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黄金の神獣・上

 あれからもう何年経ったかわからない。

 五〇〇年が過ぎた辺りで俺は数えるのをやめた。


 ん?俺が誰かって?今の名は獅子堂剛志。マスターにはシンバと呼ばれていた神獣の一柱だ。


 俺たちは人々が世代交代をすると姿や名前、職業、経歴などを変え人の世に順応してきた。

 世界からは魔術は衰退していき魔術師の人口もかなり減った。

 だけど、魔術師たちは絶滅はしていない。彼等は世界の裏側にひっそりと暮らしている。たまに、占い師と名前を変え表側でやっている者もいる。

 そして、魔術の代わりに科学が発展した。昔は自然が圧倒的に多かったが、今では自然は少なくなり高層ビルが世界のあちこちでそびえ立つ。

 移動手段も劇的に変わった。昔は馬車や船など何日もかけて移動していたのに、今では車や電車ですぐ目的地に到着できるようになったし、人々は飛行機を作り出し空も飛べるようになった。


 まぁ、俺たちが少しだけ干渉したんだけどね!

 干渉って言ってもちょっとヒントを出したり、ちょこっと手伝ったりぐらいしかしてない。過度の干渉は人間をダメにすると理解しているからだ

 何故干渉したか?そりゃもちろんマスターのためだ!

 いつ何処で生まれ変わるかわからないのだ。なら、何処で生まれても平気なようにしただけ。


 まぁ、それは一旦置いて話しを戻そう。

 今だにマスターは生まれ変わっていない。

 いや、正確には生まれ変わっているかもしれないが俺たちが見つけれてないだけだ。その対策に俺たちは世界各地を世代交代したら担当を入れ替え、探すことにした。

 そして、俺は今回アジア圏を担当。現在いる場所は日本の六本木、とある高層ビルの最上階を拠点にして仕事の書類を確認している所だ。

 仕事は大手企業の代表取締役社長をしている。どうだ?凄いだろ!

 ちゃんと正社員から入り、社長の座まで上り詰めたのだ!マスターの為なら俺は全力を出せるのだ!


 トントン。


「獅子堂様、お茶をお持ち致しました。失礼します」


 そう言い執事服を着た黒髪の青年がお茶を持って部屋に入る。

 彼の名はエルヴィン――俺はエルと呼んでいる――形式上は俺の執事として雇っている。彼の一族は長い間俺を信仰している一族で、俺が人の世に生きると決めた時から代々仕えてくれている。


「本日はハーブティーでございます」


「いつもありがとうな。いただくよ」


 匂いを愉しんだあと一口飲む。……美味い。疲れきった身体に染み渡るのを感じる。


「エル、午後からの会議は何時からだ?」


 エルは懐から黒革の手帳を取り出し確認をする。


「二時からでございます」


 時計を見ると針は十二時を指している。ここから本社までは大体一時間ぐらいだ、ちょうど区切りもいいし支度するかな。


「エル、昼食の準備をしてくれ」


「かしこまりました」


 エルは一例して部屋を出て閉めようとその時、備え付きインターホンが鳴る。

 今日は特に来訪者の予定は無い。しかも、郵便物は一階にある管理室で一旦預けられてから取りに行くシステムだ。直接この部屋まで来ることはありえない。この階まで来れているって事は来訪者なのはわかるが一体誰だ?俺が忘れてるだけか?


「今日は誰も面会予定はないよな?」


「はい、そのはずですが……確認して参ります」


 インターホンが間無く鳴り続ける。

 なんとなく誰かわかった。こんなことするのはあいつぐらいだ。


 予定ある日突然くんじゃねーよ、たく……。


 その時、玄関からドゴーンと音がした後、物凄い速さで扉がエルに向かって吹き飛んできた。


「はっ!」


 俺はエルを守る為に力を使い、特殊な液体金属でエルを包み衝撃を吸収し事なきを得る。


「無事か、エル?」


「はい! ありがとうございます!」


「とりあえず、俺の後ろにいろ」


「はい!」


 エルは小走りで俺の所に向かい後ろに隠れる。そして、一人分の足音がこちらに近づくのが聞こえた。

 俺はそいつに対して文句を言う。


「おい、扉を壊さずに部屋に入れないのかよ!」


 煙が晴れ、そこには深めの緑の髪に紳士服が異常なほど似合う(褒めたくないが)男性が姿を現わす。


「あなたがさっさと開けない方が悪いんですよ、アホノロライオン」


「はぁ? 俺の執事が直ぐに開けに行こうとしたわ!そしたら扉が執事に直撃しそうになるわで、どう見てもお前が悪だろ!」


「無事ならいいじゃないですか!」


「そう言う問題じゃねぇ!」


「五月蝿いですよウスノロライオン」


 この傍若無人の自分優先の正体は……俺が最も相性が悪い神獣のタルだ。


「この部屋、埃っぽいくて空気悪いですね、ちゃんと掃除してます?」


「ちゃんとしてるわ! お前が原因だろうが!」


「それよりも、あなたの執事はお客にお茶も出さないとは……ちゃんと躾ているんですか?」


「……おい、タル。俺の事は別に構わない。俺の執事をバカにするならお前でも許さないぞ?」


「なんだ、まだそんな目ができるのですね……まぁ、あなたを揶揄うのはここまでにしましょう。今日はあなたに、大事な話をお持ちしました」


「大事な話しだと?」


「ええ、大事な大事な話しです」


 時計を見ると針は三十分進んでいた。

 午後からの会議に遅れる訳にはいかない、さっさと話しを聞くか……。

 俺は怒りも収まり盛大に溜め息をつく。


「エル、お茶を頼む」


「は、はい! かしこまりました!」


 後ろに隠れているエルに頼み、直ぐに俺とタルの分のハーブティーが用意された。


「うーん、いい匂い。それに味もいい……あなたいい腕をお持ちで」


「あ、ありがとうございます!」


 嬉しいそうにお礼を言うエル。

 おかしい、タルが他人を褒めるなんて有り得ない……。


「エルはやらねぇぞ」

 

 タルは長い間、笑顔で俺をみる。そして小声でちっと舌打ちをした。


「はて、なんのことでしょう?」


「こいつ……はぁ……それで大事な話しってなんだ?」


 タルはティーカップをテーブルに置き真剣な顔になる。


「もちろん、マスターのことです」


 タルの言葉に目を見開いて驚く。


「本当なのか?」


「何故私が遠路はるばる東京に来てまでそんなくだらない事しないといけないですか? これだから脳筋バカライオンは」


「いいから答えろ!」


「はぁ……これだから。草木越しだったので詳しい場所はわかりませんが、マスターの魂を感じたのはあなたが担当しているアジア圏、それも日本です」


 マスターが日本の何処かにいる。そう思うだけで俺の心が満たされて行くのを感じた。

 何年、何百年探しているのに見つからず、心の何処かで諦めかけていたのだ。それがやっと一歩前進したんだ、満たされないわけがない!


「わかった、俺の方で探してみる。ありがとうタル。この事はみんなは知っているのか?」


「ええ、すでに伝えてありますよ。バカにしないでもらえます? あなたじゃあるまいし。それと何人か日本に来るそうですよ。まぁマスター探しはあなたたちに任せて私は観光にでも行ってきます。では」


 タルは立ち上がると身体を無数の木の葉に変え、部屋に吹く風に乗り窓から出て行く。


「マスターが見つかったりそうな時にあいつは……はぁ……まぁいいさ、俺が必ず見つけてみせる」


 俺は手を掲げて誓いを立てる。

 その時、空になったティーカップを下げに来たエルが言う。


「あの、獅子堂様。そろそろお時間が……」


 そう言われ時計を見ると一時だった。


「やば! エル、車を用意してくれ!」


「あ、はい!」


 俺とエルはタルよって壊された扉をそのままにし会社に向かうのだった。




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