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お祭り花火と出店スイーツ

 太鼓と笛の祭り囃子が夜に響く。楽しげな人々のざわめきが、ずいぶん涼しくなってきたこの季節の空気を揺らす。駅前の広場には出店が並び、普段は暗いここを明るく照らす。

 今日はこの町のお祭りの日だ。


「よーし。葵様、最初はどこ行く?」

「んー、まずは食べ物! ぽてと買って、みんなで分けよう」

「じゃああの店だな。行くぞー、双葉」

「あ、はいっ」


 お祭りだからかやけにテンションの高い、葵様と五十鈴ちゃん。そんなふたりに手を引かれて、出店の一つへと向かった。なかば引っ張られている私の後ろから、朔くんもついてくる。


 夕方から開かれるお祭りに合わせて、私たちは午後から神社に集まった。そこで去年と同じようにそれぞれ浴衣を選び、こうしてお祭りに来たのだった。


 今年、私と五十鈴ちゃんにとっては学生生活最後のお祭りだ。あまり多くないおこづかいで出店を回り、めいっぱい楽しむ。それも今回が最後なのだ。

 来年もこうしてみんなで遊べるか確証がないぶん、楽しみたくなる気持ちは私にもよくわかる。


「食べ物系は、手分けして買おう。それで、そのあとで食べよっか」

「それなら私は双葉と飲み物買ってくるよ。行こ、双葉」

「はい、五十鈴ちゃん」


 ちょうど同性で分かれ、それぞれに出店の食べ物を買いに向かった。からころという下駄の音が、夜に心地よく響く。

 今夜五十鈴ちゃんが選んだ浴衣は、大きな朝顔の柄がどこか大人っぽい印象だ。

 ちなみに私の浴衣は、夕暮れの空をとんぼが飛んでいく風景だ。アキアカネが交じっていて、夏と秋の季節のはざまを描いている。


「五十鈴ちゃん。飲み物はこれにしませんか?」

「あー、タピオカミルクティーか。最近また流行ってるよな」

「はい。テレビの特集を、葵様が夢中になって見てたので」


 タピオカドリンクを売っている出店では、例年より長めの列ができていた。並ぶこと十分ほど。人数分のタピオカミルクティーを買って、あらかじめ決めた場所でふたりを待つ。


 私と五十鈴ちゃんより分担した物が多かったふたりは、遅れて来た。もふもふのしっぽを持つ葵様と、背の高い朔くんはそろっていると目立つ。


「ふたりとも、和装が似合うよなー」

「そうですね。葵様は普段から着慣れてますけど、朔くんも着こなしてますよね」


 葵様の浴衣では、もみじが波紋を描く水中をかわいらしい金魚が泳いでいる。朔くんは、月が浮かぶ夜空を天の川や星が彩っている浴衣がよく似合っていた。


「二人とも、お待たせ」

「焼きそば二つと、たこ焼きの大きいパック、調達完了だ」

「ふたりともありがと。わ、まだあったかいな」


 甘いようなしょっぱいような、香ばしいソースの匂いが食欲をそそる。


「こちらも無事飲み物確保です。タピオカミルクティーですよ」

「やったー! 僕がそれ気になってたの、覚えててくれたんだね。さすが双葉!」


 ばふばふと葵様のしっぽが元気よく振られる。それがおさまるのを待ってから、飲み物を渡した。

 買ってきた戦利品を分け合って、祭りらしい食べ物の夕食だ。普段なら会わない時間帯に仲の良い友達とご飯を食べる、非日常の時間。私は、お祭りのそんなところが好きだ。


「祭りの食べ物の、このジャンク感がいいよなー」

「五十鈴、頬にソースがついている」

「んー、タピオカもちもちー。おいしい」

「ほんとですね。独特な食感で、人気になるのもわかります」

「え、そんなにおいしいのか? ……おおー、ふしぎ食感」


 葵様のしっぽが、リズミカルにふぁったふぁった揺れた。明るい茶色の狐耳もくたーんとしている。

 スイーツがおいしく、仲の良い友達と一緒ということもあって、かなり上機嫌らしい。幸せそうにほころんだ表情に、私もほんわかした気分になる。


 その後も、射的で朔くんが活躍していくつも景品をとってくれたり、ヨーヨー釣りで一喜一憂したりとお祭りを満喫した。


「花火の前のー?」

「締めはくれーぷー!」

「ふたりとも、今日はやけにノリノリですね」

「祭りの本番や就職試験の前に、あまり羽目を外すなよ……」


 けれどこうして引っ張ってくれる葵様や五十鈴ちゃんと、私や冷静な朔くんとは相性が良い。よにんでいるとバランスがちょうど良くて、私にとっても心地よい関係だ。

 クレープの出店に行くには、客足も落ち着いた今の頃合いがいい。あまり待つこともなく、私たちはそれぞれ違う種類のクレープを手に、出店をあとにした。


「双葉。そのいちごとキャラメルの、一口もらってもいい?」

「いいですよ、五十鈴ちゃん」

「双葉、僕もー。あと、五十鈴も交換しよ」

「うん、しよう。朔のも気になるんだよなー。ココアクッキーにチョコソースのやつ」

「まあ、四種類も試せるから構わない。俺は葵が選んだクレープに興味がある」


 そうして、みんなでクレープを一口ずつ交換し合う。

 五十鈴ちゃんの、バニラアイスにトロピカルフルーツのソースがかけられたクレープ。楽しかった夏の思い出がクレープで表現されたようだ。

 葵様が選んだのは、フルーツスペシャルというメニュー。小さめに角切りされたフルーツが、何種類も入っている。それぞれに違う味と食感だが、どれも違和感なくクレープの中にあっておいしい。


「朔くん。私ともぜひ、交換してくれませんか」

「もちろんだ。双葉が選んだものも、おいしそうだな」


 朔くんは意外と甘いものが好きらしい。砕いたココアクッキーも、たっぷりのチョコソースも甘い。

 後回しにしていた自分のクレープに口をつける。いちごの甘酸っぱさと、キャラメルのほんのり苦い甘さが絶妙だ。


「花火のカウントダウンが始まるな。今夜の宵宮もフィナーレか」


 カウントダウンが始まった。会場のそこかしこから聞こえる声が、ゼロを告げる。


 最初の花火が打ち上がる。

 音が質量になってぶつかってくるような迫力。パラパラと雨のような音を鳴らし、ちらちら光る。大輪の花が視界の夜空を覆い尽くしては、流星のように光が降り注ぐ。儚く消えたはずの夜空の花は、今年も目に焼きついて祭りの思い出を美しく彩ったのだった。

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