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海嘯の神獣・上

 俺の名前はソウ・エンフィールド。この名前は今代の名前で、本名……ではないけど、マスターからはディックと呼ばれていた。


 マスターが亡くなってから何百年が経ってようやく見つけることができた。

 マスターは今、黄金の神獣ことシンバの執事をしているエルって子に生まれ変わった。

 生まれ変わってまたマスターに会えたことは嬉しいけど、残念なことにマスターは俺たちのことを覚えていなかった。


 まぁ、何百年も経っているんだし、マスターも亡くなる前に言ってたし仕方ない。


 マスターが見つかった事で日本に集まっていた他のメンバーも担当の地区に戻ったり、そのまま新しいことを始める為に日本に残るのとで二つに分かれた。

 俺は前の職場を辞めて喫茶店を始めたから後者の方だけどね。


 まだ5月の初めだと言うのに外は大粒の雨が降っている。おかげでお客さんは今はいない。こじんまりはしているが晴れてれば何人かはいるんだけどね。

 食器類は洗い終わり、テーブルの上も拭き終わって、床も綺麗にして、本格的にやることがなくなった俺は椅子に座ってただ外をボーっと眺めていた。


 しばらくそうしていたら扉に付けていたベルがカランコロンとなり視線を向けると噂のマスターだ。

 雨が強かったようでほとんど濡れていた。それにいつもスーツだが珍しく私服だ。


「いらっしゃい、エル。今タオル持ってくるから待ってて」


「あ、ありがとうございます」


 奥の部屋に行きタオルと洋服が乾くまで替えの服を持っていく。

 エルが風邪を引くとシンバがうるさいからね。


「お待たせ、はいタオルと濡れたままだと風邪を引くからこれ着替え。奥の部屋で着替えてきて」


「ありがとうございます」


 エルは着替えを抱えて奥の部屋に向かった。

 その間に冷えた体を温める特製ブレンドしたコーヒー作っておく。

 エルは苦いのが苦手だから甘めに作っておかないとな、マスターも苦いのが苦手だったな。


「お、おかえり。もうすぐ終わるから座ってて」


 もうすぐで淹れ終わるタイミングでエルは戻ってくる。

 チャチャッと作りエルに出す。

 

「ゆっくり飲んで体温めて、その間に乾燥機にかけておくから」


 エルから濡れている洋服を受け取り洗濯室の向かう。

 かなり濡れていて乾燥機を使っても少し時間がかかるかな。


「仕方ない、力を使うか」


 濡れた洋服を触り水分だけ切り離し空中に集め霧散させた。


「あとはアイロンかけたら終わりだな」


 鼻歌しながらアイロンをかけ洋服を綺麗に畳む。エルに持っていくとちょうどコーヒーは飲み終えていた。


「お待たせ、コーヒーのおかわりいる?」


「はい、お願いします」


 洋服をエルに渡してから空になったコップにコーヒーを淹れる。


「あのソウさん、コーヒー美味しいです」


「口にあって良かったよ。それにしても私服なんて珍しいね〜」


「今日は休みを頂いて養父の墓参りに行ってきたんです」


 エルの育ての父親は去年亡くなったのは知ってるけど今日だったのか。


「そっか。これから家に帰るところ?」


「この後は予定もないのでそのつもりです」


「了解。ちょっと待ってて」


 急いで棚から特製ブレンドしたコーヒー豆を紙袋に入れエルに渡す。


「はい、お土産。シンバにも飲ませてあげて」


「ありがとうございます!」


 エルは乾いた自分の服に着替えてから喫茶店を出て行く。

 また一人になり店内は静かになる。時計見ると17時。閉店まではあと2時間。お客さんくるかなあって思っいたらお店の前の人1人分の幅しかない屋根の下で雨宿りを始める人がカウンターから見えた。

 あの服装は最寄りの駅の近くにある私立校の男子の制服だったかな?


 すぐに居なくなると思ってたがあれから30分ほど、哀愁漂う感じで灰色の雲に覆われていた空を眺めている。仕方ない声をかけるか。


 扉を開け上部に付いているベルがカランコロンなると雨宿りしている人は音で驚く。


「何悩んでるかは知らないけど、そんな所にいたら風邪引くよ? ちょうど暖かい飲み物あるから一緒に飲まない?」


 満面の笑みで尋ねると、お店の中を見回してから俺の顔をみたあと男子高校生が言う。


「ここ、お店だったんすね……すいませんっす、今お金がなくって……すぐ退きます」


「自分用に作り過ぎた飲み物だからお金は取らないよ」


「え、でも……やっぱいい――」


 断ろとした男子高校生のお腹からキューって音がなった。男子高校生は腹を押さえ赤面する。


「夕飯まだなら食べていく? もちろんお金はいらないけど。あ、でも、時間的に家で食べるのかー」


 俺が尋ねると彼は答えてくれる。


「夕飯はまだっす、です。今は1人暮しで……」


「なんだ、そっかーなら問題ないね」


「えっ」


 最後まで言い切る前に強引に手を引きお店の中に入る。そのままカウンターの席に座らせてからすぐにココアをコップに注ぎ彼に出す。


「冷めないうちに飲んでね」


「は、はいっす……いただきます……ん! うっま! こんなに美味いココア初めて飲んだっす!」


一口飲んだだけで元気になったようだ。こっちが素なんだろうな。


「ふふ、口に合ってよかった。とりあえず身乗り出し過ぎだからさ」


「え……あ! ご、ごめんなさいっす……」


椅子に座ると彼はしゅんと項垂れる。


「直ぐ夕飯作るから飲みながら待ってて。あ、おかわりいるなら言ってねー」


「はいっす……」


ハンバーグ定食をチャチャッと作りお盆に乗せ彼の前に運ぶ。


「お待たせ、熱いから気をつけて」


「はいっす! いただきまーす!」


すごい勢いで食べてるな。育ち盛りだから一応大盛りにはしたけどみるみるうちに減っていく……あ、もうなくなった。


「おかわり!」


まだ食べ足りないのか彼はおかわりを要求する。俺は思わず笑ってしまった。


「よっぽどお腹すいていたんだ、ふふ」


「あ……お昼から食べてなく、えっと……名前」


彼に言われ名前すら言ってなかったことを思い出す。


「そういえば自己紹介してなかったね。俺はソウ。この喫茶店の店長をやってる。って言っても従業員は俺1人なんだけどね」


「え! 1人でやっているんすか? すごいっす……」


「そうかな? 結構いると思うけど……まぁ、それより君の名前は?」


「月島高校1年 鯨卧 シキ(いさふし しき)っす。ソウさんの料理めちゃくちゃ美味しかったっす!!こんな美味いのは生まれて初めて食べたっす!! まるで高級なレストランの様な料理っす!」


高級なレストランって……まぁそうなんだけどね。


「料理褒めてくれてありがとう。えっと……シキって呼ぶね。おかわり追加するね」


一旦食器を下げ、料理を追加する。


「まだまだあるから遠慮なく言って」


「はいっす! ソウさんありがとうございまっす!」


更にそこから彼はもう一度おかわりするのだった。



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