帰還者ZERO -真夏の調査隊-
我々は、毎年夏になると調査隊を送り出す。
これは、ある星にたどり着いて以来、繰り返されている、ある生命体の物語。
「ブラウン・スリーついてこい、地上の状況を確認するぞ」
私はブラウン・スリー。
何年もの長いあいだ、厳しい訓練を受け、ようやく今期の調査隊員に選ばれた。
この調査に出た者は誰も帰還していない。けれど、そのことを不安に思うことは無かった。なぜなら、調査する目的地は楽園と呼ばれているのだ。みな帰るのを忘れて暮らしていると噂で聞いている。
隊長に呼ばれた私は、あとについて穴を登っていく。
隊長が穴の出口からゆっくり顔を出して、360度周囲の状況を確認している。
「よし、いい夜だ問題ない、そっちはどうだ?」
私は宇宙服の中に表示されている、大気の分析情報を確認していた。
「環境、すべて基準値内です」
「よし、決行するぞ」
隊長は仲間を呼んで合流し、それぞれが目指す位置などを確認していく。
そして、確認が済むと、隊長が振り向いて告げる。
「よし、いくぞ」
隊長が勢いよく穴を出て周囲を確認しながら叫んでいる。
「ゴーゴーゴーゴー! ぐずぐずするな! 走れ走れ!」
私達は穴から出て指示された目的の場所へと向かって全力で移動した。
重い宇宙服を着ているので速くは走れない。
目的の場所は高い場所だが、問題ない。
この日のために何年ものあいだ、地下の宇宙船内にある訓練施設で、鍛えてきたのだから。
そして、長い時間が過ぎ、目的の場所について、隊長の指示をまっていた。
「ブラウン・リーダーより各員へ状況を送れ」
「ブラウン・ツーツー配置完了」
「ブラウン・スリースリー配置完了」
「ブラウン・フォーフォー配置完了」
「よし、宇宙服を脱いで飛行準備を始めろ!」
私は、宇宙服が壁面にしっかり固定されているのを確認してから、背中にあるファスナーを開いて脱ぎはじめた。
頭を引き出し、腕を抜いて、前足を引き出してから、後ろ足を引き出した。
そして、ゆっくりと翼を伸ばす。
朝日が出ると隊長から連絡が来た。
「みんな、準備はいいな」
準備良しと、順番に返事を送る。
「よし、出発だ!」
私達は、翼を広げ移動しながら調査を始めた。
他の宇宙船からも多くの仲間が調査に出ている。
私達は仲間達との交信を昼夜問わず続け、情報交換を行っているのだ。
*
夏が終わっても、調査隊は誰も帰ってくることがなかった。
地中にある宇宙船内では、新たな隊員が生まれている。
厳しい訓練を受け、また夏が来ると選抜された調査隊員達が地上へ向かう。
これは、地球にたどり着いて以来、繰り返されている、蝉と呼ばれている生命体の物語。
帰還者ZERO ~真夏の調査隊~
タイトルだけは、ちょっとカッコイイかな~って思ってます。
ヒューマンじゃないけどヒューマンドラマじゃダメかな?
現実の模倣でもパロディなのかな?