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プロローグ

新しい作品です。

他二作と比べると更新は遅いかも知れませんが、どうぞよろしくお願いします。

 商業都市バルーンは今日も熱気に包まれている。道行く人に特定の種族はなく、普人族、獣人族、小人族、鉱人族(ドワーフ)と、皆が思い思いの場所を訪れては、歩き回る。


 その中でも一際活気に溢れている場所が商業都市バルーン中腹部にバザーが開かれている箇所である。

 商業都市という名の通り、地理的な関係によりあらゆる国の交通の要であるバルーン街は様々な国家から商人達が各国から訪れ、


 そんなバザーを少し東に行ったところにある『嘆きの神の泉』。目元を両手でおおい、その手の隙間から多くの水が流れ出る銅像が中心にある噴水である。此処は様々な人々が休憩や待ち合わせ場に使ういこいの場であった。


 その下で一人の少女が筆を片手に絵を描いていた。

 髪色は蜂蜜色(はちみついろ)。金色とは違い、きらびやかに反射するほどではないが鮮やかな黄色は思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。


 顔は幼さを醸しながらも快活とした印象を与える明るい表情をし、容姿が整っていた。

 服装は白を基調とした厚手のワンピースに、襟や裾が青く、更には金色の『旅人の木』と呼ばれる植物を模倣した細かな刺繍(ししゅう)がされている。

 頭には大きすぎるのか、若干斜めになっている学士帽を被っていて何処か幼い印象を受ける美少女であった。

 残念な事に胸は余り成長著いちじるしくはなかった。


 そんな彼女がいそいそと手に持つキャンパスと筆で何かを描き、その度に学士帽の紐が左右に揺れる。

 やがてうんうん唸り、目の前の座っている男性と何度も見比べ、訂正を加えながらやっと納得が言ったのかパッと表情を明るくする。


「完成しました! どうですか?」


 花が咲いた、そう表現するしかないほどの笑顔を少女は見せる。

 男性は少女の描いた絵を見つめそして


「ふざけんな、どんだけ下手くそなんだてめぇ!!」

「えぇ!?」


 罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせ始めた。

 少女は男の言葉にガンとショックを受ける。


「なんだこりゃ、口元のもじゃもじゃは!? 毛虫じゃねぇか!」

「それはあなた様の髭です! 勇ましくも何処か可愛げのある髭を墨で表現しました!」

「これが俺の髭だと!? 顔面の7割が埋まってるじゃねぇか、俺はそこまでボーボーじゃねぇよ! てか何だこの色は! 何で人描いて顔面が青色やら紫色に染まるんだよ! ったく、絵描きだって聞いて期待したのにとんだ期待外れだったぜ」

「あ、待って下さい! お金はいいですからせめて絵は貰っていって下さい! 折角描いたんですからどうかお願いします!」

「はぁ? こんな欲しくもねぇ……、こら押し付けんな! ちっ、後で捨てといてやる。それに金なんか払う気はねーよ、馬鹿が!」


 男は憤り、描いて絵を乱雑に受け取り人々が行き交う雑多の中に消えて行った。


「あぅぅ……また怒らせてしまいました」


 がっくりと項垂(うなだ)れる。道行く人は先程の男の剣幕(けんまく)に何だ何だと顔をしながら男性が持っていた描かれた絵を見て納得した。余りにもひどい。誰も少女に近付こうとはしなかった。

 ぽっかりと少女を中心に円状の見えない壁が広がる。


「……何やってるんだよ、お嬢」


 いや一人いた。

 見るからにたくましい鍛えた体をした20代の男性が少女に話しかける。両肩には魔獣素材や金属を使った防具で覆われ、鍛え抜かれた体格が服の上からでも見て取れる。精悍(せいかん)な顔つきで目つきは鋭く、髪は黒色であった。

 しかし何より目を引くのは彼の頭部と臀部(でんぶ)であろう。頭にはこの辺りではあまり見ない狼系獣人の証たる耳が生え、尻からはふっさりした黒に近い藍色(あいいろ)の尾が垂れ下がっている。


 背には長い柄からまるでたるのように太く幾多の棘が並ぶ狼牙棍(ろうげぼう)と呼ばれる武器を背負っている。


 頭に朱色のバンダナを巻き不揃いな髪があらゆる方向へピョンピョン跳ねている。そんな彼が何処か呆れた様子で項垂(うなだ)れている少女を見ている。

 少女は男性の声に反応して鼻を赤くした情けない顔をしながら上を向く。


「ベオルフ~……」

「勝手に居なくなったと思ったらまた絵描きのマネをして。いいか、お嬢には人を描く技量がないんだから描いたところで相手を怒らせるだけだぞ」

「ひ、酷いっ。私だって頑張ってはいるんですよ!?」

「頑張っても満足されず、あまつさえ怒られたら意味ないだろ」


 ベオルフの言葉に少女はますます落ち込む。穴があったら入りたい気分だ。

 そんな少女の様子をベオルフは頭をガシガシ掻きながら溜め息を吐いた。

 辛辣(しんらつ)な言葉こそ浴びせたが実際彼にだって分かっている。少女の指には沢山のタコがある。女の子の手にしては(おおよ)そ似つかわしくないほどに。

 それだけ努力したのかも、どれだけ真剣に取り組んかも見れば分かる。しかし、非情かな今の彼女にを描く技量はない。


「ほらいつまでも泣いてないで行くぞ。ギルドの方からの依頼を終わらせなきゃいけねぇからな。そうだ、何か甘い物を食べよう。気分転換になるだろうしな。なっ?」

「……飴が良いです」

「お、良いぜ買おうか」

「100個くらい欲しいです」

「多いわっ! 5個にしろ」

「20個」

「…お嬢」

「………ぐすっ」

「分かりましたよ! 13個だ! それ以上は譲らねぇ!」

「わーい、さすがベオルフです!」


 先程とはうって違い諸手を上げて喜ぶ。

 げんきんな姿に呆れよりも微笑ましさが先に浮かぶことから俺も焼きが回ったなと一人愚痴った。


「ほらっ、早く行きましょう。飴が私を待っています」


 彼女の名前はピカソ・アクリル。冒険者ギルド『魔獣調査部門』所属『特殊調査官』と呼ばれる役割を担う若き少女である。

 そしてピカソの付き人であるベオルフ・ヴァンデルンクはそんな彼女をサポートする《7欠月(シェバ)》の冒険者であった。



 この物語は冒険譚でも英雄譚でもない。二人の男女が送る調査録である。



よろしければブクマと評価の方よろしくお願い致します!


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