一休みとアップルパイ
この神社には、私と葵様だけが住んでいる。平日の昼間、私のいない時間は、通いの神職の人がいて仕事をしている。が、あくまでも仕事だけだ。
よって、家事は自分たちでこなすことになるのだが、葵様は特に掃除などの片付け系の家事が苦手だった。
おかげで私は学校が休みになると、洗濯やら掃除の、時間があるときにしか出来ない家事を片付けることになる。
その間葵様は何をしているか。たいてい、掃除から逃げているのである。あまり私がやりすぎては葵様のためにもならないので、三回に二回はお菓子を餌に強制的に捕まえる。
「双葉もそろそろ休んだら~?」
「そうはいきません。せっかく晴れたんですから」
今日は庭の掃除をするつもりだ。昨夜の強風で、葉っぱが散らかっているのだ。
竹箒を手に、いざ出陣。石畳の隙間に入り込んだ葉っぱは厄介なので、これがいい武器になる。
勝負はおよそ、一時間で決着がついた。庭の広さから考えれば、なかなかの早さだっただろう。
「ふあ~。さすがに疲れました……」
縁側で日なたぼっこをしている葵様のそばにへたーっと突っ伏す。
「お疲れさま、双葉」
「やっぱり庭は寒いんですよねー。風も強いですし」
「そっかぁ。じゃあ、これならどう?」
きゅっと左手を握られる。もふんと頭の上にしっぽが置かれる。柔らかくて、ほんわりと暖かい。日なたぼっこをしていたおかげなのだろう。少しの間、そうしていた。
ついにしっぽを触りたくなった。掴めば、まふっとした感触。猫がじゃれつくように、そのしっぽをぎゅっと抱きしめてみたりする。
「今日も最高にもふもふですね……」
「えっと、ありがとう?」
自分のしっぽに対し、何ら思うところのないらしい葵様は私がこういうことを言っても、いつもこんな反応だ。だから気軽に触らせてくれるのだが。
葵様の一族はみんな狐の耳もしっぽもあるのだが、昔から一緒にいるということを差し引いても、葵様ほどもふもふさせてくれる方はいない。くすぐったいらしく、苦手なのだそうだ。
「葵様、近所の人にもらったアップルパイがあります」
「ほんと!?」
ふぁたふぁたとしっぽが床を叩く。
「あっぷるぱいって何?」
傾げた首に合わせ、耳がくてっと倒れる。かわいい。自分と同年代の男性に向ける感想ではないのは重々承知なのだが。
「アップルはりんごのことですね。パイが洋菓子の名前になります」
「りんごを使った、ぱいって洋菓子なんだね」
「はい。そういうことです」
楽しみだなぁと、葵様のしっぽがばふばふと振られる。こうして一緒に歩けば、よく足に当たる。
その感覚に、私が葵様の隣にいられることを嬉しく思うのだ。