司書と巫女の関係におけるもふもふな友情
寒い日が続くが、雪がたくさん積もることもなくなる頃。暖房がきいて暖かな図書館へ、私は司書の茂木さんに会いに来ていた。
最近、運転免許を取得するべく五十鈴ちゃんは放課後になると自動車学校へ通っている。そうして私は帰りが一人になったので、以前より図書館に立ち寄る頻度が増えたのだった。
「茂木さん。月刊もふもふ、ありがとうございました」
「もう読み終わったんですねぇ。どうでしたか?」
「特集の『冬の森を覗く。』が良かったです。王道ながら、狐なんてふわっふわで……! あと、フクロウも捨てがたいんですよね」
「えー、意外ですね。でもあのふわふわ感、たまりませんよね。他にはうさぎなんて、綺麗に真っ白でかわいくて……!」
ちょうど利用者が少ないこともあり、ついつい話し込んでしまう。カウンターで雑誌を広げ、画像を指差し合っては議論を交わす。
茂木さんとは、もふもふな話でとても気が合う。司書と利用者という間柄より、友人関係に近いと思う。
これくらい年上の人との親しい付き合いは、茂木さんが初めてだ。私の借りる本や葵様との会話から、もふもふ好きの同志と気づかれて以来、仲良くしてもらっている。
「そうだ。これ、双葉ちゃんにプレゼントです」
茂木さんがカウンターの奥にある自分の鞄から、何かを取り出して渡してくれた。シンプルなラッピングの中から出てきたのは、一冊の単行本だった。
「これ、日向 郷先生の最新刊……っ!」
「はい、そうですよ。月刊もふもふ掲載の短編を全て収録、書き下ろしは三編のファン待望の最新刊! 双葉ちゃん、サト先生の作品大好きですもんね」
「そうなんです。ファンタジーな世界観も、ありふれた日常も、もふっと彩ってくれるところが好きなんです」
受け取ってぎゅっと握ったまま、私は本から目が離せなくなっていた。
単行本の表紙はざらついたさわり心地で、しっくりと手になじむ。暖かな陽の差す窓辺でまどろむ三匹の猫のイラストが、柔らかな雰囲気で描かれていた。
「あの、本当にいいんですか? これ、もらっちゃっても」
「もちろんです。ここを離れて修行に行く双葉ちゃんの門出を祝して、私からのささやかな贈り物です。双葉ちゃん、この本の広告見ていいなって言ってたので」
「覚えててくれたんですか」
先月号の月刊もふもふも、こうして茂木さんと一緒に見ていた。巻頭のカラーページにて、大々的に宣伝されていたのがこの本だった。サト先生の作品は、月刊もふもふの目玉の一つなのだ。
単行本は文庫より高価だ。我が家の家計をやりくりする私にとっては、自分のわがままだけで買う訳にはいかない。あきらめようと思っていたところだった。
「ありがとうございます、茂木さん」
「いえいえ。双葉ちゃんは大事なもふもふ友達ですから」
年齢こそ離れているが、茂木さんのことを友人と思ってもいいだろうか。趣味を通じた友人なのだから、年齢なんて関係ないのかもしれない。
おずおずと、しかしぎゅっと本を抱え込む。好きな先生の新刊というだけでなく、茂木さんの心遣いがとてもうれしい。
「大切にします。修行先にも持って行っていいですか?」
「はい。帰ってきてからも、もふもふ談義しましょうね。春になったら、この町に猫カフェができるみたいなので、そこで」
「はい! 休みがとれたら、絶対に帰ってきます。こんな身近に猫カフェができるの、本当に楽しみなんです」
茂木さんとのもふもふな友情を確認しつつ、私は神社への帰り道をたどった。
ふと気づくと、反対側から顔見知りのひとが歩いてくる。同じ年ごろのさんにんの子供を連れているのは、化け猫のあんこさんだ。
「あ、双葉お姉ちゃんだ! だっこしてー」
「なでなでしてー」
ぽんと軽い音と共に、猫の姿に変わった子たちが胸に飛び込んでくる。三毛に、真っ黒の子が二匹。ふわふわの手触りがたまらない。
よく兄弟そろって町に遊びに来るので、私にもなついてくれている。猫たちはされるがまま、心地よさそうに目を細めた。
「あんこさん、買い物ですか?」
「はいー。いつもは常世で済ましてますが、浮世でしか買えない物もあるので」
私は知らなかったが、案外そうしてこの町に下りてくるあやかしは少なくないのだという。どうりでよく五十鈴ちゃんが見なれないひとと、親しげに挨拶している訳だ。
「今日はさんにんなんですね」
「うん。綾斗は、またこっちに遊びに来てるから」
「ついでにおむかえー」
「真季ちゃんに誘われると、ぜったいことわらないよね」
ここにいないもうひとりのことを聞くと、兄弟たちは口々に答えた。彼のほほえましい恋心は、兄弟たちにもバレているようだ。
「心配、なんですよね。あやかしと人間は、深く関わってはいけないから」
「大丈夫ですよ、あんこさん。五十鈴ちゃんたちがいますから」
ふたりを見守るにしろ距離を置くにしろ、五十鈴ちゃんと朔くんなら悪いようにはしないだろう。
「それに私も、修行から帰ってきたらになりますけど……力になります」
「そういえば双葉さんの修行って、どんなのなんですか?」
「神社の運営や、葵様たちとの接し方を学んできます。あとは、その地域に合わせた対応などを勉強します」
修行先には私のような人が集まり、より実践的に神社の運営を学ぶ。葵様たち、稲荷の遣いのことも今まで以上に本格的に知らなければならない。
そして、この町における神社の立場は他より少し特殊だ。あやかしと共存する、朝陽町。五十鈴ちゃんがあやかしとの交渉人であるように、神社と葵様にも特別な役目がある。
帰ってくる頃には、私も役に立てるようになっていなければならない。
「ぼくたちのこと、知ってくれるのー?」
「じゃあ帰ってきたら、双葉お姉ちゃんともっとなかよしになれるんだねっ」
「がんばってきてね。待ってるから」
「はい。いってきますね」
腕の中から、猫の兄弟たちが応援してくれる。もふもふな暖かさもあって、私はとてもほっこりしたのだった。




