黄金の神獣・下
「上から人が落ちてきたぞ!!」
「何あれ、なんかのイベント?」
「てか、あの人傷ひとつない!」
「きゃあ!! あの人カッコいい!!」
屋上から飛び降りて地面に着地すると、事故現場を見にきた野次馬どもが騒いでる。
今、力を解放している状態の俺の聴力は遥か遠くに小銭が落ちても聞き取れるまでになっている。故に、周囲のどうでもいい喋り声やカメラのシャッター音などが騒音に聞こえ俺をイラつかせる。
「うるせぇ……」
我慢の限界を超え、まず野次馬どもを黙らせる為に人間に流れている血に含まれてる鉄分に干渉し、動かなくさせる。
すると、警察の避難誘導を無視し見ている野次馬達が一斉に静まり返る。
警察達は突然の状況に戸惑っているが無視。急がねば。
「道を開けろ」
そう俺が言うと動かなくなっていた野次馬達が端の方に移動し道が出来る。
俺は道路を全速力で走り、消化活動中の消防士の脇を通り過ぎた。
消防士達が「おい、戻ってこい!!」って叫んでいたがそのままの勢いで走り抜け、フロントガラスは割れボロボロになって横転している愛車に近づいた。
しゃがんでフロントを見ると頭から血を流し気を失っているエルを見つけた。
「エル! 今助けるからな!」
愛車のドアを液状化させエルを完全にシートに固定させてから車から離れ、車を空中に浮かせひっくり返してから地面にそっと置く。
エルを固定させていた金属を解き、シートベルトも無理やり外しエルを救出する。
「よかった、まだ息がある……!そのネックレス」
ーードゴーン!!
少し鎮火し始めていた火が流れたガソリンに引火し爆発が起こる。
その時、爆発音に紛れておぎゃおぎゃと泣く赤ん坊の声が聞こえる。
耳を一瞬疑ったがはっきりと聞こえ、エルを抱えて向かうとシートに座っている赤ん坊がいた。
フロントを見るとかなり出血しているがまだ息がある母親がいた。
迫り来る火と煙に俺は力を完全解放することに決めた。
エルを地面に寝かせてから俺は言う。
「我が名はシンバ、万物を司る黄金の神獣なり!」
足元に魔法陣が浮かび上がり光が俺を包む。
光が収まると黄金の瞳と鬣を持つ百獣の王の姿に戻る。
もう何百年、もしくは何千年振りの本来の姿に戻ったことで気持ちが昂り雄叫び上げたくてしょうがない!
「ガオオオオオ!!」
雄叫びのせいで消防士も警察官も野次馬どもも威圧に耐え切れず次々に倒れていく。
……後回しだな。
目線を前に戻し俺は言う。
「我に従え!」
周囲の金属を液状化させ燃えているもの、爆発しそうなもの全てを包み込み黒鉄色の球体がいくつも出来上がり完全に鎮火した。
久しぶりに本来の姿に戻り力を使ったのかどっと疲れが押し寄せ人間の姿に戻ってしまった。
静まり返っている中俺は携帯を取り出し電話をかける。
「皆んな、悪いけど後始末任せるわー」
携帯から文句や罵倒ーー主にタルだけどーーが聞こえる中携帯をそっと閉じ仰向けで空を眺めた。
翌日、世間は特に変わり映えのしない日常を迎えていた。
理由はダクとライの力を使い起こった事象を上書きし世界ごと記憶の改変をしたからだ。
俺が本来の姿に戻り力を使った為、全部を変えるのは大変とのこでダクとライは事故自体は起きたが怪我人はいるが死者なし、俺は本来の姿に戻っていない、事になった。
その事故のせいでエルは入院した為今俺は病室に向かっているところだ。ちなみにあの時の親子も事故に巻き込まれたが母子ともに命に別状はない。同じ病院に入院している。
そんな事を思っているとエルの病室に着き、ノックする。
「エル、入るぞー」
「あ、はい!」
扉を横にスライドさせ入室すると病人服を着てベットの上で食事をしているエルがいた。
「飯中だったか、わるい」
「い、いえ! すぐ食べ終わるので少しお待ちください!」
エルはどんどん口に入れ咀嚼して飲み込む。
「ゆっくりでいいから、しっかり噛んで飲めこめ、な」
「は、はい……」
ゆっくりと食べるエルに微笑み外の景色をしばらく眺めているとエルが話しかける。
「獅子堂様、お待たせしました」
振り返るとエルの口元に米粒がついていた。俺がジェスチャーすると恥ずかしいながら米粒を取り食べる。
「申し訳ございません……」
「気にするな、それで医者はなんて言っていた?」
「あ、はい。明日の診断結果によっては退院出来るそうです」
「そうか……」
体が自然と動きエルに近づき強く抱き締める。
「し、獅子堂、様?」
「よかった、本当によかった……」
突然の俺の行動にエルは困惑している。
あの日の事を覚えているのはダクとライの影響を受けない神獣だけだ。故にエルも漏れなく記憶が改変されている。
だけど、俺は覚えている。頭から血を流し死にかけていたエルを思い出すだけでも胸が張り裂けそうになるのだ。
しばらくしてからエルから体を離しなんとも言えない空気が流れた。
「わるい……」
「いえ、その……」
変な空気になった為無理やり話題を変える。
「あ、あのさエルのそのネックレスは貰い物か?」
エルは懐からネックレスを出し経緯を話してくれた。
「このネックレスは子供の頃から大事にしているネックレスです」
「両親から貰ったのか?」
「かもしれません……」
エルは寂しそうに答えた。
「僕には……本当の両親の記憶がありません」
「どういう事だ?」
エルは語ってくれた。
一族の長の息子が、修行の旅に立ち寄った街の路地裏で拾って育ててもらったそうだ。
ある程度成長してから真実を教えてもらったあと長の息子が押し通して正式な書類にて養子になった。
「てことは、そのネックレスは両親の形見か」
「たぶん、ですが」
「そうか、話しくれてありがとな」
その時、携帯のバイブが鳴る。
「わるい、そろそろ会社に戻るわ」
「あ、いえ! 今日はお見舞いに来ていただいてありがとうございました!」
「おう」
エルに手を振り退室する。そのまま地下の駐車場に向かい車に乗る。
「真実を話さなかったんだねシンバ」
後部座席からディックが話しかけてくる。
「……まぁな」
エルが持っていたあのネックレスは俺がマスターに渡したこの世に一つしかないネックレスだ。それを持っているってことはマスターの生まれ変わり、もしくは血筋の者になる。
マスターの遺品を整理した時には唯一見つからなかったネックレス。俺はてっきり無くしたと思っていたが、まさかエルが持っていたとは驚きだ。
「エルの出自調べる?」
ディックの問いに対して俺は首を横に振る。
「そっか……わかった。じゃあエルはシンバに任せるね!」
「おう」
「任せたからね、皆んなには俺から伝えとくよ」
「頼む」
ディックは微笑みと体を霧状にして窓の隙間から出て行く。
「車で送って行くのに……」
俺は車を走らせ駐車場を出る。
そのまま、会社で要件を済まし自宅の部屋にある絶海の孤島に転移出来る魔方陣に乗りマスターの墓跡に行く。
「何百……いや、何千年ぶりだなマスター。やっと見つけたよ。今はエルって名前で俺の執事として働いている。こんな近くにいるなんてなぁ、想像もしなかったぜ」
墓跡に花束を乗せ俺は立ち上がる。
「エルは普通の人間だから別れはあっという間に来てしまうかもしれないけど、だから俺はその日が来るまでエルを大事に見守る事を誓うよ。……なんか辛気臭くなったな、そろそろ行くわ」
月明かりに照らされる道を歩きながら変わらない日常が終わり変化が訪れる明日からの日常に期待しながら俺は魔方陣に乗るのだった。