輝く原石
≪輝く原石≫
アイドルとは、「偶像」「崇拝される人物」「あこがれの的」「熱狂的なファンをもつ人」。
成長過程をファンと共有し、存在そのものの魅力で活躍する人物を指す。
キャラクター性を全面に打ち出し、歌、ダンス、演技、お笑いなど幅広いジャンルで活躍する。
「アンコール!アンコール!!」
「アンコォルゥ!アンコォルゥ!!」
たくさんの人々の大きな声がとても広い会場に響き渡る。
汗は拭いても拭いても垂れてきて、鼓動も早く、足も限界に近いほど疲れ、震えている。
「ちさき!!ちさき!!ちさき!!」
数分経つと掛け声は一人の女の子の名前を呼び始める。
「みんなー!アンコールありがとー!」
そして私はその大きな会場の一際輝くステージの上に立ち、踊り始める。
「ちさきちゃああああああん!」
「アンコールでまさかのラブピタきたああああああ!」
細くてガリガリの男の人や、太くて息をするのも苦しそうな男の人、アイドルなんて興味なさそうなギャル男や、見た目に気を使っていない女の子、どっちがアイドルだか分からないほど着飾ってきている可愛らしい女の子、色んな人がいて、色んな動きや掛け声で喜び、楽しんでくれている。ここにいる皆んなが私を好きでいてくれて、応援してくれている。そう実感しながら私は最後まで歌い、踊り続けた。
私は国民的アイドル「ちさき」。本名は安達早希。
小さい頃からアイドルに憧れて、4歳の頃から子役として活躍し、13歳からはアイドルとして路上や小さい会場で地道に活動し続けて、21歳の今、国内最大の客席数と言われている会場を満員にすることができる程になった。
フリフリのお姫様みたいな可愛らしい衣装を着て、キュートな踊りや歌、ビシッとかっこよくクールな踊りや歌までこなし、演技もできて、笑いも取れる、たくさんの人を笑顔にするアイドルは幼い私の心を一瞬で鷲掴みにした。
そして私は今、そのたくさんの人を笑顔にするアイドルになれたのだ。
休みは1か月に1日程でほとんど寝る間もなくレッスンや収録やライブなどお仕事に勤しんでいる。
ものすごく大変だけど、ものすごく充実している。
私はアイドルではあるが、アイドルオタクでもある。
よく知られているアイドルも、そこそこ知られているアイドルも、あまり知られていないアイドルも、頑張って歌って踊っているアイドルは皆んな大好きで、仕事の合間や休みの日は他のアイドルのライブや握手会等のイベントに行く程だ。
「はぁ〜!今日のライブも最高だったー!」
「お疲れ様。本当にいいライブだった。やっぱりちさきは最高のアイドルだ。」
ライブ終演後に余韻に浸りながら伸びをしていたらマネージャーの津村さんが話しかけてきた。
「ありがとうございます!津村さんやたくさんの方々の支えがあってこそです!」
「それもあるかもしれないが一番はちさきのアイドルへの想いの強さだよ。本当にここまでよく頑張った。そしてそんなちさきに、いい知らせだ。ニューシングルとベストアルバムの発売、更に大人気コミック<空に歌う>の実写映画の主演と主題歌担当、そして更に、ちさきプロデュースのファッションブランド立ち上げも決定した!」
「え?」
言葉を発するより先に嬉しくて涙が溢れてくる。
「嬉しいです。本当に…頑張ります!!」
ライブ会場を後にして、マネージャーに自宅近くまで送ってもらい、帰宅した。
一通り準備を終えて、ベッドに横たわる。
今日のライブも本当に最高だった。皆んなの楽しそうな顔、目を閉じると浮かんでくる。
それにこれから決まったお仕事。初めて挑戦することも何もかも楽しみで仕方がない。
また色んな形で誰かを幸せな気持ちにさせることができるんだなぁ。
本当に幸せだなぁ。
もっともっともーっと頑張ろう。
私はワクワクしながら眠りについた。
「_きてくだ_ねぇ_ぶ?」
何だろう。知らない女の子の声がする。なんて言ってるかは上手く聞き取れないけど、すごく心地いい綺麗な声。
「はっ!」
私はそろそろと重たい瞼をあげた。今何時だろうと周りを見渡そうとすると…
「あ。起きたんですね。良かった〜。死んじゃったんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたんですよ〜。」
何故かそこには全く知らない女の子がちょこんと座っていた。誰だ?というか…めっちゃくちゃ可愛い!アイドルでいたら顔面派と言われようが何だろうがもう推しに推しまくる!
て…あれ?
「ここ…どこ?」
周りをよく見てみると、知らない女の子がいるどころではなく、全く知らない景色が広がっていた。私の部屋じゃないしそもそも今まで見たことないような…体育館ではないよね…訓練場みたいな…ここはどこなんだ…?何県?それよりなんか…声低いような…そう思って自分の身体に視線を向けてみると…
「あでぇ?!」
明らかに太くて硬い太もも、28cmはありそうな大きな足、私が普段着ないような謎の服、そして何よりお股に何かぶら下がっているような感覚。
「お、男の人になっちゃってる?!」
「頭ぶつけておかしくなっちゃったんですね…他にも痛いところとか無いですか?本当にごめんなさい…どう償ったらいいものか…」
私が何でか男の人の身体になって驚いていると、見知らぬ美少女はとても申し訳なさそうに話しかけてくる。
「えっと、あの、痛いところはないから大丈夫だよ。それより、ここがどこなのかと貴方は誰で、どうしてここにいるのか教えてほしいな…」
「へ?!痛いところがないのは何よりですが…私は煌笑美。16歳で、西グループ専属の砲兵です。ここはブラギの中心都市西部で、西グループ管轄の訓練場A-3。私がここにいるのは訓練の為です。」
砲兵だとか西グループだとか訓練だとか…何を言っているのかサッパリだけど…笑美ちゃんの表情や声色からして、冗談ではなさそう…だよね…
「あの…うーん…私は誰だろう?」
「えっと…響さん…響渡さんです。響さんは東グループ専属でしたが、何かしらの事情で近いうちに西グループへ移るということで、本日は訓練の見学にいらしていたのですが…その、私がちょっと…気の抜けたところを見られてしまって…回し蹴りを…」
うむ…よく分からないけど私、最近アニメや小説で流行っている異世界転生的なものをしてしまったのではなかろうか…ブラギとか聞いたことない国名だし…
「あの…響さん…本当に大丈夫ですか?やっぱり打ち所が悪かったり…医務室までお運びいたしましょうか?」
笑美ちゃんは可愛い顔をくしゃっとさせながら心配そうに顔をのぞいてくる。
「だ、大丈夫!心配させちゃったね!ごめんね!色々教えてくれてありがとう!」
「いえ。私の方こそ本当に失礼致しました…。もし身体に違和感等ありましたら、すぐに教えてください…猛スピードで医務室までお運びいたしますので。」
体中違和感感じまくりだけども。というか、なんだこの子は。天使か。アイドルだったら財産尽きるまで貢いでしまうぞ…。なんてことを考えていたら笑美ちゃんはペコペコと頭を下げながら、どこかへ去っていった。
さて…ここからどうしたものか…色々と気になること分からないことがあるけど…とりあえず…
「なんだってー???!!!」
アイドルが…いない…だと…
私はまずこの世界にはどんなアイドルがいるのかな〜なんてワクワクしながら通信機器を見つけ出し、探してみたのだけれど…
なんとこの世界にはアイドルはいなかったのだ。
歌手はいるが、皆棒立ちもしくは弾き語りスタイルで歌って踊る人はいないし、歌手で演技をする人もいない…ただただ歌を歌っているだけで、個人のキャラクター性なども何も分からない。知るすべがない。確かに歌は偉大だけれど、やはり歌って踊って演技もして笑いも取って…色んな面で魅せてくれるアイドルの存在を知っていると、どこか寂しさを感じる。
「あれ、響さん!またお会いしましたね。」
この世界にアイドルが存在しないことを知ってぐったりしていると、私の推しアイドル(勝手に言っているだけ)笑美ちゃんが現れた。
「笑美ちゃん!!」
「えぇっ?!ひっ響さん…?お疲れですか?」
「この世界は一体どうなってるの…アイドルがいないなんて…歌手はいても皆棒立ち弾き語りに歌以外の性格とかも何も分からない…」
「あ…いど?よく分からないですが、歌手の皆さまは偉大ですよね。この争いばかりの世の中で、人を癒すことができる素敵な歌声を届けてくださって。」
笑美ちゃんはものすごく優しい表情でそう言った。
そうか。この世界では歌手はただ歌うということでしか普及していないだけで、それだけでも人を癒すことだってできているのか。それでも…歌が癒しになるなら尚更…
「私も、その、昔から歌手には憧れていて、何気なく練習したりしているのですが…中々その…人に聴かせることができるレベルには至らなくて…なので、とても素敵な歌声を届けてくださっている歌手の皆さまのことすごく尊敬しています。」
笑美ちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。
「笑美ちゃん…歌手になりたいの?」
「歌手になって皆んなを癒して、笑顔にすることができたらいいなーと思ってはいるんですけど。あくまで夢物語というか…本当に音痴ですし…それに…」
笑美ちゃんはどこか寂しそうに遠くを見つめる。でも、私は知っている。あまり歌が上手くなくても、その人にしかない良さを引き立たせて、皆を魅了するアイドルがたくさんいることを。
「ねぇ、笑美ちゃん。アイドルになってみない?」
「へ?あの…アイドル?ごめんなさい…私…そのアイドル?ってどんなものなのか存じ上げなくて…」
「アイドルはね、偶像、崇拝される人物、あこがれの的、ファンと一緒に成長していく、存在そのものの魅力で活躍する人のことで、歌やダンスや演技やお笑い、色んな面で幅広く活動して、人々を魅了していくの。分かりやすく言えば、歌手、踊り子、役者、芸人全てに挑戦できる。自分のいいところを見つけやすいし、アピールしやすい。」
「す…すごいですね…でも、私歌は上手くないうえに、踊りも演技も経験したことがないですし、面白いことも言えないですし…」
「大丈夫だよ。全部ダメダメでも、たくさんの人に応援してもらえるアイドルもいる。なんでだと思う?」
「んー…何でしょう…諦めない姿…とかでしょうか?」
「あたりっ!そうなの。諦めないで頑張る姿。自分の子供の成長を見守るような気持ちだったり、支えてあげたいという気持ちだったり。中には顔面派とか言って容姿が好みで彼女にしたいとかいう人も多々いるけれど。でも、どれもアイドル自身にやる気を感じられないとそもそも生まれない気持ちだと私は思ってる。」
「なるほど…奥が深いのですね…」
「そうなの!本当にアイドルって最高なの!ということで、顔も可愛くてスタイルもいいし、芯も強そうな笑美ちゃんに是非アイドルになってもらえたら、アドだな〜って。」
「あど?そんな、私別に可愛くなんかないですし、体もゴツゴツしてますし。」
「ゴツゴツ?どれ…」
「ひぇ?!ひ、ひひひひひ響さん!!??」
私は笑美ちゃんのシャツを胸下まで捲り上げ、じっくり観察する。パッとみた感じでは程よくスラリとしていてゴツゴツした感じはないけれど、確かにほうほう、腹筋は綺麗に割れていて、まるで板チョコ…
「おい、響渡。」
私がしげしげと笑美ちゃんの腹筋を観察していると、低い声がどこからか聞こえてきた。
「なんだ…」
声のした方へ目線を向けると、178cmはありそうな長身のキリッとした女の人が仁王立ちしてこちらを睨みつけていた。
「なんだ…ではない、貴様、うちの可愛い笑美に何をしている!!!」
「?!」
言われてすぐに気付いた。そういえば私、今男の人になってるんだったーーー!!!
「ごめんなさい!その、私、そんなつもりじゃ…」
「私だぁ?!お前はいつからそんなナヨナヨした喋り方になったんだぁ?!よっぽど動揺しているようだなぁ。」
長身の女性はキリキリとこちらへ詰め寄ってくる。
そっか…男の人の身体になったのに私のまま喋ってたらそりゃ変だよね…笑美ちゃんはきっと優しすぎて変だとは言えなかったんだろうな…
「とにかくお前は調教部屋行きだぁぁぁぁ!!!」
「あ、あの、待ってください!!!」
私が長身の女性に無理矢理連れて行かれそうになった時、笑美ちゃんが今までのほんわかした喋りからは想像できないほど、しっかりはっきり大きな声で静止を促してきた。
「なんだ、笑美?」
「響さん、先程私がその…思いっきり回し蹴りをかましてしまって。それからちょっと記憶が曖昧になっていらっしゃるようで…なので…やましい気持ちでとかじゃ…ないと思う…ので…私は…気にしない…ので…」
笑美ちゃんは申し訳なさそうにもじもじしながらそう言った。
「ほう…記憶が曖昧ねぇ…そういう演技で同情させてお前をとって食ってやろうと思っていたのではないか?」
「なっ。違う!本当にわた…俺は記憶が曖昧になってて…貴方の名前も分からない。」
「馬鹿な。冗談だろう?」
「冗談じゃない。本当だ。ちなみにこれからどこへ帰ればいいのかも分からない。」
「…本当だな?冗談だと分かれば貴様の命はないと思え。」
「あぁ。」
長身の女性は私の腕を掴んでいた手を離し、誇りを落とすように手をパンパンと叩いた。
「私は西グループ専属リーダーの剣士。宇宙金糸雀だ。貴様がここに移る際に当主に面倒を見てやれと命令された。会うのはこれで6回目だが、この西グループ内では最多であろう。」
「信じてくれてどうもありがとう。」
「それはいいとして、何故、笑美の服を捲り上げる事態に至ったのか説明をしてくれ。」
「その、笑美ちゃんにアイドルにな…」
「笑美ちゃんだぁ?!いつの間にそんなに仲良しこよしになったんだ?」
金糸雀さんにものすごい人相で睨みつけられ、改めて気付く。アイドル相手みたいな感覚で自然と名前にちゃん付けして呼んでいたけれど、確かに知り合ったばかりでいきなり名前にちゃん付けしてくる男の人って中々チャラくさいというか不誠実というか…
「わ、私は大丈夫ですよ!ちょっと恥ずかしいですけど、グループ内ではあまり名前で呼ばれることもないので嬉しいですし!」
笑美ちゃんは照れ臭そうに笑いながらそう言ってくれた。本当に優しい子だなぁ…。
「…笑美がそういうなら私は何も言わないが。それで…何故捲り上げた?」
「その、笑美ちゃんにアイドルになってもらいたいなと…」
「アイドル?何だそれは?やましいことではなかろうな?」
「あ、あの、アイドルっていうのは…ゴニョゴニョペチャリクチャリ…という素敵な存在らしいです。」
笑美ちゃんは先程私が話した通りにアイドルについて金糸雀さんに説明した。
「なるほど。アイドルというものに関しては理解した。そしてその話の流れで笑美の身体の具合を確認するに至ったという点も、許せはしないが、理解はした。」
「よかった!」
「だが、笑美はそのアイドルとやらにはなれない。」
「え?」
誤解が解けたようで安心した矢先、次は笑美ちゃんはアイドルになれないと断言され、私は困惑した。
ちらりと笑美ちゃんを見てみると、少し悲しそうな顔で俯いていた。
「笑美はこの通り確かに超絶美少女だ。スタイルもいいし、優しいし、声もとても綺麗だし、何事にも一生懸命で、人を癒す力もあると思う。」
「それなら…」
「だが、笑美は女の子である以前に砲兵だ。戦わなくてはならない。人を傷付けなければならない。人を殺めなくてはならない。そんな彼女が貴様の言うそのアイドルとやらになるのは、とんだ御門違いではないか?」
金糸雀さんの言うことは反論する余地もないほど正論だった。
確かに人を殺める立場にある人間が、人を癒し、笑顔にさせる、いわば娯楽を提供するというのは矛盾しているし、多くの人間から反感を買う行為だろうと思う。
「悪いが笑美のことは諦めろ。人を殺める立場にいない者に頼んでみるべきだ。行くぞ。笑美。」
金糸雀さんはズバッと言い放ってから、堂々とした後ろ姿で去ろうとする。
「何故、笑美ちゃんは砲兵になったの?」
私は金糸雀さんを止めるように大きく強い声で問う。
「貴様…本当に記憶が曖昧になっているのだな。ブラギは57年前から富豪同士の争いが頻繁に起こるようになった。この争いに富豪自体が参戦すると、得られるものより失うものの方が圧倒的に多い。その為、貧困な人間を養い、鍛え上げ、盾にも剣にもなる駒として利用する。そして裕福な家庭の生まれではない笑美はその駒として利用されることでしか生きることができなかった。家族も自分自身も守れなかった。ただそれだけだ。」
私のいた世界では考えられないような事情がこの世界にはあるんだ。世の中にはどうしようもないことだってある。抗えずただただ生きて行くしかないことが数え切れないほどある。それでも…
「笑美ちゃんは、どうしたいの?」
「へ?」
私が質問すると、笑美ちゃんは少し間抜けな声を出した。
「私は…私はアイドル…やってみたいです。自信はないですけど…人を癒し、笑顔にすることができるなんて、私がずっと望んでいたことですから。今まで傷つけてきた人の数は計り知れないです…それに…5人も殺めてしまいました…私が傷付け殺めた方々への冒涜だと批判されるかもしれません…誰にも受け入れてもらえないかもしれません…それでも私…諦めずに頑張って、いつか誰かの救いになりたい…人を傷付けてしまったからこそ、大切な命を奪ってしまったからこそ、償い…になるかは分かりませんが、人を癒し、笑顔にするアイドルに…私はなってみたいと思っています。」
「笑美…お前…」
笑美ちゃんの素直な気持ちを聞いて、金糸雀さんは固まる。
「笑美がこんな風に真っ直ぐ素直に自分のやりたいことを人に話すのは初めてみた。ずっと何に対しても文句一つ言わずやり通す姿をみてきたが、まさかそんな風に言えるほどになるとは…悲しいような嬉しいような…仕方がない。私が当主に話を通しておこう。ただし、あまり期待はしないでくれ。」
「「!!」」
私も笑美ちゃんも嬉しくて、二人で目を見合わせる。
「ありがとうございます!金糸雀さん!」
笑美ちゃんが嬉しそうに抱きつくと、キリッとしていた金糸雀さんの表情も柔らかく優しいものになった。
「それじゃあ、とりあえず今日は家に帰っていいかな…笑美ちゃんアイドルデビューの為に色々考えておきたいことがあるんだー!」
「帰るのは勝手だが、お前自分の家が分からないんじゃなかったのか?」
「あ…」
そういえばどこに帰ればいいのかも分からないんだった…!
「私がご案内しますよ。西グループ所属中の者、所属予定の者の誰がどの家、寮の部屋に住んでいるか全て把握しておりますので。」
「すごいね、じゃあお願いしていいかな。」
「はい!任せてください!」
「変な気を起こして笑美を傷つけるような行為をしたら…どうなるか分かっているだろうな?」
本気で殺意を感じる表情と声で金糸雀さんが迫ってくる。
「大丈夫!!アイドルになる以上、基本的に色恋沙汰には巻き込ませませんから!」
「ほう…まぁ、私も頑張って当主に話をしてくるから貴様も貴様なりにできることをやってやれ。」
「もちろん!!」
「それでは、響さん。ご自宅まで向かいましょうか。金糸雀さん、色々とありがとうございます。宜しくお願いします。」
「あぁ、頑張れよ。」
金糸雀さんはかっこよく踵を返して去っていった。
私は笑美ちゃんに誘導されながら自宅へ向かった。
約16分ほど歩いたところで、住宅街の中の一軒家の前に辿り着いた。
「ここが響さんのお家です!」
笑美ちゃんに言われて表札を見ると、確かに響と書かれている。
ポッケの中を弄り、鍵を見つけ差し込んでみる。
「ガチャ」
鍵が開いた。本当にここが私…響渡の家なのか!
「ありがとう。笑美ちゃん。助かったよ。」
「いえ!私こそ、響さんのおかげで、今まで胸の内に秘めていた願いを叶えられるかもしれないんです。私の方が助かりました。」
「それなら良かった。でも、もし辛くて続けたくないって気持ちになったらいつでも言うんだよ。楽しいだけじゃないってことはわた…俺が一番良く分かってるから。」
「ありがとうございます。この命に代えても、私はたくさんの人を笑顔にできるように、届くように歌いたいと思っています。」
笑美ちゃんは真剣な眼差しで、でもおもちゃを目の前に喜ぶ子供のように目をキラキラ輝かせながら言った。
その様子を見て、この子なら、きっとたくさんの人を救うことができるだろうと私は思った。
笑美ちゃんが帰り、私は家の中を見て周り何かしらこの身体の持ち主である響渡の情報を得ようと試みた。
なんか、一人暮らしにしては広すぎるというか…落ち着かない…。
それに、これといった趣味の物を置いていないし、アルバムなど今までの響渡を知ることができるような物も見つからない…
ただ、所属バッジや東グループと西グループに関する資料や響渡のいわゆる本人証明証のようなものは見つかった。
とりあえず分かっていることをまとめると、今私がいるここはブラギという国で、いわゆる異世界。
だけど、わりと建物やら交通機関やら人の顔やら名前やらは私の元いた世界の日本とあまり変わりなく、違和感もない。
だけど、このブラギでは何だかよく分からないけど、富豪同士が争いあっていて、その争いの為だけに用意された軍隊のようなものが存在する。
その一つが、笑美ちゃんや金糸雀さんが所属する西グループで、この西グループはブラギ西部を統率する大富豪の西秀樹。分かりやすく言ってしまえばこの西部の総理みたいなもので、また別の東部、南部、北部を統率する大富豪達と何が目的かは謎だが争いあっているらしい。
お金は余るほどあり、土地が欲しいわけでもないようだし、当の本人達が傷つきはしないように貧乏な人間や頼まれたら断れない人間などを利用して戦っているところから見ると、自分が一番財力も名誉もあるのだと見せつけたいが為にこんなくだらないことをしているんじゃないかと思う。
酷い話だとは思うが、このおかげで本来なら飢え死んでゆく人達が少しでも長く生きられるし、家族を生かしてあげられるという点ではいいことなんだろうとも思うので、完全に否定することはできない。
ただ、そんなに貧困なわけでは無くても、当主や当主の血族に気に入られた人間は引き抜かれ駒にされるらしく、やはり人を幸せにしたいという思いは特にないのであろうと思わせる。
笑美ちゃんがどんな事情で西グループに所属することになったのか、私には分からないけれど、今まで殺した人数までしっかり覚えていた感じを見るに、やりたくなくてもやるしかないという状態だったのであろうと察することができたし、これから私が笑美ちゃんをアイドルにしてたくさんの人を癒すことができれば、笑美ちゃんが今抱えている罪悪感も少しは軽くしてあげられるんじゃないだろうか。
顔も可愛いし、声も綺麗だし、真っ直ぐで芯があるし、少し話しただけでも滲み出てくる優しさも、アイドルとしてやっていくにはものすごくいい武器になる。
訓練していただけあって体幹は鍛えられていそうだし、ダンスはすぐに習得できそう。
歌はあまり得意ではないと言っていたけど、話している声の感じやあの板チョコみたいな腹筋から察するに、声量はかなりあるはず。
演技は純粋すぎて上手く出来なさそうだなぁ…。
でも天然っぽいところはあるから話で笑いをとることもできそう。
伸び代はいくらでもある。
可能性は無限大。
アイドルの面白いところ。色んな可能性があって、それぞれに違った良さがあって、皆んなキラキラ輝いているし、輝く余地がある。
アイドル自体は存在していなくとも、この世界で歌手は既に癒しとして広く知られているようだし、きっと受け入れらてもらえるはず。
例え過去に人を殺めてしまっているとしても。
笑美ちゃん自身の人の良さはたくさんの笑顔を生んでくれるはず。
私は笑美ちゃんに似合う衣装や髪型や歌やダンスなどを考え、紙にまとめた。
これから誕生する新しいアイドルのことをひたすら想い、ドキドキワクワクしながら眠りについた。
読んで下りありがとうございます。
アイドルもののアニメが大好きな中二病こじらせおばさんが書いた、何とも頭の悪い作品です。
日本語おかしいなと思ったら遠慮なく指摘してください。
少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。