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5)Kissing -キスをする

仁壱さん( @njn0000 )と二人で「30 Day OTP Challenge -30日CPチャレンジ」( http://30dayotpchallenge.deviantart.com/journal/30-Day-OTP-Challenge-LIST-325248585 )に挑戦しております。

こちら、第五題目でございます。


ご一読頂けましたら、幸いです。

 赤い髪が、緩やかな波を打っている。指を差し入れ、こめかみや耳の後ろを撫でてやると、雅は恍惚とした様子で目を細めた。瑶二の手に自分の手を重ね、猫の様に擦り寄る仕草は、この上もなく扇情的である。

 雅は男の誘い方をよく知っている。言葉などいらない。視線や表情、僅かな所作の変化、それだけでよかった。

 いつだったか、彼女に群がる男たちを、花に集る虫のようだと揶揄した事がある。今では瑶二自身も、そのうちの一人だ。雅はまさしく、花のような女だった。

 重ねた手に導かれるようにして、ゆっくりと顔を寄せると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。鼻先が触れるほどの距離まで近づいたというのに、雅は瑶二を見つめたまま、一向に目を閉じる気配がない。それがなんとも愛おしく、瑶二は思わず口角を上げた。


「何がおかしいのかしら」


 家へ上げてから一言も話さなかった雅が、ここにきて漸く言葉を落とした。不機嫌な声音である。瑶二といる時、彼女は妙なところに敏感だった。これだけ近ければ、さすがに口元は見えていないだろうが、息遣いで察したのかもしれない。


「自分から誘っておいて目を閉じねえから、キスの最中も目を放したくねえくらい、俺の事が好きなのかと思って」

「馬鹿ね。……そういうんじゃないわよ。特別好きだってわけじゃないのよ、私。知ってるでしょう?」


 雅が呆れた様子で笑った。こういう態度をとられる辺り、自分は他の虫とは違う。他の男に見せるより、さらに奥にある彼女を見せてもらえていると、そういう自負はあった。


「じゃあ、どういうのだよ。気分か?」

「そうね……。ただ、実感したかったのよ。今日はちゃんと、貴方に抱かれるんだって」


 瑶二を特別ではないと言ったその口で、今度は瑶二を実感したいと言う。その矛盾に、雅自身は気づいていない。きっと、処理しきれていないのだ、彼女の中にある瑶二の存在を。

 雅の言葉は、彼女の中にある瑶二の位置を、薄らとではあるが示してくれる。自分は彼女の心を揺さぶる事ができている。それをできるだけの場所にいる。今は、それだけ分かれば十分だった。


「そういう事なら、俺も付き合ってやるよ」


 瑶二は会話の最中に離れてしまった雅の顔を、今度は体ごと引き寄せた。

 紅く塗られた唇は、雨滴に濡れる花弁のようだ。

 誘われるままに噛み付いて、彼女の瞳に視線を戻す。

 潤んだ瞳が大きく揺れて、宝石のように煌めいた。

 角度を変え、もう一度。

 今度は噛まずに、吸うように触れる。

 瞳を縁取る睫毛が震え、結局雅は、瞼を下ろした。





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