太陽照りつける暑き島
忙しさで投稿できませんでしたが暫く書き溜めた分を投稿致します!
気候が変わった。
そう感じ始めたのは船を出てから10日程経った頃だった。今までの乾いた空気から僅かだが湿った空気が混ざるようになった。
更に3日経てば気候の変わりは顕著になり太陽の日差しが強くなり、夜も蒸し暑くなった。
そして合計20日を過ぎた頃、遂に水平線の向こうに大地が見えた。
「獣王国が見えてきたぞ!」
水夫の一人が声をあげた。
その言葉にピカソ達も手摺から眺める。
「やっと着いたのか、あー長かった」
「何言ってるんですか、まだですよ。ズ・ドァーク諸島は此処から更に南に行く必要があるんですから」
「うげっ、マジかよ……あー地面が恋しいぜ」
「もう少しの辛抱なんですから我慢して下さい、ね?」
港には多くの大小様々な漁船が停泊していた。やはりというべきか、獣人が多く見られ、流石のベオルフもテンションが上がる。
その後、港で補給をした後更に2日ほど南に向かい下っていく。
やがて着いたのは遠目からも分かるほど鬱蒼としたジャングルが連なる島嶼だった。
その中でも一番大きな島に船は繋留する。
水に強い木で作った橋に停泊した船からピカソ達が降りると、橋と橋を繋ぐ数ある水上コテージの内の一つから一人の女性が出てきた。
「やァやァ、待っていましタ」
青と緑の髪が混合している癖っ毛の髪に垂れ目がちな目が愛嬌を与える。
肌は健康的な褐色で、服はこの辺りの伝統衣装か見慣れない文字や模様をしている。
腕や足にも木ノ実や貝殻のアクセサリーを身につけている。パッと見現地民と思える格好だが頭に被る帽子が冒険者ギルドの証である刺繍が施されていた。
「初めまして。特殊調査官の方ですネ。お待ちしていましタ」
「初めまして。私が今回派遣された特殊調査官ピカソ・クルマラ・エチルべ・イレルガ・ネンリ・スウニレア・アクリルです! こちらは私の護衛のベオルフ・ヴァンデルンクです」
「よぉ。この島にいる間よろしく頼むぜ」
「はイ、こちらこソ」
「その帽子、もしかしてこの地域のギルド職員の方ですか?」
「はい、アドーニ家当主ダイアローグ様からこの地に派遣されていたサキリ・リクでございます。音速鳥の手紙よりあなた方の此処での生活に不備がないよう仰せつかられています。どうぞ此処での生活では私達をお便り下さイ。……と、堅苦しい挨拶はこれくらいで、短い間だと思うけどこれからよろしくネ」
ニコリと笑う笑みには親しみやすさがあった。差し出された手をピカソが握ると気付く。彼女の指の間には水かきがあった。
「海亀系獣人の方でしたか?」
「正確には人種とのハーフだヨ。ほら背中の甲羅と水かきも小さいし短いでショ? だから純血種とは違って泳ぎも得意とはいかないけド、代わりに精霊魔法もそれなりに扱えるヨ。
暑さにも強いからワタシが此処での連絡員としての仕事についているんダ」
「それはまた、辛くねぇのか?」
この辺りは暑い。ベオルフですら長くは滞在したくないほどに。
しかしサキリはそんな事はないと笑う。
「確かに最初の頃は色々と不便な事もあったけド、今では慣れたものサ。暑さも元々強い方だしネ。それに私もここの雰囲気が好きネ。なんというか落ち着くネ」
「なるほど、天職だった見たいですね」
海亀獣人の血からか非常にサキリにとって非常に過ごしやすい気候であったらしい。
「此処にいる間はワタシが色々とお世話するから何か疑問に思った事があったら言ってネ。友好関係にあるからといって全ての人が友好的とは言い難いから揉める事もなくはないと思ウ。だからその時は仲介も行うから無闇に相手を挑発や反発せず私を呼んでネ」
「ですってベオルフ」
「何故そこで俺に話を降るのかなお嬢?」
「だってベオルフすぐに喧嘩するじゃないですか」
「そりゃ向こうから挑発してくるからだ。売られた喧嘩は買うんでな」
「分かっタ分かっタ。向こうから喧嘩を売って来たとしてもすぐに手を出さないで私を呼ぶ事。これ、厳命ネ」
「はいよ、りょーかい」
「もうっ、本当にわかってますか?」
いつもの漫才をする二人にサキリが苦笑する。
「とりあえず、二人にはこれから長老集に挨拶して貰うヨ。此処に住む以上これは欠かせないからネ。それと村の案内もさせて貰うヨ。私について来テ」
簡単な長老集との挨拶の後、二人は現地の案内をサキリにされることとなった。
因みに長老集によって伝統的な歓迎というものをされたがそれは絞った果汁のジュースを回し飲むというものだった。いかつい男の後に飲むのは遠慮したかったがそれが歓迎の意だというのならば断るのは失礼にあたる。いやいやだがベオルフは飲みきった。
「どうせなら若い女の子のが良かったぜ。うっぷ、おえ戻しそう」
「こんな所で吐かないで下さいよ。吐くなら茂みにでも行って下さい。……サキリさん村の中央ってまだですか?」
「もうすぐだヨ。ここを通れば……ほらついタ」
着いた場所は椰子の木の葉や幹をふんだんに使った家々が沢山並ぶ場所であった。煉瓦で作られたバルーン街の街並みとはまた違った自然情緒を感じられる作りである。
一際大きな椰子の木に酷似した木を中心に天幕を張り、巨大な傘のように村全体を覆っていた。
サキリの服装に似た文字の来た男女もそこら中にいる。男も露出度が高いが女も高い。
ばるんばるん。それはもう動く事に揺れているのが分かる。その光景に気分の悪かったベオルフのテンションも上がる。
「うっひょー、でけぇな。おい」
「この地域じゃジャングルとかに入らない限り、男も女もみーんな局部を隠すくらいの衣装しか着ないネ。皆んな日射で焼けたり虫とかに刺されるほどやわな身体じゃないからそれで充分。厚着もする事はあるけど、ここは暑いしね」
「あんたの格好もそうだしな」
サキリは背中の甲羅を出す為に大きく後ろの布が切り取られうなじから甲羅、背中を伝りお尻の形まで分かる中々に扇情的な格好である。
「甲羅隠すと変な感じすル。君も獣人なら分かるよネ」
「確かに尻尾出しとかねぇと落ちつかねぇしな。そのせいでいろんなものが見えるんだから得なもんだぜ」
「後、あまり鼻の下は伸ばさない方が良いヨ。ワタシはともかく、現地の人は伝統衣装で着ているのであっテ、そういう意味で着ている訳じゃないから失礼にあたるからネ」
「マジか! うーむ、眼福だとは思ったがそう言う目で見れないとなると生殺しだな」
しかし
「むー……」
その隣で面白くなさそうに頬を膨らませている。だがベオルフは気付いた様子はなく、いかに気付かれずに胸部と臀部を注視するかに没頭していた。
「鈍いネ。7欠月の冒険者とでもあろう方ガ」
ぼそりとサキリが呟く。良い加減不機嫌になったのかピカソがぐいっとベオルフの尾を、それも割と強めに引っ張る。
「いてっ、何だよお嬢」
「そんなにおっぱ……胸が好きなんですか?」
「そりゃあな。胸には男の夢と希望が詰まってるんだ。見てしまうのは仕方ねぇだろ」
「見れても触れられなきゃいつまでも届きませんよ。バカじゃないですか?」
「な、なんか辛辣だなお嬢」
「ばかですね」
「何で二回言うんだよ……しかも断定してやがるし」
ぶーたれるピカソと気付かないベオルフ。
その間もサキリの説明は続く。
その最中村の人々と交流して、物々交換が成立した。
村側からは年に一回、それも一本につき一房しか取れない中央のヤシの木の黄金の実と呼ばれる者を酒に蒸留したものを譲られた。
ベオルフ側はピカソと同じぐらいの大きさであるバッフォークの干物と交換した。この漁村でもバッフォークは知られていた。しかし年に一度取れれば良い方でしかもどれもがベオルフが狩ったのと比べてえらい小ぶりである。
その為喜んで交換してくれた。
「ここが砂浜。毎日流木が沢山漂着する。中には珍しいものが辿り着く事もあるヨ」
「珍しい物?」
「途中で沈んだ船の荷物とか、あと人骨」
「やべぇ、綺麗なのに一気に来たくなくなった」
真っ白な砂浜を見ながらゲンナリした表情になる。
その時、サキリが砂浜に落ちてる貝殻を中を確認しながら拾う。
「はイ。知ってるかイ? 貝殻にはある逸話があるんだヨ」
「あ、私知ってますよ! こうして耳に当てることで波の音が聞こえるんですよね」
「おー、良く知ってるネ」
「前に貝殻を買って砕いて絵の具にする際に商人に聞いたんですよ」
「鑑賞用じゃなくて、実用だったのネ……」
「ほぉー、成る程な」
二人の話を聞いたベオルフも当てずっぽうに貝殻を拾い耳に当てる。
目を閉じると聞こえてくる。
波の揺らめく音。
海のさざめき。
そしてガサガサと動く何かの音。
「ん? ガサガサ? いってぇぇぇ!!! 」
耳を何かが挟む。
ベオルフの絶叫に耳に当てる前のピカソだったが手に持つ貝殻からぬっとカニに似た生物が出ていた。
「わっ、何ですかこれ?」
「アグニ・ナーだヨ。別名『浜辺の掃除屋』ここら辺ではよく見る魔蟹の種類だネ」
「貝を背負っているということはヤドカリですか?」
「違うヨ。アグニ・ナー、確かにヤドを背負う。だけど、ヤドカリの仲間じゃなくてヤシガニの一種。確かにカニ科には属しているけどネ。でもヤドカリにない右爪が金槌状なことから別種として扱われていル」
「ほほぅ、それはまた興味深い話ですね。食性とかどうなっているんですか?」
「ンー、確かその金槌状の爪で硬い貝とかを砕いて食べるらしいヨ。他にも魔獣の死骸や木の実、何でも食べるヨ」
「なるほど。掃除屋……つまりは生態ピラミッドにおける分解者の役割を担っているという訳ですね。もしかしてこの浜辺にある貝殻の殆どがアグニ・ナーのヤドだったりします?」
「そうだネ、アグニ・ナーは暑さには弱いから昼間はこうやってヤドに籠るか岩場に引っ込んでるから全てという訳ではないけど大体は入ってるヨ」
二人が魔蟹について華を咲かせてるころ、ベオルフは挟まれた爪を何とかしようと悪戦苦闘していた。
「この野郎!」
ベオルフは無理矢理引き剥がし、思いっきり叩きつける。が、地面が砂場である事を加味してもアグニ・ナーは全く堪えた様子なく、そそくさと足早に逃げ去ろうと動いた。
「無駄だヨ、アグニ・ナーは堅い。生半可な攻撃じゃヒビも入らなイ。生体のアグニ・ナー程になると人よりも大きくなるから右爪はそのままハンマーとして使われ、それは10年経っても壊れないほどの強度らしいヨ」
「んだよそれ、堅い上に此処じゃそれなりの数がいるんだろ? どうしようもねぇじゃねぇか」
「丸呑みする魔獣や魔魚もいるし、そうされたらアグニ・ナーもどうしようもないから大丈夫。それにここには『人食いジャングル』もあるし。そこの肉食植物の消化液にはさしものアグニ・ナーも敵わないヨ」
「なるほどな。次からは釜茹でして食ってやろう」
「まだまだ案内する所はあるからネ。日が暮れる前に全て案内するヨ」
サキリの案内はまだまだ続くらしい。
ベオルフは今だにヒリヒリする耳を抑えつつ溜息を吐いた。
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