理由
筆者の他作品、「【連載版】この日、偽りの勇者の俺は真の勇者の彼を追放した」とおっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も最新話投稿しています。下記から飛べますので是非ともお読み下さい!
それと遅れて申し訳ありませんでした。
「別に何かを企んでるとかじゃねぇさ。ただ純粋に俺はお嬢に恩があるんだ」
ベオルフは遠い目で語り始める。
何かを懐かしむような色を浮かべて。
「昔の話だ。俺は自慢じゃねぇが強かった。それこそ一人で高難易度の依頼をこなせるくらいには。パーティを組まないかと言った奴らも俺からすればどいつもこいつも弱っちかった。当然やっかみもあったがそんな奴らも全て叩き伏せてやった。いつしか俺に楯突く奴も、相手取れるだけの魔獣もいなくなった」
「……なるほど、『孤狼』とはその時の異名か」
バルバロッサは納得がいったと頷く。
「ある日だ。ギルドからの依頼で俺はとある地域に派遣される事になった。何でも姿すらわからない魔獣に甚大な被害を受けているからだと。正直その頃には自分の力は誰にも負けないと自惚れてすらいたな」
自嘲気味に笑う。
いや実際にあの頃の自分は愚かだったのだ。力に溺れていた訳ではないが、過信していた。
ベオルフは一人だった。
仲間などいらないと思っていたからだ。群れるのは弱いからだと思っていたし、当時は個の強さばかりを重視していた。
それがあの結果を生んだのだ。
忘れるはずも無い。
ベオルフは己の力を遺憾なく発揮し、村を襲っていた謎の魔獣を突き止めた。そこまでは良い。だがその相手が問題だった。
魔獣は、竜であった。
竜の中でも地竜と呼ばれる存在であった。
ベオルフとて竜の存在は知っていたし、何なら幼い頃狩っている現場を見たこともある。
だから通常種であれば手は打てただろう。
しかしその 地竜は今まで見たことない種類であった。逃げればよかったのに勇猛か、無謀かベオルフはその地竜に戦いを挑んだ。
己の狼牙棒をすら通さぬ堅牢な殻。分泌される大地を汚染する猛毒。強靭な肉体で、地竜なのに考えられぬ程機敏にも動いた。
訪れた村は壊滅、ただ一匹の巨大な地竜により人が住めぬ地へと変わり果てていた事への憤りもあって挑んだ戦いだがそれは悪手であった。
対峙するベオルフだが、地竜は彼の強さを上回っていた。致命傷は避けているが全く決定打を与えられていない。
体力を消耗し、更には地竜も明らかに此方を敵対している。
流石にベオルフもヤバイと思った時、声が聞こえた。
所々破け薄汚れた衣装を一枚だけ被り、手に筆と紙を持った爛々と輝く瞳が綺麗な幼い少女だった。
その少女こそピカソだった。
ピカソの洞察力は飛び抜けていた。
魔獣を直に見て、それを絵に描けばそれがどのような能力を持ち、どんな攻撃をして、動きをするのかを全て把握することができた。
ピカソは崩壊した家に隠れながらベオルフと地竜の戦いを見て、短時間で地竜の特性、能力を見破り折った折り紙を飛ばしてベオルフに渡し、伝えた。
そのおかげでベオルフは地竜を討伐出来た。
竜とは偉大なるもの。
竜とは生態系の頂点。
竜とは絶対なる強者。
この世を構成する万物の精霊。それらの力を自らに宿し、より強力な魔獣になったものを"精霊獣"と呼ぶ。
有名なのはスライムや海に住む"海大鯨"などだ。
"精霊獣"は総じて強力な力を持つ。竜もまた"精霊獣"でありながら、中でも最も有名かつ強力な相手だ。
人が挑むには余りにも強大過ぎる相手。
しかし時にはそれらを打ち倒せる者もいる。
それを倒した者は畏敬を込めてこう呼ばれる。
逸脱者と。
一人で竜種を倒せると証明した者のみが辿り着く称号。地竜を倒したベオルフは冒険者ギルドに逸脱者として認められ《7欠月》になったのだ。
「つー訳で俺はお嬢が居なけりゃ生きていなかった訳だ」
「成る程、命の恩人という訳か。しかしそれなら何故あの特殊調査官殿は御主と共にいる?」
「結局お嬢は孤児となったからな。俺は報酬を全てお嬢に渡すつもりだったがお嬢がいらないって言ってな。その後なんやかんやあってハバトのおやっさんに会ってお嬢は調査官を目指す事を決めた。だがなぁ…………」
ベオルフは困ったように眉間に手を置く。
「今日あんたらも見たと思うがお嬢は弱い。力もなければ、魔力も殆どない。元気はあるが体力はないし、精霊魔法も不得手だ。とてもだがこんな魔獣がのさばる場所では生きていけねぇ。なのに好奇心ばかりは人一倍ときてる。誰かが側にいないとすぐにおっ死ぬだろう」
「確かにのう。調査官殿は大なり小なり多少は武をかじってもいるがあの娘はてんでダメじゃな」
「そうさ。だからこそ、この命、お嬢の為に使ってやろうと決めた。お嬢の夢の為に力を使ってやろうとな。あとはまぁ、あれだ。情が湧いちまったんだよ」
照れ臭そうに酒を煽るベオルフ。
「ふむ、やはり人の噂とは当てにならぬな」
その言葉を聞いたバルバロッサは優しげに瞳を細め赤髭を撫でる。
「『孤狼』はは血も涙も情もない悪鬼の如く男と聞いた。だが今のお主の目は優しい目をしとる。大切な人を思う普通の人じゃな、お主は」
「けっ、おっさんに褒められたって嬉しくねぇよ」
辟易したように手を振る。
だがふわりと機嫌良さそうに尻尾が揺れていた。
「あー、くそ、酔ったわ。慣れねぇ話はするもんじゃねぇな。俺は寝る。また明日の探索の時よろしく頼む」
「そうだな、手前も寝るとしよう。ではまた明日に」
別れを告げ二人はお開きにした。
ベオルフは若干怪しい足取りで、それでいて周囲への警戒を怠らず自分達の寝床に戻る。
「にゅひひ……、見たことない景色がいっぱい〜…………」
そこでは布団を押しのけ、腹を出して寝ているピカソがいた。
「なんつー寝相の悪さだよ……。ほら、お嬢の寝床はあっちだ。ここは俺の所だぞ」
「ん〜……」
「あっちぃ、ひっつくな」
「や〜……、この触り心地はまるで"勇猛狗"の如くしなやかかつがっちりした心地。うへへ、これは貴重な体験……ぐぅ」
「熱いってのに、くっついてくんなよな……」
グイと離そうとするが何処にそんな力があるのかぎゅーと力強く腕に抱きつく。
ベオルフは諦め、そのままにすることに決めた。
この温もりを守ると誓いながら。
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