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海嘯の神獣・下

 ・シキ視点


 ソウさんが俺の名前を呼んだのが聞こえたが立ち止まる事なくに駅に向かう。目的地は港の貸倉庫。


 周りからの視線を耐えしばらく電車に揺られ駅に着いた。着いた頃には外はすっかり暗くなっていた。


 街灯に照らされた道を進み目的地の前まではどうにか辿りつけたが、周りを見渡しても入り口が一つしかない……困ったな。


「おい」


 後ろから声をかけら振り向いた瞬間、頭に強い衝撃が襲い俺はそこで意識を失った。




「……い」


 誰が呼んでいる。


「おい、いい加減起きろ!」


 かなり冷たい水をかぶせられ重たい瞼を開けるとそこにはゴミを見るように見下しているあいつと仲間がいた。


「いっ……!」


 頭の痛みで意識が完全に目覚めた。あいつの側近の腕組んで仁王立ちしている大男に後ろから殴って気を失ったんだ。


「君も懲りないなあー、余程この石が大事なようだな」


 透き通る海の青さを持つ石を俺に見せながら鼻で笑うと仲間も同調して笑い出す。


「当たり前だ! それは母親の形見だ!」


「こいつマザコンかよ、キッモ」


「キモすぎでしょ、あははは」


 怒りが込み上げ腕を動かそうとしたが後ろで縛られて動けないことに気づく。

 どうしようも出来なくあいつらを睨みつけるしか出来なかった。


「なんだその目は!」


「がはっ!」


 仁王立ちしていた大男が腹めがけて思っ切り蹴られ後ろに飛ぶ。その後頭を掴まれ持ち上げられた。


「はぁ……はぁ……」


 痛みでなにも考えれない。こいつを倒す事も、母親の形見も取り返せない。悔しさで涙が込み上げくる。


「おいおい、こいつ泣き始めたぞ」


「まじかよ! マジダッセェー」


「キモすぎ、あははは」


「ふん、醜いな。ほら、どうした? こいつが欲しんだろう? 取り返してみなよ?」


 あいつの言葉で色々な感情が溢れ出て俺は叫んだ。


「うるせいぞ!」


 掴まれ持ち上げられた頭を地面に叩きつけられた。倉庫の中が静かになる。顔だけ上げあいつを睨めつけながら叫ぶ。


「絶対! 取り戻す! どんな手を使っても取り戻す!」


 周りの仲間は一瞬後ずさるがあいつは無表情で見下ろしていた。


「それは無理だね、これは誰にも渡さない。それにそんな機会はない。何故なら君は死ぬからだ」


 あいつはカッターを大男に投げ渡した。大男は受け取るとかちゃかちゃと音立てて刃を出すと俺の首元にに当てた。


「悪く思うなよ、会長に逆らった己を恨むんだな」


「いっ……や」


 刃が首に当てられ俺は死の恐怖で目を瞑った。


「ソウ、さん……助け、て」


 困っていた時や悩んでいた時にアドバイスを貰っていつも助けてくれたソウさんと過ごした日々が走馬灯のように浮かび名前を呼んだ。


「やり過ぎだよ」


 聞き覚えのある声に目を開けた時、大男がものすごい勢いで壁まで飛んでいき轟音と共に壁に衝突した。


 ソウさん以外がなにが起きたのか理解出来ず目を丸くしていた。


「シキ大丈夫?」


「……」


「シキ?」


「っ! はい、大丈夫っす……なんで、ソウさんがここに……」


「これが終わったら話すよ。だから、シキも俺に話してよ?」


 そう言いながらソウさんは血や塵で汚れた髪を撫でてくれた。少し恥ずかしいけど荒れていた感情が落ち着ていくのがわかった。


「さて、さっさと終わらせますか」


 ソウさんは立ち上がりあいつと対面する。ソウさんの背中がカッコよく見えた。



 ・ソウ視点


 隙を見て助け出そうと見定めていたら予想外な事が起きて手配していたら危うく彼が殺されそうになったがギリセーフだ。


「お、お前! なにをした!」


 リーダーぽい子が怒り気味に尋ねてくる。


「なにって、蹴り飛ばしただけだよ?月島高校理事長の息子さんの……確か月島圭一君?だっけ」



「な、なんで僕の名前をっ!」


 事前にアレクに調べてもらっただけだけど言う必要ないね。

 俺は揶揄うように言う。


「秘密」


「き、貴様!!」


 月島くん簡単に挑発に乗ってくれた。


「まぁ、それは置いといて。シキの形見を素直に返してくれると嬉しいんだけど…….」


「はぁ!? ふざけんな! これは僕のだぞ!! 誰にも渡すものか!!」


 もう手遅れのようだ。仕方ないやるしかないか。


「あまり人間の前で力を見せるのは良くないけど、どうせ記憶消すし早くシキの手当したいから特別に俺の力を見せてあげるよ」


 空気中の水分を操り円錐型に形を変え、それを数十個作り空中で待機させる。

 そして、そのうちの1つを壁に向けて撃つと大きな穴ができ、外の景色が見えた。

 息子さんとその仲間たちは顔はだんだんと青白くなっていった。

 追い打ちをかけるように俺は笑顔でいう。


「さて、ここで問題です。壁をも貫通するこの水の塊が君たちに向けられています。どうなるでしょうか?」


 問いかけると1人は震えだし、さらに1人は腰が抜けその場に座り込んでいたり様々な反応するが、月島くんだけは違った。


「そ、そんな事してみろ。ぼ、僕の父さんが、お前を潰すからな!」


 素直に返してくれればいいのに、面倒くさいな。


「それが答えなら仕方ないな」


 待機させていた水の塊を放つ。だが、見えない力で水の塊は届く前に石に吸収される。予想通りな事が起きて俺は盛大なため息をつく。


「そ、ソウさん……」


 足元がおぼつかない状態なのに彼は立ち上がり声をかけてくる。倒れそうになるところで支え肩を貸す。


「無理しないの」


「はいっす……」


「ふっ、ハハ、アハハハハ!」


 壊れた笑い方が聞こえ後ろを振り返ると月島くんの顔は歪んでいた。


「どうした? それで終わりか? 全然効いていないぞ!」


「まぁ、そうだろね」


 形見の正体は海の心って言う特別な石……どちらかといえば宝石かな。その宝石は俺の神殿に祀られていた。内に秘めている邪まな心を増幅させるとんでもない代物だ。

 それに俺の神殿で祀られていたから加護も付いているしで、そのおかげで水の攻撃は吸収される。


「なんだ、と?」


 正直に答える気は無いから俺は適当に言う。


「少なくとも君よりは知っているよ! アレク頼んだ!」


「任せろ!」


 俺の合図で外で待機していたアレクにより、電気が放電され月島くんとその仲間たちは直撃。電気が収まると白目を向けながら月島くんたちは気絶して倒れていた。あれ、大丈夫なのかな?


「アレク、ちゃんと手加減した?」


 そう問いかけると黒い上下のジャージにツンツンした藍色の髪を掻きながら歩いてくる。


「一応したが、コイツらが弱過ぎなんだよ。最近の若い奴は……」


「うーんそういう問題じゃないと思うけど……まぁそれはいいやありがとうアレク! 本当に助かったよ。」


「おう。で、コイツは誰だ?」


 俺に支えられている彼の事をアレクが訝しげに尋ねてくる。


「この子はお店のバイトの子で、海の心の持ち主だよ」


「ふーん」


 アレクはじろじろと彼を見ていた。


「し、シキっす……」


「コイツ、人間か。コイツも気絶させるか?」


 アレクが彼の頭に手を伸ばそうとしたが軽く叩いた。


「そんな事したら……アレクでも怒るよ?」


 真剣な目で聞くと「冗談だ」って言いアレクは手を引っ込める。その時アレクの腹の音が倉庫に鳴り響く。


「腹減った……ディックなんか食わせろー」


「はぁ……わかったよ先に店に行ってて」


「おう」


 アレクは一瞬でその場から居なくなる。残されたのは俺と彼と気絶している月島くんたち。

 俺はダクとライに記憶を消してもらう電話をしたあと海の心を回収するとタクシーを拾い店に戻る。既にアレクはいるようでお店の電気はついていた。


「遅えぞ、ディック早く飯ー」


「シキの手当してから。座って待ってて」


 彼を連れて入室禁止にしている俺の寝室に入る。救急箱持って傷を手当。おかげで彼の身体中は包帯や湿布だらけになった。


「よし、手当終わり。他に痛い所ある?」


「大丈夫っす」


 彼は体を確かめた後答えてくれた。

 俺は救急箱を元の場所に戻してから彼の隣に座った。しばらく静寂が訪れるが俺が先に口を開いた。


「シキ、聞かせてくるれる?」


「はいっす……」


 彼は語ってくれた。

 怪我してお店に来る前、月島くんの鞄に付いていた海の心を尋ねたら拾った物らしく彼は事情を話し返して欲しいと頼んだが返して貰えなかった。必死に頼み込むと100万と交換と条件を出されたが、今の彼ではまず無理な条件。それ以外と懇願したらバイト先から盗めと言うさらに無茶な条件になって抵抗したら一方的に殴られたそうだ。


「それであんな怪我してたんだね。そして取り返しに貸倉庫に行ったと……なんで貸倉庫にいるって知ってたの?」


「生徒たちの間で前々から噂になっていたんすよ。貸倉庫を拠点にして何かをしているって。先生たちも多分知っていたと思うんすけど、黙認していたと思うんっす」


「そうなんだ。そう言えば返してなかったね」


 ポケットに入れていた海の心を彼に返す。


「ソウさん、ありがと……ぐすっ ……ございまっす」


 母の形見を握りしめながら彼は涙を流してお礼を言う。そんな彼の頭を優しく撫でた。

 泣き止んだ後彼に形見の正体を教えた。


「これ、そんな代物だったんすね。あの真面目で成績優秀な月島くんが豹変したのはこれのせいだったんだ……あれ、俺ずっと持っていたっすけどなんも影響なかったっすよ?」


「うーん、まだ推察なんだけど。シキの血筋、母方な方ね。ある人の遠い血筋のおかげで影響されなかったと思うよ」


 ある人って言うのはもちろんマスターのこと。マスターは唯一影響されなかった人間。その血筋なら影響しない。

 マスターに預けっぱなしにしていた海の心が何故か彼が持っていた……てことは、彼も?なのかな。今度召集しないとな。


「おい、ディックまだかよ! もう限界なんだけど!」


「はいはい。シキ、話は後でね。お腹すいたでしょ? 纏めて作るから一緒に食べよ」


「はいっす」


 アレクが部屋に入ってきて話は一旦中止にして全員で移動。パパッと料理を作り少し遅めの夕飯を食べた。


「はあー食った食った。ディックの料理は相変わらず美味いな。腹も膨れたし帰るわ」


「今日はありがとうアレク」


「おう」


 アレクは一瞬彼をみたあとお店から姿を消した。雷と同じ速さで移動しているだけなんだけどね。

 そして再び2人きりになった。


「……」


「……」


 何も話すことなくココアを飲みながら時間だけが過ぎていく。そして掛け時計の針が21時を告げる音が店内に鳴り響く。


「ソ、ソウさん」


 ようやく彼が口を開く。


「ん?」


「あの、俺も月島くんたちと同じように記憶を消すんすか?」


 俺のこと聞いてくると思ったがそっちか。


「記憶を消せば全てなかったことに出来るけど、そうすると辻褄合わせに俺と会わなかった、財布も落とさなかったことになる」


「え、そうなんすか?!」


「うん。決めるのはシキだよ」


 彼は迷っているようだ。

 これは本当のことだけど、自分でも狡い言い方だな。

 まあ月島くんたちは無理を言って海の心関連の記憶だけ消して辻褄が合うよに事象を変えたけどね。


「俺は……俺は消したくないっす。ソウさんとの思い出消したくないっす」


「そっか、ありがとうシキ。嬉しいこと言ってくれたシキに俺の秘密を教えてあげるよ」


「秘密っすか?」


「見てのお楽しみ。ここじゃ狭いから付いて来て」


「はいっす」


 寝室に入り更に奥に繋がっている通路を進み魔法陣に乗り一瞬で絶海の孤島にある屋敷に移動する。


「ここ、は」


「ここは……思い出の場所かな。逸れないようにね」


 月に照らされた見知った道を進みマスターの墓跡に向かう。着くと綺麗になっていた。シンバが綺麗にしたって言っていたっけ。


「ソウさん、このお墓は誰のすか?」


「この墓は俺たち……神獣たちにとって大事な人の墓だよ」


 言った瞬間俺は崖に向かって走り飛ぶ。


「ソウさん!」


 彼が叫んだが俺は微笑みかけた。


「我が名はディック。万物を司る海嘯の神獣なり!」


 俺の周りに魔法陣が浮かび上がり光が包む。

 光が収まると黄金の瞳に白く輝く体長40メートル以上の白鯨に戻り空中を泳ぐ。彼を見ると目を丸くしていた。作戦成功。

 その後、彼を水で包み浮かせ俺の頭部の方に乗せた。


「シキ、びっくりした?」


 そう問いかけるが彼からは反応がなかった。彼の目の前で水の玉を破裂させる。


「うわっ! びっくりした……」


「やっと反応した。びっくりし過ぎだよシキ」


「えぇーそう言われても無理っすよこれは……情報多過ぎて頭が痛くなって気がするっす」


 頭を抑えながら彼は文句を言う。


「……これがソウさんの本来の姿なんすね。大きい過ぎっすよ。それにカッコいいっす……」


「ふふ」


 満天の星空の下しばらく泳いぎ魔方陣に乗り絶海の孤島を後にした。



「洋服サイズ大丈夫?」


「ちょうどっす!」


 あの後時間も夜中になっていた為今晩は泊まることになった。ベッドが1つしかなくお互いに譲り合いあったが結果怪我人の彼が使うことになった。俺は寝袋を引っ張り出して床で。


「電気消すよ」


「はいっす。ソウさん、おやすみなさいっす」


「おやすみ」


 電気を消して寝袋に入る。かなり疲れていたのかすぐに彼から寝息が聞こえた。


「寝るの早いな。マスターも寝るの早かったな」


 首に掛けているマスターから貰った指輪を見つめた。

 

「はぁー……眠い。考えること沢山あるけど、まぁ明日でいいかな」


 瞼を閉じるとすぐに夢の世界へ旅立った。


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