キザな男
皆様のおかげでブクマ100に近付いてきました!
ありがとうございます!!
「どなたですか?」
「おぉ、これは失礼、僕はシスト。『壮麗な紳士』という異名を持っている今注目の冒険者さ。美しいお嬢さん、君にはこの薔薇が似合うだろう。是非とも受け取ってくれ」
「わぁ、ありがとうございます!」
膝をつき、薔薇を献上する姿は宛ら劇の一幕のようだ。
ワザとらしくニコッと笑う様は何というかキザ野郎である。
「誰だこいつ」
「手前の部隊の団員の一人だ。こんなんでも《5欠月》で手前の部隊の中では最もランクが高い」
「《5欠月》がこんな若造で大丈夫なのかよ?」
「若造とは失礼だね。これでも僕はかなりの場数を踏んだエリートさ。……ふむ」
「なんだよ」
ベオルフを品定めするように見るシスト。
やがて嘲笑を浮かべた。
「駄目だね。まるで野獣のような荒々しさに粗暴で気品のカケラもない。《7欠月》って聞いたから期待したけど君はいうなれば薄汚れた野犬だ」
「んなっ」
「あぁ、それに比べて君はまるで野原に咲く一輪の花のように美しい。君と出会えた事に美の神である月の女神に感謝しよう」
ピカソはその言葉にきょとんとした後苦笑しながら訂正する。
「月の女神は狩猟の神の一面はあっても美の神の一面はありませんよ。美の神の代表格は『水の精霊王神』であり、彼女の美しさは同じ精霊王神達さえも魅了したと言われています。ですので表現としてはこちらの方が正しいかと」
「……な、なら水の精霊王神アクアリウムに感謝しよう」
カッコつけのに内容が間違いであった事に若干顔が引きつりながらシストは改めてポーズをとる。すると途中ベオルフと目が合い
「……ふっ」
鼻で笑った。
羞恥でシストが憤るよりも先にバルバロッサが手で制する。
「やめよシスト。手前らは揉めにここに来たのではない。それに先に言葉で喧嘩を売ったのはこちらである」
「けどっ」
「いいからやめよ、命令だ。話を戻すが外交責任者殿、手前達はとある方の命でここに来たのだ。勅書は此方に。読んでもらいたい」
それを見たサキリは半目の目を見開いた。
「これはまた……とんでもない人物からの指令書だね」
「サキリさん、差し支え無ければ私にも見せてくれませんか? あ、内容は守秘義務に関わるので良いのですが封を見れば誰によるものかわかりますので」
「あァ、うン。それくらいならいいヨ」
「ありがとうございます。城と竜の紋章…………これを出せるのは、まさか『冒険者対策部門』のザバオート=アーベントイアー・ゲーゲン様から許可証ですか!?」
「疑うわけじゃないけド、本物かイ? どういう経緯でこれを渡されたノ?」
「うむむ、そう言われると困るのだ。手前達もどのようにしてそれを手に入れたのか知らなんだ。親父殿から手渡され、ここに行けと言われただけであるしな」
「親父殿? ということは『天高く聳える至高剣』の創設者の《大包平義忠》本人からかイ?」
「さよう」
「確か、ザバオート様とも親交があるとウォレスのおじ……ウォレス様から聞いたことあります」
「なら本物の可能性が高いかナ……」
サキリはバルバロッサに向き直る。
「あまり言いたくないけど率直に聞くヨ。何が目的だイ? 」
「どうするも何も親父殿には『現地に派遣された調査官と共同で事に当たれ』と言われたのでな。故に手前達は君達との連携を取りたいと思っている」
「俺たちとか? 」
流石に意図の読めない指令に疑問符を浮かべる。許可証があるのならば態々調査官とも手を組まず独自に調べても良いはずだ。
「それが本当である可能性ハ? 実は他の命令があったりしなイ?」
「親父殿に期待を裏切る事など、アダマンタイトが割れるくらいあり得ぬ。断言する。我々はお主達に迷惑をかけるつもりはない」
「…………そっカ、分かっタ。けど、ザバオート様から許可を貰ってきたとしてもさすがに宿場に君達全員を泊める場所はないヨ。音速鳥からそんな連絡きていないから新しい建物も立てられなかっタ」
「それぐらい承知しておるよ。村の外れでテントを立てることにする。当然だが現地民にも迷惑をかける気はない。じゃが、長老格とは対話の場を設けてもらいたい。水の確保や場所を借りる許可を貰わなければならん。それと食料なども交換して貰いたい。無論こちらからも対価を払う為幾つかの道具と嗜好品を持って来た」
「まァ、それくらいなら此方としても文句を言うこともないネ。一応チェックはさせてもらうけド。ワカッタ、後で話を通しておくヨ」
「感謝する」
高位の冒険者でありながら高圧的でなく、誠実な態度のバルバロッサにサキリは好感を抱いた。こういった場面では強気に出る冒険者が少なくないのだ。
後ろの冒険者達もやっと腰を下ろせる事に安堵しているようだ。
ランクが上がるにつれ傲慢な者も増えていくがバルバロッサにはそういった様子は見られなかった。
ベオルフは先程の内容を思考する。
(態々俺達と事に当たるっていう事は先んじて新種を討伐する事が目的ではない……? 共に討伐したという功績狙いか? だが新種と確定でない以上そんな不確実なことに一部隊も戦力を割くなんて迂遠な手を取るか? 住民が脅かされていることから義侠心……からでもないな。ちっ、俺はこういうの考えるのあんまり柄じゃねぇ。考えるのはお嬢の仕事だ。なのにナルシスト男と仲良くしやがって、くそっ)
「さて、さて。手前らはこれから荷の下ろしなどやる事があるからこれで失礼する。ベオルフ殿、明日からよろしく頼む」
「ん、あぁこちらこそ宜しく頼む」
とりあえずはお互い背を預ける仲になるのだ。考えるのは後にしよう。
「……ぬ、シストはどこに行った?」
バルバロッサがシストを探す。彼はピカソと共に少し離れた所にいた。そしてピカソの手には筆が握られていた。これだけでベオルフは嫌な予感がした。
「出来ましたよ! これはもう感心の出来です!」
「こ、これが僕……だと……?」
「はい、この青い瞳とかシストさんそっくりです」
「……はは」
「きゃー!? シストさーん!?」
ピカソの絵にショックを受けたシストが笑顔のまま気絶した。
何やってんだと呟きながらベオルフは慌てて駆け寄った。
村ではここらでは見られない代物との交換で賑わっていた。
『天高く聳える至高剣』からは砂糖や辛子といった調味料を渡し、逆に漁村側からは採れた果実や魚の干物を渡している。
昔ながらの伝統的な暮らしをしている漁村の原住民にあまり他国の影響を与えるのも良くないがこの程度ならサキリも黙認していた。さすがに麻薬など悪意のあるものなら厳しく弾圧するがそう言ったこともなかった。
二人は水上コテージの家の中で遠目にそれを眺めながら話をする。
「一気に人が増えまたね、賑やかになりました」
「まぁ、こちらとしても戦力が増えるなら願ったり叶ったりだけどよ。どーもきな臭くてならねぇ」
「天高く聳える至高剣がですか? 確かにどのような意図があってザバオート家の当主が許可を出して、大隊長さんがバルバロッサさんを送って来たのかは分かりませんけど、これから一緒に調査する仲間なんですから疑がってばかりじゃ駄目ですよ。勿論、全く警戒するなー……とかは言いませんけど」
「まぁ、どの道今は様子見だな。どっちにしても明日一度共同で狩りにでるんだ。そん時に探れば良い……ん?」
遅れてピカソも気付く、
「二人とモ、ご飯出来たヨ」
サキリが土鍋で煮た料理を持ってくる。監視、もとい世話役としてサキリが殆ど側に常駐していた。
良い匂いにわぁーいとピカソは喜び、ベオルフはひゅーと口笛を吹く。木造の円テーブルの上に
「ん? これってアグニ・ナーじゃねぇか?」
ヤドはなく、色合いは青から赤に変わっているが確かに鍋に茹でられているのはアグニ・ナーだった。
「そうだよ。これはアグニ・ナーだヨ」
「でも確か硬い殻に覆われて手出しできないって言いましたよね?」
「確かにアグニ・ナーは堅いけど茹でれば甲殻が軟化して、簡単に外すことが出来ル。それに食用としては身は少ないけどダシとかにすれば絶品だよ。あ、さすがに食べる時は絶食と毒抜きを徹底しなきゃいけないからこうして出せるのは中々大変なんだヨ?」
「へー、じゃあ有り難く頂くとするか」
鍋からよそい、その身を食べる。
ヤドカリとは言え広義で見れば蟹に近いのアグニ・ナーはそれなりに美味なものだった。
「二人とモ、今日の調査はどうだっタ?」
「うーん、この辺りの生態系については大体分かってきたのですけど報告にあった謎の煌く魔獣については何とも……。情報が少なすぎて。痕跡すら見つけられません。あ、そうだ! すっかり忘れてました! サキリさんこの文字って読めますか?」
ピカソは先日見た遺跡に彫られていた文字の写しをサキリに渡した。
「ん……? あァ、これはこの辺りの原住民達とは別の民族が使っていた文字の一種だネ。よく見つけたネ。んー、書物さえあれば解読出来るけど今すぐは難しいかなァ。明日にはこっちの法で調べておくヨ」
「お願いしますね。……おや」
カタカタとお皿が揺れる。規模は小さいが地震だ。
実の所ここに来てからよく起きるのだ。だがそれもすぐに収まる。
「最近、地震が多いな」
「昨日も2〜3回くらい起きていましたよね。
「うーん、確かにここらの諸島には活火山があるけれどもう500年も噴火してないシ、そもそも噴火の兆候ならもっと連続的に地震が起きるはずなんだよねェ。それに付近を調査しても断層のズレとかも一切確認されないから何が原因なのか長老集も首も捻ってるんだけド、とりあえず放置って事になってるんダ。今の所何かあるってわけじゃないしネ」
「何か悪いことの予兆じゃないと良いんですけど」
「ま、今はそんなこと考えても仕方ないだろうよ。……蟹の身もらい!」
「あ! それは私が狙っていましたのに!」
「早いもん勝ちだぜ、お嬢!」
その後の食事は行儀の悪さにサキリにゲンコツを落とされるまで喧しく続いた
シストの由来はナルシストからです。
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