双葉のもふもふな休日
庭の桜が咲いている。まだつぼみもある七分咲きだ。日差しは暖かいが、空気に寒さの残る縁側。少し前まで土の匂いがした風は、最近は花の甘やかな香りを含んでいる。
ひなたぼっこが心地よい、日曜日の昼下がり。
また一枚、ページをめくる。先日司書さんに借りた『月刊もふもふ』だ。
司書さんが個人的に購読しているものを、もふもふ情報を対価に――これは必要ない時も多いが――貸してくれるのだ。さすがに高校生、家計のやりくりもあってちょっと大変なのだ。司書さんありがとう。
最近ちらりとテレビにも取り上げられ、人気上昇中。
今月の特集は、読者から送られた写真コーナー『もふもふ写真大会 ~もふっと、いいね!~』。ペットだけでなく、動物園などでの写真も可なので人気コーナーなのだ。
テーマは『春、満喫』で、桜以外の春らしさもあって良い。
「やっぱり、もふもふには癒されますね……」
うっとりしたため息と共に、思わず呟く。
写真一つとはいえ、人によって違う。こだわるポイントがわかったり、テーマともふもふが互いに引き立て合う芸術性が高いものもある。
私の身近には葵様がいるが、写真ならではの魅力も捨てがたい。
「すみません。双葉さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はいっ。何かご用でしょうか」
慌てて雑誌を閉じて、視線を上げる。縁側に来るには、神社からさらに奥に向かわなければならない。こちらは私と葵様が暮らしている、家の方だからだ。
とはいえ、お客さんに変わりはない。
桜を背にして立っていたのは、若い女性に見えた。だが、形の良い猫耳とふわふわなしっぽを持っている。
「はじめましてー。先日はありがとうございました。あたし、あの化け猫の子供たちの母親です」
「あ。あの、ふわふわでかわいい子猫たちのお母さん!」
「はい、うちの子たちがお世話になりました。今日はお礼に来ましたー」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
子猫たちのお母さんいわく、あのよにんには順番にお礼をしていて、最後が私だったらしい。
「確か、引っ越してこられたんですよね。こちらでの生活はもう慣れましたか?」
「おかげさまでー。子供たちも、近々こちらにまた来たいって言っててー。その時もよろしくお願いします」
彼女が頭を下げる。一緒に猫耳がくてんとたれた。
「それはもちろんです。ええと……?」
「あ、名前ですよね。あんこです。和菓子に使われる」
「あの、小豆で作る?」
「それです。あたし真っ黒で、丸くなるとぼた餅みたいだからー」
ゆったりとしっぽが揺れる。猫の中でも、太めでふわふわのしっぽならではの動きだ。
「というわけで双葉さん。お餅になってみませんか?」
「え?」
私の前で、あんこさんは猫の姿になった。後ろ足で立っている様子は、大きな着ぐるみのようだ。
私と同じくらいの、平均的な女子高生の身長。長毛種の血が入っているのか、全体的にふわふわしている。瞳はペリドットのようで綺麗だ。
「せーの」
「わっ」
そっと飛び掛かられる。縁側に倒れこんだが、器用に体勢を変えたあんこさんに、もふぁんと受け止められる。ちょうど、猫が丸くなって眠る時の形のまんなかに私はいた。
もふもふにくるまれている。ふわんとした手触りが心地よい。
「何か読んでいた途中でしょう? ぜひ続きをどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて失礼します」
いつもの私なら、失礼のない程度に遠慮するのだが、もふもふを前にしてはそんなものは吹き飛んだ。
置いておいた雑誌を手に取り、ページを開く。小説コーナーにはプロやアマチュア、毎月二本は短編が掲載される。
文字を追いつつあんこさんの身体に触れれば、臨場感が味わえる。贅沢だ。
葵様のしっぽからは、シャンプーのフローラルな香りがする。
対してあんこさんは、ひなたと野の花だ。柔らかく、空気を含んだ毛並みにもふんとうずもれる。
ふぁさ、ふぁたんとゆったり揺れるしっぽのリズム、暖かい体温には安心感がある。
休日の午後は、ゆっくりと過ぎていく。




