表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

うっかりとスイーツテロ

 毎日ではないが、週に何度か葵様は一緒に買い物についてきてくれる。


 なんでも誰かに聞いて、買ったものが多いとき荷物持ちがいてくれると助かる。できれば男性のように力がある方が望ましい。ということらしい。

 そこに巫女さんは女の子なんだからと付け足されたらしいので、その話の出どころを、私は近所にある商店街の豆腐屋のおばさんではないかと推測している。


「双葉双葉。次はどこのお店?」

「八百屋さんですね」


 葵様が歩くたび、ゆったりふぁたんふぁたんと揺れる柔らかく大きなしっぽが足に当たる。葵様の隣を歩いていれば、よくあることだ。


「八百屋さんかぁ。何買うの?」

「そうですね……。漬け物にするきゅうりとか、にんじんとかでしょうか」


 神社うちの食卓は、野菜が多い。葵様は狐だが――動物としての狐は肉も野菜も食べるらしい――神様だし、特に食べてはいけないものもないから純粋に野菜好きなだけだ。

 私だって女子で、うちには食べ盛りの思春期男子どころか、私と葵様以外誰もいない。

 よって、自然と献立も野菜中心になる。


「いらっしゃい、巫女さんに葵様」

「今日もうまい野菜入ってるぞ」


 八百屋さんは、夫婦で経営している。そういう店はこの辺りでは多い。葵様が稲荷としてこの地域を守っているから、町の商店街は長い歴史を誇っている。

 でも何より商店街の人たちが自慢に思っているのが、葵様がこの町を守っていてくれるということ。


 私も、それが一番うれしい。そんな町に暮らしていること。葵様の隣にいられること。


「双葉、僕が持つよ」

「あら、葵様はお優しいねえ」

「なかなか男前だな、うちの町の神様は」


 うれしそうに笑顔を浮かべる葵様のしっぽが、ふうわりふわりとゆったり揺れる。

 

 行きましょうかとうながせば、うんとうなずく葵様の頭上で、明るい茶色の耳がふるんと動いた。


「またどうぞ」


 見送ってくれる八百屋さんご夫婦の声に、私は一礼、葵様は手を振ってこたえた。


「あとはどこ?」

「うーん……。必要なものはそろいましたし……あ」


 ふと、大事なことに気づいた。

 うわあ、どうしよう。


「双葉?」


 くてんと耳をかたむけ、葵様が聞いてくる。


「あの……洋菓子の分のお金、今日は思ったより物買っちゃって、たりないです」


 最初に寄ったスーパーは特売日、商店街では、タイミングよくタイムセールが行われていた。

 今日は葵様という人手があることも手伝って、いつも一人での買い物では持ちきれない量買ってしまったのだった。


「!」


 見る間に葵様の耳がくたっとなる。大きくふわふわしたしっぽも、ふぉてんと力無く地面に落ちた。


「い、一回神社に帰ってから! お金持ってまた買いに来ましょう!?」

「……双葉のうっかりさん」


 返す言葉もない。


「……まかろん、たると、もんぶらん」

「……!」


 どこで覚えたか、葵様は最近飯テロという言葉を知ったらしい。

 それの洋菓子バージョン、つまりスイーツテロだ。


「しょーとけーき、ほっとけーき、てぃらみす」

「すぐ帰りますから! あ、でも卵の入った袋は気をつけてくださいね!」

「わかった。でも、今日は洋菓子二種類」

「了解です!」


 さて、今日の洋菓子は何にしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ