新たな来訪者
夕刻。
今日も報告にあった謎の魔獣は確認出来ず、漁村に戻ってきたピカソ達であったが見慣れないものに足を止めた。
「何だありゃ?」
奇妙な船団が、漁村から離れた岩場に停泊していた。
自分達が乗ってきた船よりもでかい。
「商業の船か?」
「その線は薄いでしょう。元々この漁村は自給自足で成りなってますし、あるとしたらファン・グラプス獣王国からの船ですが旗もありませんからそれも違いますし。ただ、あの武装からして国の軍ではなく冒険者でしょうか? けど……」
「此処には俺ら以外冒険者はいなかったはずだがな」
ギルドからそのような通達は受けていない。
そもそも、冒険者がこの島嶼に来る事自体許可されていないはずだ。
「あぁ、二人とも丁度良かっタ」
「サキリじゃねぇか」
疑問に思っていると外交官のサキリが二人を見つけるなり近寄って来る。
「あの船団に何か見覚えがあるかイ? それか何かアスタファイオス様から聞いてなイ?」
「いえ、ウォレスのおじ……ごほん、ウォレス様からは何のお話もありませんでした。あの船がどうかしたんですか?」
「実はあれ、冒険者達の船らしいんだ。それもかなり立派なネ」
「でも、この場所には許可された冒険者以外立ち入り禁止ですよ?」
「それがネ、他の職員が対応してるけドどうやら許可は取ってるとか何とか言ってネ。私はとりあえず二人に何か知ってないか確認をーー」
「お主らが冒険者ギルドから派遣された調査官かな?」
サキリの言葉を遮るように低い声が聞こえた。
声がした位置はもう少し低い。
深い堀の顔に角ばった鼻。
燃える炎のような赤い髭は顔の半分を覆う程に逞しく生え揃っている。
ずんぐりと樽状しかし見て分かるほど筋肉のガッチリとした体はその身長を大きく通り越す程の武器を携えていた。それはハンマーと斧が融合した無骨な見た目のハルバードに似ていた。更には柄や側面に大小様々な鉱石が嵌められていた。
そして首筋に腕に付けられた冒険者の証であるギルドカードーーそれも7つ。
背後にいる複数の冒険者が掲げている旗は一つの聳える巨大な剣に4つの一回り小さい剣が交錯していた。
あの旗で《7欠月》でハンマーと斧の融合武器を持った人物の事をベオルフは知っている。
一歩前に出る。
「これはこれは。《《7欠月》》『地竜降し』との呼び名を持つベオルフ・ヴァンデルンクであるな。会えて光栄だ」
「こちらこそ《《7欠月》》 『砲撃』と名高いバルバロッサ・ラドフォードにお目にかかれて光栄だぜ」
そう言って不敵に笑う赤髭のドワーフと
《7欠月》。つまりベオルフと同等の冒険者であった。
冒険者には8つのランクがある。仮登録である《無月》から始まり《1欠月》《2欠月》と小さな欠けらが満月になるよう形が彩られていき《8欠月》、通称《満月》が冒険者の最高ランクである。
ベオルフのランクは《7欠月》。例外を除き最高ランクの一歩手前と言う事になる。
だが6欠月と《7欠月》には大きな差がある。これまでチームとして依頼を達成すればランクが上がっていったのと違い、《7欠月》からは単体で"竜種"や"一つ目巨人"といった危険種を討伐する必要がある。それはつまり一線を画した力が必要となるのである。《8欠月》にもなると更に『魔獣の暴走』や『厄災獣の鎮圧』などで優れた手腕や手柄を立てて冒険者ギルドの幹部で話し合い初めて認められる物である。
もう一度言うがベオルフのランクは《7欠月》である。つまり竜を討伐出来たという証明に他ならない訳だがそれが先程の地竜である。地竜は種類にもよるが大抵が身体中が岩などの鉱物に覆われ動きは鈍いがビクともしない硬度を持つ。
精霊魔法の効果も薄く重量級の武器を持ち当て戦う必要がある。ある意味最も肉弾戦での戦いが物を言う魔竜である。
そんな地竜をベオルフは当時発見された事のない新種を初見で討伐した。
当然の事ながら新種と言う事は実力も未知数であり、竜である以上《7欠月》以上は確実。当時はそれで話題になったものである。
「ふむ、如何にも手前は『天高く聳える至高剣』の4隊長が一人であるバルバロッサ・ラドフォードである。よしなしな」
逞しい赤髭を撫でながら、ドワーフ族の男性ーーバルバロッサは話す。
「新種の地竜である"毒岩瘤地竜"を初見で看破し、討伐したとの噂は三年経っても未だに衰える事はない。"毒岩瘤地竜"が通った後の土地は毒で汚染され二度と人の住めぬ土地となる。それを討伐したお主は勇者と並び立つ偉業だと手前は思っているぞ」
「やめてくれ、俺は勇者何ぞと並び立つことなんて出来ねぇよ。勇者は噂じゃ一振りで空を覆い尽くすワイバーンすら斬り裂いたって話じゃねぇか。厄災獣だって一人で食い止めたって聞くぞ。俺にはそんな事出来ねぇよ。それに俺の方こそ『天高く聳える至高剣》の名声は嫌って程聞いたぜ。最近じゃナーシッメ海峡に巣喰う"《渦潮渦巻く海蛇》"を討伐したっていう話じゃねぇか」
「それは『氷撃』と『爆撃』の両者が合同で行った狩猟であるな。手前ではない。だが仲間が褒められるのは悪くない」
天高く聳える至高剣。数あるクランの中でも有名なクランである。強さと筋を通す事を何よりも重要視し、気高きクランだ。
所属人数は300をゆうに超え、大隊長と呼ばれる創設者を筆頭に更に4つの部隊長に分けられ、各地に散らばっている。
部隊長は皆《7欠月》であり、大隊長は勿論《8欠月》である。それだけで人材に厚い事が分かる。特に《8欠月》は数が十人にも満たないのだから。
「所でお主の隣にいるそちらの女子は何である?」
「初めまして! ピカソ・クルマラ・エチルべ・イレルガ・ネンリ・スウニレア・アクリル です! 冒険者ギルド『特殊魔獣魔物対策部』所属の『特殊調査官』でもあります」
「『特殊調査官』……なるほど。『地竜降し』が少女と共にいると言う噂は本当だったいう訳であるな」
「何だ? 文句でもあるか?」
威嚇も込めて睨みつける。
敵対する訳でもないが舐められるのも問題であり、自分は強者であるということを認識させる必要がある。
他の冒険者が圧に怯む中バルバロッサは動じた様子もなく愉快げに口元を緩めながら髭を撫でる。
「いやはや、冒険者という者は自由であるからな。意外に思ってもそれを外野がどうこういうつもりはない。それよりも背後におるのが此処のギルド職員の纏め役で間違いないか?」
「うン、私がここの外交責任者サキリだヨ」
「ならば丁度良かった。話がーー」
「やぁ、お嬢さん。こんな異国の地で君のような可憐な人物と出会えるなど、これはもう運命という他ない」
すいっとバルバロッサの背後にいる十数人の冒険者の中から一人の男がやけに大袈裟な振る舞いでピカソの前に跪いた。
バルバロッサの語源はイタリア語で「赤髭」です。そのままですね。
続きが気になると思った方は是非ともブクマと評価の方をお願いします!
正直、思ったよりも伸びず悔しい思いをしています。是非とも皆様のお力を貸してください!よろしくお願いします!
作者の他作品「【連載版】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した」と「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」の方も投稿しています。
下記より是非ともお読みください、よろしくお願いします!




