合格発表とスイーツ女子会
朝には枯れた草木に霜がおりて、寂しい風景を白く彩る季節。雪の降る日も多くなり、もうすぐ本格的な冬がやってくる。
賑やかないつもの放課後。金曜日の夕方は、みんなようやく来る休日の楽しみに浮き立っている。
今日ばかりは珍しく、私もそのうちの一人だった。ただし、クラスメイトたちとは違う理由で。
みんなが帰りつつあり、人の減ってきた教室にて。私は五十鈴ちゃんを待っていた。
と、扉を開けて五十鈴ちゃんが戻ってきた。
「五十鈴ちゃん、どうでしたか!?」
慌てて駆け寄って、私は問いかける。すると五十鈴ちゃんは、にーっと笑ってブイサインをしてみせた。
「合格だってさ」
「ほんとですか……! 五十鈴ちゃん、おめでとうございますっ!」
「わっ」
感極まった私は、思わず五十鈴ちゃんにぎゅっと抱きついてしまった。そんな私を、五十鈴ちゃんも抱きしめ返してくれる。ふだん五十鈴ちゃんからのボディタッチはよくあるが、その逆はかなり珍しい。
でもしかたがない。五十鈴ちゃんが合格したのは、地方公務員の試験なのだ。ずっとがんばってきたのを、そばで見ていた。
「ありがと、双葉。なんか実感なかったけど、双葉がこんなに喜んでくれるんなら、夢じゃないな」
「そうですよ! 五十鈴ちゃんの努力は本物です。私だってちゃんと知ってます」
合格の通知は、学校に届いたらしい。放課後まで待ってから、先生から五十鈴ちゃんへの連絡があった。
「帰ったら朔とお祖父ちゃんにも報告だな。最近はもう、朔ってば心ここにあらずでさぁ」
「朔くんだって気になるんですよ。五十鈴ちゃんの将来に関する、とても大切なことなんですから。ツツジ様からも、最近よく合否判定を聞かれるんですよ」
「そういえば、気にしてくれてたっけ。案外私にも、こういうこと気にかけてくれるひと、いるんだな」
その日の夜、五十鈴ちゃんはツツジ様へアプリでメッセージを送っていた。グループでの会話なので、私も見れる。
すぐに既読され、返ってきたのは『合格祝いに例のアレやろっか』との言葉だった。それは初夏の頃にした、またスイーツ女子会をやろうという約束だった。ちなみに、ツツジ様は文面では標準語だ。
話し合いはぽんぽん進み、スイーツ女子会は明後日である日曜日に、神社に集まることに決まったのだった。
そして、日曜日。私は居間を掃除し、葵様と一緒にみんなを待っていた。女子会との名目だが、五十鈴ちゃんの合格祝いなので葵様や朔くんも参加するのだ。
「そろそろ、こたつとかストーブの季節だね」
と、すっかり冬仕様のもっふもふになったしっぽをふぁったんと揺らし、葵様が言う。
「そうですね。ストーブを物置部屋から出すの、手伝ってもらえますか?」
「僕が明日やっておくよ」
「ありがとうございます。……あ、来たみたいですね」
チャイムの音に、私は立ち上がって玄関へと向かった。ひんやりした廊下を抜け出迎えると、五十鈴ちゃんと朔くんがいた。
その直後、もう一度チャイムの音。たぶんツツジ様だ。今度は葵様が行く。
全員そろったところで、ツツジ様が洋菓子店の箱を開ける。箱から出てきたのは、小さめサイズのフルーツタルトとモンブランだった。
「すごい! お姉ちゃん、これって季節限定スイーツセットだよね!」
「んだよ(そうだよ)。五十鈴ちゃんのお祝いだから、ばっこ(少し)特別だで」
「ツツジ様ありがとー」
かわいくておいしそうなスイーツへの期待で葵様のしっぽが、自慢げにツツジ様のアイボリーのしっぽが、同じリズムでぱたぱた振られる。
「ほれ、まんつ(まず)五十鈴ちゃんから選べ」
「んー、どうしよっかな。どれもおいしそうだし……」
フルーツタルトは、ブドウとマスカットと梨に、ミカンとりんごの五種類。フルーツが艶めいて、お菓子の宝石のように綺麗だ。栗とカボチャ、紫芋のモンブランも季節感があって良い。
五十鈴ちゃんや葵様はもちろん、私でも迷う。
「この前みたいに、シェアしますか?」
「そうしようよ、五十鈴。僕もいろいろ食べてみたい!」
「じゃあこれだな。梨のやつ」
みんな自分の食べたいものをそれぞれ選び、他に気になるものはシェアし合う。
「双葉、そのミカンの交換してくれ」
「はい、どうぞ。……あ、梨もおいしいですね。コンポート、でしたっけ。そのままより甘いですね」
「カボチャのモンブランもうめ(おいしい)で。ほれ葵、け(食べて)」
「ん。カボチャもいいね。でも紫芋のも、お姉ちゃん好きそうだよ」
私と五十鈴ちゃんがお皿ごと交換する横で、葵様とツツジ様はお互いにいわゆる『あーん』で食べさせ合っていた。仲の良い姉弟だけあって、まったく抵抗がないらしい。
ふぁたふぁたしっぽを動かして、おいしそうに食べる葵様を見て、ツツジ様はうれしそうにふるんと耳を揺らす。
「朔、そのマスカットのタルトとも換えてくれ」
「ああ。ほら」
「違うよ、ふたりみたく『あーん』でいいだろ」
「う……。なんで葵は、このノリについていけるんだ……?」
口を開けて待つ五十鈴ちゃんに、朔くんは顔を真っ赤にして自分のタルトをあげた。普段クールな朔くんは、よく見ると表情豊かなのだ。
照れる朔くんと、それをからかう五十鈴ちゃんのやりとりにはほんわかした。
「朔、僕にも『あーん』ってしてー」
「本当に、なんでこんなに違和感なく女子会に混ざれるんだ……」
「双葉ちゃん、お姉ちゃんのもける(あげる)で?」
「あ、はい。いただきます」
他意なくせがむ葵様は、確かに女子会に自然に馴染んでいた。朔くんも少し馴れてきたのか、さっきほどには顔が赤くない。
前回のお店と違って人目がないぶん、私は素直に食べさせてもらった。よそでの開催だったら、私も朔くんに負けないくらい照れるだろう。
余ったスイーツもそれぞれ分け合って食べ、ゆったりした休日の時間の流れに身を任せる。こたつの暖かさとスイーツの甘い余韻に、なんだかとろけるような心地がした。
「あれ、五十鈴ちゃん寝ちゃったか。めんけ(かわいい)なー」
「俺や宮守さんの方が緊張していたから、表にはそう出していなかったが、五十鈴だって気を張っていたはずだ。それが、やっとほどけたんだろう」
感謝する、と言って朔くんは頭を下げた。
「いえ。私たちだって、五十鈴ちゃんをお祝いしたかったんですから」
「それもあるが、五十鈴は案外寂しがり屋だから。こういった賑やかな集まりを開いてくれて、感謝する。俺では、こうはいかない」
「おめ(あなた)、この町で境界の門番してるって鵺だべ? したば(それなら)、おめはおめに出来ることでこの子を支えてやれば良んだ」
「……ああ」
力強く、朔くんは一つうなずく。いつもは優しいお姉さんのツツジ様も、ふとした瞬間に稲荷の使いであり土地神でもある存在なのだと感じる。
そんな『大人』がそばにいてくれることが、とても心強い。
私は巫女見習いで、五十鈴ちゃんはあやかしとの仲を取り持つ交渉人の後継者。葵様とツツジ様は神様で、朔くんは鵺というあやかし。
普通の人たちとはきっと違うけれど、進路が決まるというありふれたことを祝いもする。そうであって良いのだ。
私たちが歩いていくのは、そんな未来。




