人喰いジャングル
後日、『人食いジャングル』の探索を行うことにした。
人食いジャングルはその名の通り植物が人を喰らう程に発達、巨大化した一帯のジャングルを指しており、この辺りに住む原住民でも万全の状態でなければ入らないらしい。
「ベオルフベオルフ! 見てください、この巨大花の色! 見た事ありません! 」
「おいお嬢不本意に近づくな! もし擬態した植物だったらあぶねぇぞ!」
「失礼なっ! 私もそこまでおっちょこちょいじゃありまはぷっ」
「お嬢ー!?」
ピカソは頭からぱっくりと植物に食われた。
そのままごきゅごゅと飲み込まれていく。
ベオルフは大急ぎで植物を叩き潰し、ピカソを引きずり出す。
「お嬢、大丈「ベオルフ! 驚きです、意外とあの植物の中あったかいんですよ! これは新しい発見です!」わ、分かった。分かったから、少し離れてくれお嬢。なんというかヌチャヌチャするしちょっと臭ぇ」
「臭いって何ですか! 女の子に失礼ですよ! もう怒りました、そりゃそりゃ!」
「ちょ、体液飛ばすなっ! くっさ! あぁ、鼻が腐る!!」
「腐る……? わかりました! あの花は腐敗臭を放つ事で虫を呼び寄せ受粉の手助けさせる花の一種だと推測されます。昔教えてもらった事があります! その事に気付くなんてすごいです、ベオルフ!」
「その花じゃねぇ!」
全く懲りた様子がなく嬉々として語り、絵を描き出すピカソにツッコミを入れるベオルフ。
「やれやれ、またか」
その様子をバルバロッサ達は演劇でも見るような目でこちらを見ていた。
「魔獣の縄張りの中だというのに。お主らはいつもそんな感じで狩猟に勤しんでおるのか?」
「あ? そんな感じってのはどのくらいかは分からねぇけど、これくらいならしょっちゅうしてるぜ」
「よくもまぁ、それでお主もあの娘も今まで無事でおれたものだな」
「まぁな。……ん?」
ベオルフの耳がピクリと動く。
何かが近付いて来る音を捉えたからだ。
「気をつけろ! 何か来る! この足音と臭いは"スヴァットイグアナ"か!」
ベオルフの警告とほぼ同時に軋めく茂みから灰色の四足歩行の大型の蜥蜴が現れた。
「ぐっ、こいつらデカイぞ!」
「気をつけろ! 足を噛まれたら引き摺り回されるぞ!」
「【土壁】をつくれ! 早くしろ!」
精霊魔法に長けた冒険者が【土壁】で辺りに壁を作る。しかし、"スヴァットイグアナ"はその壁をよじ登ってこようとした。
≪ギジャアァァッ!!≫
「おらよっ!」
その内の一番早くよじ登った個体をベオルフは狼牙棒で弾き飛ばす。そのまま【土壁】で出来た足場に着地し、見渡すと20はいる"スヴァットイグアナ"がチロチロと舌を出し、此方を見つめていた。
「ちっ、この数は骨が折れそうだな」
「ふふっ、《7欠月》ともあろう冒険者が弱音を吐くなんてね。さがっていたまえ。僕が、こんな土くれではない本物の精霊魔法というものを見せてやろう」
いつのまにか横にいたシストが薔薇を片手に佇んでいた。
「おいこら、シストォッ! 誰の精霊魔法が偽物だってぇ!?」
「そうよそうよ! 2重精霊使いだからって調子乗らないでよね!」
「ふふふ、そんな言葉僕の精霊魔法を見れば収まるさ」
仲間の冒険者からの抗議も諸共せず、シストと詠唱を唱え始めた。
「《根源たる苛烈なる火の精霊と優雅なる風の精霊に指揮を奏でる、二つの属性が融合し、昇華し、羽ばたく鳥となれ!!、不死鳥の威光》」
瞬間、巨大な火の鳥が出現した。赤青と異なる配色の炎が混ざり合い、更には翼の羽が火花のように一つ一つの炎が煌めき散っていった。
やがて火の鳥は"スヴァットイグアナ"に向けて着弾する。巨大な火柱が上がった。
「わぁ! すごいですね! 綺麗です!」
「おいおい、ジャングルに燃え移らねぇだろうなこれ!」
しかしベオルフの心配も杞憂に、炎はジャングルに移らず"スヴァットイグアナ"のみを燃やし尽くした。シストが風魔法で燃え移らないように調整していたのだ。
あっという間に個体数が残り数匹になった"スヴァットイグアナ"は慌ててジャングルに逃げていった。
「ふっ、見たかね? 僕のエレガントかつエクセレントな【不死鳥の威光】を!」
胸を張って誇るシスト。
ベオルフは素直に凄いと思った。あれだけの威力を持つのもだが、それに加えて風をも操ることで周囲に被害をもたらさない繊細さも見事なものだろう。
ただ一つ疑問があるとすれば
「なぁ、今複合魔法を使う必要あったのか?」
態々2つの精霊魔法を扱う必要がなかった事だろう。
火、風、土、水、光、闇の6つの属性の精霊。
中でも異なる2つ以上の精霊を扱った魔法を複合魔法という。
精霊魔法を扱うには、周りに存在する精霊に対して魔力を渡すだけで良い。それを別の属性の精霊に同時に与えるというのはかなりの技術を要する。当然意思の伝え方も異なるし、魔力の消費も激しくなるがその分強力になる。
だが、20体の"スヴァットイグアナ"を倒すには技の規模も、見た目も、魔力の消費も明らかに割りに合わない。特に炎が植物に燃えうつらないように態々風で制御するくらいなら、水か土の方が良いだろうに。
いや、そもそも仲間の冒険者もいたのだから彼一人出しゃばる必要はなかったのだ。魔力の消費がきつかったのか、シストは余裕ぶっているが足が震えているのが見て取れた。
そんなベオルフの疑問に態勢を立て直しつつ、シストは鼻で笑った。
「何故だって? ふっ、愚問だね。そんなのカッコ良いに決まってるじゃないか」
「はぁ?」
何を言ってるのだろうかこいつは。
ベオルフは阿保を見る目でシストを見るも彼は気付かない。
「精霊魔法は誰もが使う事が出来る。しかし、だからといって誰もが同じ魔法を使うなんてナァンセンス!なんて言ったって精霊魔法は意志さえ伝わればいい如何様にでも変化する。ならば! 自分だけのオリジナル! オンリーワンの魔法を求めるのは当然のことだろう!」
「あっ、わかります! 私も絵を描く時は自分のオリジナリティを出したいと思います! 色んな人の絵画を見て、影響を受けてもそれに自分なりのアレンジを加えて技術を昇華させていこうと常に努力していますから!」
「流石はギルドの特殊調査官だ。あのケダモノに比べてよっぽど話がわかるね」
お互いに意気投合し始める両者。
ベオルフは悟る。こいつら、ダメなタイプだと。
「はいはい、お嬢。あんまりそいつに感化されると変なのが更に移るぞ」
「えー、なんでですかベオルフ!」
「良いから良いから」
「ふっ、男の嫉妬は見苦しいぞ」
「そんなんじゃねぇよ! アホか!」
ベオルフのツッコミも気にせずに、シストは手に持つ薔薇の匂いを嗅ぐ。
「おや」
匂いに誘われたのかヒラヒラと一匹の蝶がシストのもつ薔薇にとまる。
「ふっ、優雅な僕にはやはり可憐で美しいものが似合う」
「あ、シストさん。それは"紋白蛾"と言って魔蛾の一種で鱗粉に猛毒を持ってますよ。確か吸えば失明したり、呼吸器官が灼ける痛みに襲われます。そしてその隙に、体内へと卵を植えつけるんです」
「なぁぁぁあぁ!!?」
やばい生態に慄き、慌てて薔薇ごと放り投げる。
「んぐんぐ、がらがらっ、ぺっぺっ」
何度も水筒で口を濯ぎ洗った後、何事もなかったように取り繕う。
「ふ、ふふふ綺麗な薔薇には棘があるっていうからね。あの蝶もちょっと恥ずかしがり屋な所があってとってもキュートでプリティなおちゃめさんじゃないか」
「おいなんか言葉遣いおかしくなってんぞ」
「失礼な。僕はいつだって冷静で優雅なダンディズムな男さ。次会ったらきちんと口づけをしてあげよう」
「あ、"紋白蛾"が仲間引き連れて戻ってきたぞ。良かったな色男。いや、花男」
「《可憐で美しき風の乙女よ、我が契約と盟約を持って従いたまえ、風の刃》」
「プリティでおちゃめな奴を切り裂きやがった!」
シストの風精霊魔法により、"紋白蛾"の集団はズタズタに切り裂かれた。
「やれやれ、シストも相変わらずじゃな。もうちっと人を頼ることを覚えれば良いのにのう」
そんな様子を見て、バルバロッサは独り言ちた。
そんな事がありながらも人食いジャングルの調査は続いた。
『人食いジャングル』は名の通り、とてつもない植物がこちらを食らおうと襲いかかってきた。
更には時折魔獣までも襲いかかる。いつだって気を抜けなかった。
それでも負傷者は軽傷のみで重傷者はいなかった。それだけでバルバロッサの隊の練度の高さが伺えた。
しかし、それだけしても例の謎の魔獣の手がかりについては何一つ見つからなかった。
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作者の他作品「【連載版】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した」と「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」の方も投稿しています。
下記より是非ともお読みください、よろしくお願いします!




