宿題とタルト
私は将来、本格的にこの神社の巫女になる予定だ。そしてこれからもずっと、葵様のそばにいて支えられるようになりたい。私にとって葵様は、友達以上に大切で、恋人より近く、家族のようにあたりまえにそばにいる存在だ。
今の、手伝いの域を出ない状態ではいられないのだ。そのために。
この目の前の宿題は片付ける。
今できることからやるのだ。うん。そうでも思わないと、やっていられない。
何のために勉強するかなんてありきたりで、さっぱりわからない問いは頭の片隅に追いやる。希望の進路に進むために勉強が必要なのは、疑いようのないことだからだ。
なんて私は盛大な理由を立ち上げ、宿題に向き合う。
「なんか、よくわからないこと頑張ってるんだねぇ。双葉は」
葵様が私の宿題を覗きこんで、そんなことを言う。
「勉強は学生の仕事なんですよ……」
だからしかたないのだ。やらなきゃ終わらないし。
「大変なんだねぇ。じゃあ僕も起きてようかな」
葵様は近くにある本棚から一冊手にとって、私と背中合わせに座った。ふかふかしたしっぽは付け根だけがあたって、そこから暖かさが伝わってくる。
読んでいる本が面白いのか、葵様のしっぽの先の方はふぁたふぁた揺れる。見るからに柔らかくて、もふもふしていそうなのだ。
当然、宿題どころじゃない。あのもふもふを触ったら、どれだけ癒されるだろうか。そんなことで頭がいっぱい――というほどではないが、過半数を占めはじめる。
「葵様」
「しっぽはダメだよ? 双葉が自分で宿題終わるまでは、僕のしっぽ触らないって決めたんだから」
そうでした。
「終わったら、いっぱい触っていいから」
「……! はい、わかりました!」
こういう時ばかりは、私たちの立場は逆転する。葵様にとっての洋菓子のように、私は葵様のしっぽが好きなのだ。
そんなものをご褒美にされて、たかが宿題ごときを頑張らないはずがない。それに、葵様はわざわざ私に付き合って起きてくれているのだ。
早く終わらせよう。
背中越しに、はたはたと応援するかのような葵様のしっぽの音が聞こえた。
そこからの私の解答速度は、自分でも驚きの速さだった。苦手な数学のプリントを、あっという間に終わらせた。葵様のしっぽ、恐るべしだ。
「……終わりました!」
「お疲れさま、双葉」
いいよ、という葵様のゴーサインと同時に、ふぁもっとしっぽに飛びつく。
ふわふわのもこもこだ。暖かくて柔らかい。低反発とさらさらが絶妙なバランスの手触りを持つ毛並み。
「ずっともふもふしてたいです……」
「くすぐったいから、ずっとは無理だよ」
「わかってます」
ずっとは触れないから、こうして触らせてもらうのがよりうれしくなると、私はわかっている。
そしてもちろん、お礼はしなくては。
「葵様、明日の帰りはイチゴのタルト買ってきます」
「やった!」
ぴるっと反応した耳も、ばっふばっふと畳を叩くしっぽも。でも何より大切なのは、そのうれしそうな笑顔だ。