留守番とプリン
双葉は学生だ。高校というところに通っている。双葉くらいの年の人たちはみんな、学校に行くのだそうだ。
僕はその間、神社で双葉を待っていることになる。昼には双葉の親戚である神主さんなどが来てくれるから、一人ではない。
寂しいとは思わないけど、双葉がいないのはつまらない。ぱふぱふとしっぽで畳を叩く。退屈だ。
「ねえ、双葉まだ? いつ帰ってくる?」
「午後の四時半頃ですかね。あの子は部活動もしておりませんし」
時計を見れば、今はまだ四時を過ぎたばかりだ。もしかして、もう終わって帰っている途中かもしれない。
「……待ってなきゃダメ? つまんない」
「では、洋菓子はいかがですか? 葵様、お好きだとうかがいましたが」
「ううん、いいや。双葉がいないと、おいしくないもん」
少し違うかもしれない。一緒に洋菓子を食べた後、双葉が僕のしっぽをもふもふして、ほわっと笑う表情が好きなんだ。
洋菓子も好きだけど、何よりも僕は双葉のあの笑顔を見たい。双葉が笑ってくれると嬉しい。
僕は、僕が守っているこの町のみんなが笑っていてくれればいいと思う。
「散歩行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
長い階段を下りると、公園に向かう途中の子供たちに会った。
「葵さまこんにちは!」
「こんにちはー」
僕を見るなり、みんな駆け寄ってくる。
「どこか行くんですかー?」
「双葉おねえさんのとこ?」
「うん。そうだよ」
子供たちは残念そうに、「じゃあ今日は遊べないんだ」と口々に言う。みんな、僕と遊ぶのを楽しみにしてくれているらしい。
お詫びに今度たくさん遊ぶことを約束して、子供たちとは手を振って別れた。
神社から数分程歩くと、商店街がある。稲荷としての僕の力が及んでいるので、あまり大きくない町の割には、いつも賑わっている。
「あら、葵様じゃないですか」
今度は豆腐屋のおばさんが話しかけてきた。ここの豆腐や油揚げはよくうちでも味噌汁に使われていて、特にここのお稲荷さんは僕のお気に入りだ。
「おばさん、こんにちは。今日もおいしそうなお稲荷さんだね!」
「葵様のおかげだよ。この辺りを守ってくれてるからねぇ。これはほんのお礼」
「わー! ありがとうございますっ」
ぽん、と手に一つパックに入ったお稲荷さん。つやつやしていて、とてもおいしそうだ。
しっぽが揺れないように、空いている方の手で押さえる。せっかくの商品を、間違っても汚したらいけないから。
「そうだ。双葉見ませんでしたか?」
「巫女さんかい? さっき、八百屋で買い物してたよ」
「ありがとうございます!」
八百屋さんならあっちの方角だ。僕はぺこりと頭を下げてから、走り出した。
結局双葉をみつけたのは、神社の手前だった。
「ふーたばっ」
「葵様?」
くるっと振り返った双葉の黒髪が揺れ、制服のスカートがふわりとふくらむ。
神社で仕事をしているときの双葉は巫女装束だけど、普段はこうして普通の格好をしている。
だけど僕といるときはやっぱり和服の方が多くて、制服姿だと双葉がいつもと少し違って見える。
「外に出てたんですか? 今日は留守番だったはずですよね?」
「だって、双葉のこと待ちきれなかったんだもん」
しょうがないなというふうに、双葉が笑う。そしてあたりまえのように、僕と手を繋ぐ。
「帰りましょう。プリンが待っているみたいです」
きっと、あの双葉の親戚の人が用意してくれたのだろう。
「うん!」