表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

留守番とプリン

 双葉は学生だ。高校というところに通っている。双葉くらいの年の人たちはみんな、学校に行くのだそうだ。

 僕はその間、神社で双葉を待っていることになる。昼には双葉の親戚である神主さんなどが来てくれるから、一人ではない。

 寂しいとは思わないけど、双葉がいないのはつまらない。ぱふぱふとしっぽで畳を叩く。退屈だ。


「ねえ、双葉まだ? いつ帰ってくる?」

「午後の四時半頃ですかね。あの子は部活動もしておりませんし」


 時計を見れば、今はまだ四時を過ぎたばかりだ。もしかして、もう終わって帰っている途中かもしれない。


「……待ってなきゃダメ? つまんない」

「では、洋菓子はいかがですか? 葵様、お好きだとうかがいましたが」

「ううん、いいや。双葉がいないと、おいしくないもん」


 少し違うかもしれない。一緒に洋菓子を食べた後、双葉が僕のしっぽをもふもふして、ほわっと笑う表情が好きなんだ。


 洋菓子も好きだけど、何よりも僕は双葉のあの笑顔を見たい。双葉が笑ってくれると嬉しい。


 僕は、僕が守っているこの町のみんなが笑っていてくれればいいと思う。


「散歩行ってくるね」

「いってらっしゃいませ」


 長い階段を下りると、公園に向かう途中の子供たちに会った。


「葵さまこんにちは!」

「こんにちはー」


 僕を見るなり、みんな駆け寄ってくる。


「どこか行くんですかー?」

「双葉おねえさんのとこ?」

「うん。そうだよ」


 子供たちは残念そうに、「じゃあ今日は遊べないんだ」と口々に言う。みんな、僕と遊ぶのを楽しみにしてくれているらしい。


 お詫びに今度たくさん遊ぶことを約束して、子供たちとは手を振って別れた。


 神社から数分程歩くと、商店街がある。稲荷としての僕の力が及んでいるので、あまり大きくない町の割には、いつも賑わっている。


「あら、葵様じゃないですか」


 今度は豆腐屋のおばさんが話しかけてきた。ここの豆腐や油揚げはよくうちでも味噌汁に使われていて、特にここのお稲荷さんは僕のお気に入りだ。


「おばさん、こんにちは。今日もおいしそうなお稲荷さんだね!」

「葵様のおかげだよ。この辺りを守ってくれてるからねぇ。これはほんのお礼」

「わー! ありがとうございますっ」


 ぽん、と手に一つパックに入ったお稲荷さん。つやつやしていて、とてもおいしそうだ。


 しっぽが揺れないように、空いている方の手で押さえる。せっかくの商品を、間違っても汚したらいけないから。


「そうだ。双葉見ませんでしたか?」

「巫女さんかい? さっき、八百屋で買い物してたよ」

「ありがとうございます!」


 八百屋さんならあっちの方角だ。僕はぺこりと頭を下げてから、走り出した。


 結局双葉をみつけたのは、神社の手前だった。


「ふーたばっ」

「葵様?」


 くるっと振り返った双葉の黒髪が揺れ、制服のスカートがふわりとふくらむ。


 神社で仕事をしているときの双葉は巫女装束だけど、普段はこうして普通の格好をしている。

 だけど僕といるときはやっぱり和服の方が多くて、制服姿だと双葉がいつもと少し違って見える。


「外に出てたんですか? 今日は留守番だったはずですよね?」

「だって、双葉のこと待ちきれなかったんだもん」


 しょうがないなというふうに、双葉が笑う。そしてあたりまえのように、僕と手を繋ぐ。


「帰りましょう。プリンが待っているみたいです」


 きっと、あの双葉の親戚の人が用意してくれたのだろう。


「うん!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ