表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

鵺と夏季限定ミルクセーキ

 真昼の日差しに夏を残しつつ、朝夕には秋の足音が聞こえてくる頃。冬よりもすっきりしているけど、やっぱりおっきいしっぽを僕はふぁたふぁた揺らす。

 

「葵、ここが目的地か?」

 

 隣を歩く朔が問いかけてくる。相変わらずクールでかっこいいけど、最近少しまとう雰囲気がやわらかくなった気がする。

 

「うん。朔、覚えてる?」

「もちろんだ。あの時は、世話になったな」

 

 僕らが足を止めたのは、以前ふたりで来た喫茶店だ。あれから半年が過ぎた。季節は巡って、僕らはほんの少しずつだけど変わっていく。

 

 ドアを開けると、軽やかなベルの音。コーヒーと甘いスイーツの香りがただよう店内には、やわらかな午後の光が差し込んでいた。

 

「葵様、いらっしゃいませ!」

「うん、こんにちは」

 

 窓際の二人用のテーブルに着く。注文は決まってた。

 

「ミルクセーキふたっつ!」

「冬じゃないのにミルクセーキなのか?」

「きたらわかるよ」

「はい、ミルクセーキですね。承りました」

 

 いつかの冬と同じように注文する。その時に、楽しげに笑う店員さんと目くばせした。ぱたぱたと、僕もしっぽを振る。朔は眉根を寄せ、不思議そうに首をかしげる。

 喫茶店の中はクーラーが効いているけど、日当たりのいい席ではまだちょっと暑い。だからきっと、ちょうどいいはずだ。

 

 あまり待たずに、店員さんが注文の品を持ってきてくれた。銀色のお盆に乗っているのは、グラスに入ったミルクセーキ。ただし、かき氷みたいなシャーベット状だ。上にちょこんとさくらんぼが飾られている。

 

「ミルクセーキの、夏季限定のものです。暑い九州の方では、こんなアレンジがあるそうですよ」

「そうなのか。興味深い」

 

 朔はじっとミルクセーキを見つめる。かわいらしい黄色はそのままに、夏にぴったりの涼しげなスイーツになっている。

 

「朔は、変わったよね」

「そう……だろうか」

「うん。前より人当たりも良くなったし、あいさつもよくするようになったよ。それに、子供たちとも仲よくできてるしね」

 

 それは正直、予想外だった。ここで朔に『もっと人と関わろう』と提案したのは僕だけど、こんなに早く子供たちと馴染めるとまでは思っていなかったから。

 きっかけはいつもの遊びの一つ、ヒーローごっこだった。リクエストされると、彼は次々に変身ポーズをしてみせた。それから朔は、子供たちに慕われるようになったのだ。

 

「朔がヒーローのなりきりできるなんて、僕知らなかったよ。やっぱり、五十鈴が特撮番組見てるからなの?」

「五十鈴のあれは……、俺の言い訳用だ。本当は、特撮を好んで視聴しているのは俺なんだ」

 

 頬を赤く染めて、朔がうつむく。

 

「なんにも恥ずかしいことじゃないのに。僕も、ヒーローって好きだよ。かっこいいよね」

「ああ。……十年ほど前、だったか。テレビを見ていた五十鈴が言ったんだ。ヒーローが、俺みたいだと」

 

 それは、虎の爪を武器に戦うヒーローだったらしい。言われてみれば、確かに朔に似ている。彼も、手足が虎に変化するのだ。

 

「憧れたんだ。たとえ一人でも、誰かや街を守るために戦うヒーローに。俺も、そうなりたいと思った」

 

 誰だって憧れる、かっこよく戦うヒーロー。特に、朔はあやかしの門番として、人や町を守る役目がある。プレッシャーもあったのかもしれない。そんな朔にとって、自分と似た立場のヒーローは希望だっただろう。

 小さい頃の朔も、目をきらきらさせてヒーローを見ていたのだろうか。想像するとほほえましくて、しっぽがぱっふぱっふ揺れた。

 

「朔はもう、この町のヒーローだと思うよ」

「いいや、俺はまだ彼らには及ばない。だが、葵がそう言ってくれるくらいには、近づけたのだろう」

 

 ミルクセーキを一口食べて、朔は綺麗な金色の目を細めた。どうやら、このミルクセーキも気に入ってくれたみたいだ。

 

「うん。変わるのは、ゆっくりでもいいんだ。だって僕らには、まだまだ時間があるんだもん」

「そう考えることもできるな。俺たちにしか、できないこともあるのか」

 

 季節のように、足早に変わっていかなくてもいい。でも、今は。

 

「ミルクセーキがとけちゃうから、ちょっと急ごっか」

「そうだな」

 

 グラスを前に僕と朔は笑い合って、スプーンで夏だけのミルクセーキを少し急いで口に運んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ