スイーツ女子会とレアチーズケーキ
すっきりしない天気が続く。晴れていても雲が多かったり、むしむしした空気でも涼しい風が吹いたりと、あいまいなこの頃。
通学用のカバンに、折り畳み傘を忍ばせる梅雨。今日の空は薄い雲に覆われて、白い色になっている。だいぶ日が落ちるのも遅くなり、もうすぐ夏本番が来る。
「明日って雨だっけ?」
隣を歩く五十鈴ちゃんがたずねる。放課後の帰り道を、最近は残りの時間を惜しむように、なるべく一緒に帰るようになっていた。
補習が入っている五十鈴ちゃんを、図書室で待っているのだ。勉強したり本を読んでいると、五十鈴ちゃんが控えめに「お待たせ」と声をかけてくれる。それが案外気に入っていた。
「そうですね、数日は雨続きですよ。洗濯物が乾かなくて、困る季節ですよね」
「そっか、双葉は家事やってるんだもんなー。偉いよ」
「いえ、それほどでもないですって」
「そんたことねーよな。双葉ちゃんさは、いっつも葵が世話になってるものなー」
唐突に会話に入ってきたのは、葵様のお姉さんのツツジ様だ。
後ろから抱きしめられて、アイボリーの狐耳が触れる。葵様のそれより毛量が多めで、ふさふさしている。
「ツツジ様、久しぶりー」
「うんうん。五十鈴ちゃんもまためんけく(かわいく)なったなー」
五十鈴ちゃんと、二人まとめてぎゅーっとされた。私は自分からスキンシップを取る方ではないが、こうして親しいひとたちと触れ合うことには心地よさを感じる。
「ツツジ様、今日はどんなご用ですか?」
「葵さ会いに来たんだども、留守だったのよ。したば(そしたら)、双葉ちゃんがもうすぐ帰ってくるって聞いてな。ちょっと寄り道して行ぐか」
私と五十鈴ちゃんの手を取って、ツツジ様は近くの洋菓子店に入った。葵様ともときどき立ち寄るお店だ。店内が広く、イートインもできる。
ツツジ様にうながされるまま、テーブル席の一つに着く。
「二人とも、最近いろいろ頑張ってるべ? 今日はお姉さんがごちそうしてける(してあげる)」
少し芝居がかったしぐさで、ツツジ様が胸を張る。しっぽがふぁたふぁた揺れていた。葵様とよく似た表情で、同じしっぽのリズムだった。
「やったー。ツツジ様ありがとー」
「えっと、ありがとうございます」
遠慮しようと思ったのだが、五十鈴ちゃんに先手を打たれた。喜ばれれば、私だけ遠慮するのが申し訳なくなる。気配り上手な親友だ。
メニューをさんにんで見ると、期間限定スイーツのコーナーでページをめくる手が止まった。
写真付きで、レアチーズケーキがピックアップされていた。レアチーズの白を彩るのは、かわいらしい淡い黄色のレモンソース。こういう季節を感じられるものは、葵様がよく好む。
「これ、いいですね。レモンソースのレアチーズケーキ」
「お。珍しいなー、双葉が自分からそう言うの」
「葵様だったら、これを選ぶかなって思ったんです。でもそれなら、レモンよりはブルーベリーのソースを選びそうですけどね」
レアチーズケーキにかける果物のソースは、複数の中から選べるようだ。レモンもブルーベリーもこの時期よく見かけるが、葵様が選ぶなら後者だろう。
「三つ頼んで、全種類試すか? 他のが良がったら、追加せば(すれば)いべ」
「いえ、これでも充分ですよ」
「だな。別のはまたの機会とかで」
「んだが(そうか)。したば、次はいつにするかなー」
言質を取られたような気がした。
「ツツジ様、スマホ持ってる? 何かでつながっておこうよ」
「んだな。ほら、これだば(だったら)グループで話せるべ」
「うわすごい。ツツジ様スマホ使いこなしてるじゃん。このSNSとか入れてるんだ」
「おもしぇ(おもしろい)物だよな」
ツツジ様がきんちゃく袋から出したスマホには、テレビでもよく聞く名前のアプリが画面に並んでいる。ちなみに私の物には、必要最低限しか入っていない。そもそもあまり使わないからだ。
雑談の間に届いたレアチーズケーキを、ツツジ様はスマホで撮った。それを誰かに送ってから、フォークを手に取る。
ブルーベリーのソースがたっぷりかけられた部分を切り分け、すっと私に差し出してきた。
「ほれ双葉ちゃん、あーん」
「あ、はい」
反射的にぱくっと食べると、ツツジ様はうれしそうに笑った。満足げに、ぱふんとしっぽを一振りする。
「あー。いいな、ツツジ様。じゃあ双葉、こっちもだ」
「え、なんですか。この、いわゆる両手に花の状態……」
「女子会ノリ! スイーツのシェアは基本だろー」
結局、五十鈴ちゃんからもチーズケーキをわけてもらった。
「ふたりとも、私のもどうぞ」
もらってばかりだったので、今度は私から言い出してみた。レモンソースのかかったケーキを、ふたりの方へ差し出す。
だがふたりはそろってお皿を見て、お互い顔を見合わせた。そして何かをたくらむような、いたずらっぽい表情になる。
「それなら、双葉からもあーんってしてもらわないとな」
「良な」
「は、恥ずかしいので、一回だけですよ……」
たまには、こうして女子だけというのも悪くない。




