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夏の寄り道

 静かな図書館の、本を読むためのスペース。いくつかの長テーブルや机があり、今は夏休みなので勉強をしている学生らしき人たちの姿も多い。

 本のページをめくるかすかな音、かりかりと鉛筆やシャープペンシルが紙に文字を刻みつける音に混じって聞こえる、ぱふんぱふんとした柔らかい音は、隣に座っている葵様のしっぽがたてているものだ。


 ちらりと見ると、葵様が読んでいるのは絵本だった。挿し絵には、おいしそうでかわいらしいお菓子が並んで描かれている。

 葵様は難しい本だって読もうと思えば読めるが、好きなのは今のような絵本だ。お菓子が出てくる作品をみつけやすいからだろうか。


「葵様、借りる本決まったら帰りますよ?」

「えー……。もうちょっと」

「……今帰るならお菓子の時間に間に合いますけど、どうしますか?」


 葵様の耳がぴんっと直立した。


「か、帰る!」


 ぎゅっと手を握りしめて、図書館で出せる最大限の声で葵様は言い切った。勢いあまって、しっぽもぶわわっと毛が逆立って大きく見えるようになっている。


「わかりました。じゃあ本を借りて、帰りましょう」

「ん」


 声が小さい分、身振りで示してくれているのだが、こくんとうなずいたのと一緒に動く明るい茶色の耳がかわいい。


「葵様は何借りたんですか?」


 帰り道の話題は、やっぱり本についてのことになった。


「えーっとね、この前公園で一緒に遊んだ子たちが、おもしろいよって言ってた絵本!」


 この町で、葵様は顔が広い。私が学校に行っている間に町を散歩しているからだ。色んな人と顔を合わせるし、子供たちと遊ぶことも多い。

 そうでなくても葵様は神様で、この町を守っていてくれるから、町の人も何かと親切なのだ。


「双葉は?」

「え? 私は普通の小説ですよ。文庫本の」

「ふうん?」


 ちょっと納得がいかないといったふうに葵様が聞き返すのは、私が持っているのがトートバッグだからだ。文庫本を持ち歩くにしては大きい。しまった、余計なこと言ったかもしれない。


 実は小説の他に、もう一冊別の本を借りた。それは図書館に置かれるのは珍しい、写真集。しかも、狐専門。

 図書館の司書さんもこの町の人だし、自分たちの住む地域には神様もいることだしという言い分で、入荷されたのだった。


 もちろん、葵様のしっぽなどという本物のもふもふが身近にあるものの、少し見せてもらった狐が大変かわいかったのだ。


 もふもふは、例え写真であろうと素敵なものだ。


「あ、おーい。葵さまぁ、巫女さぁん」


 なんだか葵様に悪い気がして、どう言い訳しようか思案していた私と、葵様に誰かが声をかけてくる。

 葵様の耳が片方、ぴるんと声に反応した。


「駄菓子屋のお兄さん!」


 子供たちと一緒にいるときによく立ち寄るらしい葵様が、駆け寄っていく。私も顔見知りなので、葵様からは少し遅れつつ後ろについていく。


「やあ。こうして会った偶然ついでに、アイスでも買っていきませんか? 夏といえばアイスでしょう」

「だって。双葉、どうしよっか?」


 言いつつ、そのしっぽがぶんぶん振れて買って買ってと言っているのだ。葵様の場合、目よりしっぽや耳が、口ほどにものを言う。だ。


「じゃあ、二つください」

「はーい、まいどありぃ」


 彼は商店街では若い分、軽い話し方をする。かといって適当というわけでもなくて、愛想が良いので子供を中心にけっこう人気だ。


 葵様と二人、それぞれアイスを片手に駄菓子屋を後にした。

 この地域の夏の風物詩のアイスだった。コーンに盛りつけられた、ピンクと黄色のかわいい色合い。


 一口食べると、他にはちょっとない食感。普通のアイスとも、かき氷などとも違う。


「双葉、おいしいね」

「はい」


 ぴるるっと耳を動かし、はたはたとしっぽを振る葵様に、私も同じように笑顔で返す。


「……夏ですね」

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