ジャングルと遺跡
今年も最後です。
寒い日が続きますが、風邪をひかないようにお気をつけて下さい!!
ギィーギィーと不快な鳴き声がジャングルの中に鳴き響く。
鬱蒼としたジャングルは少し足りとも安定した足場などない。のたうち回った樹の根に邪魔をされる。
ギラギラと照りつける太陽は、 果たしてバルーン街と本当に同じ太陽かと思うほど猛烈な熱さを持ち、肌を焼き付ける。
更には棲息する多種多様、強力無比な魔獣達。
熱帯雨林気候であるズ・ドァーク諸島はこのような過酷な環境であるからこそ、過去この地を侵略しようとした国の兵士を追い返し、そして一部の適応した種族がまた島の一部にしか住めなかったのだ。
「おらぁ!」
≪ブギュッッ≫
ベオルフは"鏖殺する狼牙棒"を振り、星天道虫に似た魔蟲を潰す。同時に苦いような、臭いような刺激臭が魔蟲から染み出す。
顔をしかめるとそれを蹴飛ばし、川の中に放り込むとその場で地団駄を踏んだ。
「だー! あっちぃ!! 魔蟲も鬱陶しい、足場は悪い。草木は邪魔だし、ヒルも引っ付きやがる!! そして何よりこの暑さ!! 暑すぎるだろふざけんな!」
調査を開始してベオルフは何度目になるか分からない愚痴を大声で叫んだ。
暑さ。
風通しと地形の悪さ。
慣れない環境。
どれもこれも獣人のベオルフには不愉快な事だった。汗はベタつき、往来の鼻の良さから嫌な臭いを出す植物や魔蟲が大量にいることにも心底辟易し、苛立った。
最初の頃は仕方ないと諦めてたが、連日続くとそれも限界がある。
さすがに周りに当たり散らすといったことはしないものの魔獣に対しての容赦のなさがそれに現れていた。
その様子に地形を模写していたピカソが呆れた目で見る。
「ベオルフ、その言葉今日で5回目ですよ。そんなに言っても暑さは変わらないんですから諦めて下さい」
「だとしても暑いものは暑いんだよ。見ろよこの汗。……ってまたヒルに噛まれてる! 何回目だよ」
「あー、はいはい。そのまま大人しくして下さいね。無理やり取っちゃダメですよ、傷口が広がりますから」
腕についているヒルを剥がそうとするベオルフを止め、ピカソはバックからこの辺りで採取した塩分濃度の高い樹の葉を渡す。
ヒルは無理やり剥がすと傷跡が残ってしまう。
そのまま葉を絞って出てきた液をかけるとヒルは驚いたように口を離して地面へ逃げていった。
それを見たベオルフが僅かに頭が冷える。
「ありがとよ、お嬢。けどよ、他にも言いたい事はある。食事だ。最初の方はこの村独自の調理法と聞いて物珍しさもあって気にならなかったが、味が薄いのばっかりだし、飽きてきた。濃い味の肉をくれ肉を!」
「こんな島じゃ物資も限られてるんだから、仕方ないじゃないですか。ていうかベオルフさっきから文句ばっかりじゃないですか。それに南国には良いものも沢山ありますよ。ほらこのバナナップルなんて、甘くて美味しいですよー。ね?」
「俺は甘いものは余り好きじゃねぇ」
「もう、ハーニー町の水飴の時は食べていたのに。良いですよ、私だけ食べますから。…んふふ。おいしい」
皮を剥き、バナナップルを頬張る。
嬉しそうなその姿に少し毒気が抜かれたベオルフは怒ってるのが馬鹿らしくなった。
結果的にとはいえピカソはベオルフの怒りを収めるのに成功した。
「それで此処らを調査して何か分かった事はあるのかお嬢」
「ひょうでふね、しゅこしちょうひゃひてわかっひゃことふぁ……」
「口にもの含みながら喋るんじゃない」
「むぐむぐ……こくん。そうですね、とりあえずこの島には沢山の魔獣魔蟲が存在して食物連鎖が盛んなのは間違いないでしょう。食料も豊富でありますからから多種多様な生物達が棲息できて生態系が出来ています。けど報告にあった魔獣は姿形も見えませんね。一応魔獣の通った形跡とかはありますがそれが件の魔獣とは限りませんし」
「跡を追ったらすげぇデカイ蜥蜴の群れだったからな。さすがに無意味な戦闘は避けたけどよ」
「確か"スヴァットイグアナ"って言いましたっけ。この辺りじゃ上位の魔獣だってサキリさんから渡された資料に記されていましたね。出来ればもっとじっくり見たかったのですが……」
「無理だ無理。めちゃくちゃ気が立っていてすぐ襲ってきたじゃないか」
「ですよねぇ……ん?」
ポツリとピカソの鼻に水滴が落ちる。そしてパラパラと小雨が降るとそれは加速度的に量を増し、地面へと雨を叩きつけ始めた。
「やべぇ、雨だ!!」
「わぁぁぁ! 私の絵が濡れて駄目になっちゃう!」
熱帯地方特有の大雨、スコールである。
ピカソは大慌てで自分の描いた絵をカバンに詰め込む。
降り出したスコールはあっという間に勢いを増し辺り一面が暴雨となる。
「ベオルフ、あそこの木の下に行きましょう! 雨が凌げるはずです!」
「わかった!」
一本の樹の下に二人が避難する。
安堵の息を吐く。しかし直ぐにベタついた服が気持ち悪く、不愉快になる。
「はぁ、はぁ。ったくこれで何度目だよ。雨ばっかでちーっとも調査が捗らねぇ」
「山の天気は変わりやすいって聞きますが、ここはそれ以上ですね。熱帯雨林気候特有な現象とは知っていましたが実際に経験すると普通の雨と比べて痛いです。≪水精霊の針筵≫とはよく言ったものです」
「しかも雨降っても涼しくなる訳じゃねぇしな。うへぇ、今度は蒸し暑くなってきた」
「もう、暑い暑い言うから私まで暑くなってきたじゃないですか」
「わりぃ」
タオルで濡れた服を拭く。
晴れるまでこの木で雨宿りしようとする。
「ん?」
不意に背にしてる樹が蠢いた気がした。
「なぁ、お嬢。この木動かなかったか?」
「何言ってるんですか? 動いてないですよ」
「いや、確かに……」
「あいたっ。ベオルフ! 小突かないで下さいよ!」
「は? 俺はそんな事してないぞ」
「え? でも確かに……」
「やっぱ怪しいぞこの樹。おらっ」
「ちょっと、ベオルフ蹴ったって何も……」
疑念から木を蹴って見ると上から骨だけになった魔獣の死骸が落ちて来た。
互いに無言になる。
「……なぁお嬢」
「……なんですか?」
「確かサキリによるとここら辺には『人食いジャングル』って呼ばれる地帯があるって言ってよな?」
「そうですね」
「ところでお嬢、この植物動いてるような気がするのは俺の気のせいか?」
「気のせい……じゃないです!! 上です、上!!」
「うぉぉっ!?」
頭上から木の枝の塊だと思ったものが突如降下する。それを慌てて避けると二人がいた位置に落ちた木の枝の塊が蹴ったら落ちた骨を再度呑み込みそのまま元の位置に戻っていった。
近くの別の樹の下にへたり込む。今度はどうやら魔樹ではなさそうだ。
「あっぶねぇ、魔獣と違って殺気が殆どねぇから直前まで気配が読めねぇんだよな」
「はぁっ、はぁっ……。名付けるなら"ヤドリギダマシ"って言った所でしょうか。殆ど見分けが付きませんね」
サッサッと髪から水滴がキャンパスに垂らしながらも先程の魔樹の絵を鮮明に写す。
こんな時でも対象の絵を描くのはさすがだとベオルフは思った。
「魔獣魔蟲だけじゃなく、魔樹にも気を配らなきゃいけないのか。そりゃサキリの調査も進まない訳だ」
「環境も厳しいですし、漁村以外に人がいないのも納得です。あそこ以外人が住める環境ではありませんよ、ここ」
植物の力が強い此処では、砂浜近くの沿岸部にしか移住地を建てる事が出来なかったのが容易に想像できた。
かの植物を扱う森精人族であれば話は別なのだろうが。
疲れから座り込むピカソ。
するとお尻に根っことは違う固い感触があった。
「んぅ?」
「どうしたお嬢? まさかこの樹も魔木か!?」
「いえそうじゃなくて、座ったらなんか固い感触が……」
「何? 根っこじゃなくてか?」
「はい」
地面を掘り起こすと何から四角い角が出てきた。
蔦や草木まみれだがその下は確かに人工物の石であった。何やら紋様が刻まれている。
「こりゃ遺跡か?」
「遺跡は遺跡でも恐らく≪偽りの遺跡≫の方ですね。サキリさん達の漁村とは別の過去に住んでいた住民のものかもしれません」
ピカソが遺跡の具合を見る。
「ふむふむ……石の風化具合や地質、植物の侵食具合から軽く見積もっても200年以上は前のものですね」
「200年! そりゃすげぇ。あの漁村以外にも住む所があったのか。それもこんなジャングルの中に」
長い月日によって自然に飲まれ、その姿が隠されてしまったのだろう。
「よく見れば確かに似たような物は色んなところに散在していますね……」
樹の下だったり、土に埋もれていたり、砕けてしまったりとしていたが良く観察すると確かに何か人工物らしきものが至る所に存在していた。
「これは少し調べる必要がありますね」
「調査するのか?」
「本来の目的とは少し違うですけど、私の知的好奇心は抑えきれません!」
「ま、そうだろうな。一応罠に注意しながら行くぞ」
途中擬態している魔樹や魔植物があったが警戒していたので危なくなく処理しつつ調査を進める。
絡まった蔦木を力任せに引き裂きつつ前に進む。
今は水が通っていない用水路や謎の絵が描かれた大きい人工物を確認し、その度に模写と地図を写し取っていく。
途中、殆ど植物に覆われていたが入り口らしきものを発見した。
「おいおい、マジで結構大きな遺跡だな」
「それを覆う植物も凄いですね。……いや、これは植物だけじゃなくて、地形が変わっている? 不自然に埋まっています」
何やら不自然な点を感じつつピカソは調査する。
「しかし何の為にこんな遺跡を作ったんだろうな」
「もしかしたらここは誰かの棺桶か何かの施設だったのかもしれません。外にある構造物とも材質が違いますから。ふふらハバトおじさまが居たら喜びそうですね」
「或いはロレンツォか。どの道この場いねぇからな。話したらめちゃくちゃ羨ましがられそうだ」
やがて植物をベオルフを切り裂き内部に入ると暗い空間に出た。太陽の光は入らない。
「ベオルフベオルフ、暗いんで灯り下さい」
「俺精霊魔法得意じゃねぇんだよ。魔力も割にあわねぇしな。≪光よ 灯れ≫」
ベオルフの手の平に拳ほどの光が灯る。
精霊魔法はあらゆる場所に存在する精霊に魔力を渡すことで誰もが使う事が出来る魔法であるが、同じ魔法でも必要な魔力、威力、大きさ、精霊への意思の伝達も全て異なっていた。
精霊魔法教本に載っている初級の≪灯る光≫だがその大きさは記されているのより僅かに小さい。ベオルフが慣れていないのと、親和力が低いことを表している。
基本的に親和力が低いと扱う魔力の量も増える為、割にあわないと一切精霊魔法を扱わないように割り切る人も存在する。
実際ベオルフ含む獣人はどちらかといえば身体能力の強化に魔力を割いている。手慣れているのは獣人の中でも最強に近い鳥種か、闇を見渡す蝙蝠系獣人くらいだろう。
「おい見ろよお嬢! なんかすごく沢山の壁画と模様があるぜ!」
照らされた内部は旧い壁画があった。
光の下、ピカソは軽く壁画に触れる。
「これは文字ですね。見た事ない文字……。ファン・グラプス獣王国の古アンスタン語とも違いますしやはりこの島独自の文字と見て間違いないです。私の記憶にもありませんから」
「とりあえず、模写しとけば良いんじゃねぇか? あと、大まかな位置もな」
「そうですね。帰ったらサキリさんに見せてみましょう。何か知っているかもしれません」
「そうだな」
ある程度で調査を切り上げた。一日で全て調べられるとはピカソ達も思っていなかった。
外に出ると既に雨は止み、何時もの太陽が顔を出していた。
「あれだけ曇って降り出したってのに一瞬で晴れるんだから熱帯地域ってのはわからねぇよな。どっからあの雨の量が出てくるんだよ」
「太陽によって一気に水分が蒸発して、雲を形成しているのかもしれませんね。実際この島は周りを海に囲まれていますから」
「しかし結局遺跡はともかく、例の魔獣は見つからなかったな」
「調査ってのは地道なものですよ」
「そーだけどよ。出来れば俺はこんな暑い所に長居したくねぇんだ。夜も寝苦しくてありゃしない。おまけに小さい虫も鬱陶しい。あー、バルーン街の家が恋しいぜ」
先頭を周囲を警戒しながら話すベオルフにくすくす笑いながらついていく。
しかし、その途中くらりとしたかと思えば倒れてしまった。
(あれ? 何で私倒れてるんだろ?)
それだけじゃなく、何だか目の前がぐにゃりと歪んでいる。
(何か、意識がーー)
毒か。そう思ったが自分は怪我の一つも負っていない。ならばこの島独自の病か何かか。
考えるピカソだったが割れるような頭の痛みに思考が遮られる。
気を失う直前に見たのはこちらに向かって駆け寄るベオルフの姿だった。
ーーすいません、ベオルフ。また迷惑かけちゃいました。
そう思いながらピカソは気を失った。
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正直、思ったよりも伸びず悔しい思いをしています。是非とも皆様のお力を貸してください!よろしくお願いします!
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