣は呻き声を上げる暇もなく崩れ落ちた。
ベオルフの持つ武器は狼牙棒と言う種類の武器である。
自らとほぼ同等の大きさを持ち、半分ほどから胴体と同じくらいの太さを持つ先端円筒型の棍棒であり、沢山の針が円状に等間隔に並んでいる。
その見た目は凶悪そのものであり、実際性能も凶悪で対象を叩き潰し更に針にて皮膚などを切り刻む武器である。
ベオルフの狼牙棒は"鏖殺の牙棍"と名付けられ、とある地竜の骨や甲殻を使って作られたものであり、その性能は狼牙棒の中でも指折りの品物であった。
≪ヂィィィィ≫
「動きが鈍い!」
左側にいる芋虫型の魔蟲は口から粘液を出して攻撃しようとするが、それよりも早くベオルフの振るう"鏖殺の牙根"を魔蟲の口に突っ込み、100キログラムはある体を持ち上げた。
内から外れる音がした後針が魔蟲の内部から大量の針が飛び出した。
"鏖殺の牙根"の中に収納されている針が射出されたのだ。
そのまま噴き出した青い返り血を浴びながら魔蟲の死骸をその場に放り投げた。
あっという間に3匹の魔獣が倒され他の魔獣達が二の足を踏む。
「魔獣どもが! お前らが俺たちを食おうというのなら俺がお前達を食ってやるよっ!」
犬歯を剥き出しにベオルフは威嚇した。目が血走り、怒りの形相で睨みつける。その気迫に魔獣達はたじろいだ。
ここに来てどちらが捕食される側か気付いた他の魔獣は恐れをなし逃げ出した。
ベオルフはその背中を見ながら肩に"鏖殺の牙根"を肩に背負い鼻を鳴らす。
「ふんっ、逃げるくらいなら初めから襲って来なけりゃ良いんだ。ぺっぺっ、血生臭ぇ。こりゃ洗わねぇと落ちねぇな……。お嬢、危機は去ったぜ」
「ふがー!!」
「うぉ、なんだっ!? 一体何を投げて…くっさ、おまっそれウンコじゃねぇか!」
ばっと立ち上がったピカソはぽいぽいと何か黒い物体を投げてきた。よく見たら顔にも同じものが付着している。
獣人のベオルフの優れた嗅覚がそれを糞だと断定する。だが指摘して尚、ピカソは糞を投げ続ける。
「いきなり放り出すなんて酷いじゃないですか! 頭打ちました頭! しかも倒れた先に魔獣の糞があって顔面からダイブしました、どうしてくれるんですか!!」
「しょうがねぇだろっ、緊急事態だったんだから! てかウンコ投げんなウンコ!」
「私だけ塗れるのは不公平です、ベオルフも同じにならないと気が済みません! それに魔獣を調査する時にフンくらいなら触れる事があります! ベオルフもあったでしょう? だから良いじゃないですか! なんで避けるんですか!」
「だからって触れたい物でもねぇだろ!」
「私はもう触れましたよ!」
「俺は触れたくねぇんだよ!」
ひょいひょいと避け、当たらないのにムキになり更に両手一杯に掴み投げつけ、それをまた避ける。その繰り返しだ。
二人の応酬は糞がなくなるまで続いた。
「それでお嬢? ここら辺は一回り探索したけど魔獣達がいきりたっている理由は分かったのか?」
ベオルフはあの後何とかピカソを宥め、不得手な水精霊魔法で出した水で身体を洗う。濡れた衣類を乾かす為に上半身が裸であり、逞しい筋肉が露わにしながら倒した魔獣の素材を剥ぎ取りつつ、濡らした布で顔を拭くピカソに尋ねた。
「はい。大体は分かりました。ベオルフ、これを見てください」
ピカソは汚れた布を仕舞い、背中に背負ったバックから数枚のスケッチを取り出した。
近付き覗き込む。
村を俯瞰して写しとったもの。
森の様子を写しとったもの。
魔獣を写しとったもの。
湖を写しとったもの。
言葉にするとそれだけだが、そのどれもにベオルフは目を奪われた。
今にも村の生活音が、森のさざめきが、川のせせらぎが、魔獣の呻き声が聞こえてきそうなほどリアルで繊細なタッチで描かれた絵には感嘆の息を吐かずにいられない。墨でしか描かれていないがそんなことは些細な問題だ。
これ一枚で一体どれほどの額が着くのかベオルフには想像出来なかった。
「相変わらず絵に関してはお嬢の右に出る奴もいねぇな。俺は語彙が少ないからどう表現したら良いか分からねぇけど、どれも墨でしか描いてないのに街にいる画家どもよりもずっと綺麗だ」
「ふふん、もっと褒めても良いのですよ? むしろもっと褒めて下なきゃダメですよ、ほらほら?」
「だがまぁ、人に関しては絶望的だけどな」
「今それを言わなくて良いじゃないですか!」
「事実だろ? ほら飴やるから機嫌なおしてくれ。それでこれらがどうしたんだ? ちょいと見覚えがある気がするんだが」
まったくとブツブツ言いながらピカソは飴を受け取りコロコロと舐めて笑顔になりながら地面に一枚一枚絵を並べる。ちょろいなとベオルフは溢す。
「これらは全部今回の探索で見て来た所を写し取った物です。だから見覚えがあるのは当然ですよ。それでベオルフ、見て何か思う事ありません?」
「んー、どうって言われてもなぁ」
腰に手を当て、しげしげと絵を見比べてみる。
ピカソがこうする時は必ず何かあると長い付き合いから分かっているベオルフはその何かを探そうと躍起になる。
そして気付いた。
「同じ森でもこっちとこっちじゃ緑が少ねぇな」
「そうです、その通りです。さすがベオルフです」
ピカソはにっこりと頷く。
「こちらの森は村から東側の方を写し取った物で此方は西側のを写し取った物です。色彩豊かな東側の森と比べて西側の森は全体的に緑の色合いや果実の実りが著しくありません。距離的にはそれほど離れていないのにこれほどの差が出るのは変です」
「単に土地の関係で差が出たとかじゃないのか?」
「いえ、調べて見たところ二つの場所に植生や土壌に大きな差異は見られませんでした。その可能性は低いです」
ベオルフの言葉をピカソは否定する。
「さて、ここ5日間様々なところを探索して来ましたが森に発生している疫病、魔獣の痕跡、生態系、村との関係性。そして思ったことがあります。この西側の森には水が大量にあったであろう池がありません。猟師達の話ではあるとの話でしたが確認したところ見当たりませんでしたよね?」
「猟師達は魔獣が村付近に現れるようになってから西の森にはあんま行けてないって言ってたしな」
「あったはずの池がない。そして、成長著しくない西の森の様子。私は今回の魔獣の異常行動は水不足による物と判断します」
「水不足?」
「それを裏付けるものがこれです」
念入りに猿轡されたマンドラゴラを取り出す。
「そうだ、それのせいで俺たちは魔獣に追い掛けられたんだぞ」
「その事については反省してます」
「なら次はするんじゃねぇぞ」
「それは無理です」
「……おい」
「それよりも聞いて下さい。マンドラゴラは元々水の豊富な所にしか生息しないんですよ。つまり前までは西側の森にも水が行き渡っていた証拠になります」
「ん? マンドラゴラは水の豊かな所にしかないんだろ? 水がないのにめちゃくちゃデカいのはおかしくないか?」
「その事ですがマンドラゴラには1つの特性があるんです。水が何らかの影響で足りなくなった時、周囲の草木の根を取り込み栄養を蓄え一時的に巨大化するということ。そうする事で自らが枯れることを防ぐ機能を持っています。あの時ベオルフの制止も聞かずにマンドラゴラを抜いたのは近くの木が枯れていたので、もしやと思ったからです。案の定、通常に2倍くらいに肥大化してました。近くにあった他のマンドラゴラも同様でしょう」
なるほど確かにマンドラゴラが栄養を蓄えようと他の木々の栄養を取り込んだのならば、あの栄養不足の西の森の様子にも納得が出来る。
だがベオルフには一つ疑問があった。
「成る程、理由はわかった。だが一つ疑問がある。そんな短期間で池が枯れるなんてありえるのか? 森だって一種のサイクルが完成しているハズだ。今年に限って急にこんな事が起きるなんて偶然があるのか?」
「確かに普通なら考えられません。しかし、最近出来たものがあるじゃないですか」
「……ん?」
「ブレ村ですよ。恐らく結構な割合で村に水を引いていた所に、新しい畑の為……というより黄金麦ですね。あの作物は膨大な量の水を必要としますから」
「あれか!」
確かにブレ村には大規模な黄金麦が生っていた。それを賄うには相応の水が必要だ。
「黄金麦が地表の水分を吸い上げ、それで地下水脈だけでは足りなくなり、川から多くの水を引いた結果森の中にあった同じ川から水を引いて出来ていた湖が枯れてしまったのだと思います。それだけなら兎も角マンドラゴラが辺り一帯の栄養を吸い取り森に影響を与えてしまった。餌もなく、水もない餌もない困った一部の魔獣が村に、というのが今回の騒動の真相だと予測します元々、あの地域は開墾したとは言え、元は森でしたからね。水も豊富にあるので魔獣自体も柵があるからといって諦めないでしょう」
「えぇ……つまり何だ。村人共は生活の為に水を引いた結果魔獣達に行き渡るはずの水まで奪っちまったってことか? いや、分かるけどよ? 水がないと畑も駄目になっちまうし」
「そういうことになりますね」
詰まる所、自業自得で魔獣を呼び寄せたということにベオルフは頭が痛くなった。思わず頭を抱えてしまうのも無理はないだろう。
「『魔獣の暴走』の前兆や新たな捕食者の登場による影響かと思えばまさか人為的な原因だとはな。奏唄人風に言えば『己が背に寄生されても蟹は自分の背を見ることは出来ない』ってか」
「どうでしょう。今回のは時期も悪かったと思います。この辺りでは降るはずの冬の雪が今年は降らなかったらしいので、もしかしたらそれで池に貯まるはずの水の供給が出来なかったのかも」
「なら雪さえ降れば今回の事は起こらなかったのか?」
ピカソは首を振る。
「それはないと思います。どの道遅かれ早かれ今のまま水を引いていたらこんな事態は起きたと思います。明らかに水を引き過ぎでしたから。黄金麦は高値で売れ、大量に実るので村の開発費の為に植えたとの事でしたから今後も植え続けたでしょう。ただ今回のはこの程度で収まりましたが、もしもっと長い間雨降らないことが続いたりすれば更に多くの池や草木も枯れ、多くの魔獣が村に向かって甚大な被害を被っていたでしょう。ギルドもあの状態じゃ兆候も見逃した可能性がありますし」
聞いていてベオルフは苦々しい顔になる。
あの時の冒険者の対応やギルドの現状を予めピカソから聞いていたからだ。雑念を振り払う為に話を元に戻す。
「とりあえず、村人には水を引く割合を減らすように言っとかないとな。それと黄金麦も禁止だ、禁止。新しい村の開発も企画の練り直しだな」
「えぇ、そうすれば森に水が廻り巡るので魔獣達も大人しくなると思います。水は自然にとって大切なものですから。皆んなで分け合うべきものです。人も自然の一部ですから独り占めしたり、それに逆らおうとすればしっぺ返しを受けるのは必然です」
「耳の痛い話だな。だけどよ、それでも懲りないのが人間だぜ?」
「やり直すことも出来るのも人間ですよ。ほらベオルフ、早くおぶって下さい」
「あ? 別に何処も怪我してねぇだろ?」
「さっき放り投げられた時に足捻りました。責任取って下さい」
「足捻ったって……」
さっき糞投げる時思いっきり立ってたじゃねぇか。
言いかけた言葉を飲み込み、ぷいっと頰を膨らましそっぽを向くピカソに苦笑する。
「しょうがねぇな。ほら」
細いピカソの腰に手を回し、抱き抱え肩に乗せた。
「そっちじゃないです! 背中にですよ!」
「んだよ、我儘だな」
肩に担ぐのが不服なのかペシペシ叩くピカソを下ろし、邪魔にならぬよう剣を背中から腰に携える。
「よっと」
ピカソは軽い。どこにあれほどの元気が詰まってるののだろうか。ベオルフは背負うたびに抱えていないと何処かにいなくなってしまうのではと心配するくらいに。
やっと願った通りの状況になったのでピカソはご機嫌になりつつひしっと太いベオルフの首に手を回す。
「ふっふっふー、ほらほらこんな可愛い女の子を背負えるんですよ? 喜んだって良いんですよ?」
得意げな声に心配したのがバカらしくなり鼻で笑う。
「はっ、どうせなら巨乳のお姉ちゃんとか背負いたかったな。お嬢のまな板じゃ物足りねぇ」
「なっななな……! わ、私にだって少しくらいありますよ、失礼な! そんなにおっぱいが好きならおっぱいと結婚したら良いじゃないですか! ベオルフのアホ! すけべ! すかぽんたん!」
「あでででっ! 耳引っ張るなよ、獣人にとっちゃデリケートな場所なんだぞ!」
「うるさいですよっ、女の子にとってのデリケートゾーンに触れたベオルフに文句言う筋合いはありません!」
「何だ、ちっぱいのを気にしてたのか? いでぇーー!! わ、悪かったお嬢俺が悪かった!!」
他人から見れば聞くに耐えない内容だが二人の姿は実に楽しそうであった。そんな二人のじゃれあいは楽しそうに森に響き渡った。
≪グブルル……≫
故に魔獣を呼び寄せてしまうのは当然だった。体高3mを超える翠色の熊型魔獣が木に手をかけながら二人を黒い目で見つめていた。ポタポタと口からは涎が垂れ落ちている。
二人は顔を見合わせる。そして一目散に駆け出した。
「逃げろぉぉぉぉ!!」
「あ、待って見た事ない魔獣だからせめてスケッチだけでも!」
≪グブルルルゥゥゥ!!≫