司書と巫女の関係におけるもふもふ談義
今日は、学校帰りの双葉と待ち合わせをして図書館に来ている。屋内なら、日差しがあれば暖かく感じられるようになった季節。だからか、図書館にもまだ人は多いように思える。
僕は本を返却した後、本棚の並ぶ奥へ向かった。けれど双葉は、そのままカウンターで司書の南波ちゃんと話し始める。
ぷるんと耳を動かすと、静かな空間で二人の声は僕になら届いた。
「ところで茂木さん。先日は月刊もふもふの発売日でしたが……」
「ええ、もちろん読み終わってますよ。つきましては、対価の支払いの方は……」
こそこそ話すのは、まわりへの配慮か僕を意識してか。二人はもふもふのことに関して、とても話が合うらしい。双葉と図書館に来ると、二回に一度はこうだ。
別に、もふもふが好きなのはいい。それで気が合うのもいいことだと思う。ただ、これが終わった後の二人の目が、いつもよりハンターみたいでちょっと怖い。鋭い目で、僕の耳やしっぽをじーっと見るのだ。
ふるるんと小刻みに震えて、耳としっぽの毛並みが逆立った。
「この前、かわいい猫の写真が撮れました。それで手を打ちません?」
「猫、良いですね。大好きです。商談成立ですね」
ちらりと見ると、二人して仲良く双葉のスマホを覗き込んでいた。
たぶんこの前遊びに来た、五十鈴と朔が連れてきた子猫の写真だろう。珍しく双葉がスマホを手放さずに、一心に子猫たちを撮っていたのを覚えている。
僕はあまり気にしないで、本を選んでいる。平日のこの時間、人は多くない。まだ陽は短い。夕日の差し込む図書館は、どこか幻想的だった。
「それで、これが葵様のしっぽにじゃれついているところで」
「わ、可愛い。可愛いですねぇ。ふわふわのしっぽにうずもれる、小さい猫の前足……! たまりませんね」
「そうなんですよ。夢中でちょいちょい手を出してるところが、本当にかわいくて……!」
どうやら気に入った写真は南波ちゃんに送っているようだ。一枚見るごとに指を止めて、ここが良いそこがかわいいと語り合う。
ぴるんと耳が動くたび、そんな楽しげな声が聞こえる。こうしていると、双葉も普通の女の子らしく見えた。
しっかりしてて、面倒見が良い。神社では巫女見習いとして頑張ってる。だけどそんな双葉だって、ごく普通の女子高校生なんだ。
こういうところを見ると、なんだか双葉はかわいいなと思った。しっぽがもふぁんと一揺れ。
「最後に、とっておきの一枚です。これなんですけど……」
双葉は、もともと図書館だからとある程度ひそめていた声を、さらに小さくする。それでもさっきまでかなり盛り上がっていたから、最初に戻ったくらいだ。
「双葉さん。これ、最高じゃないですか……っ!」
「ですよね……! しっぽにくっついてぐっすり眠られちゃって。葵様は困ってたんですけど、私はもうずっと見ていたいくらいで……!」
「わかります。でもこれじゃ過払いですね。厳選のもふもふ物、追加しておきますね」
「わあ、ありがとうございます」
そろそろいいかな?
さりげなくしっぽをふぁたんふぁたんと動かして、存在を主張する。とたん、二人は慌ててスマホを隠して僕を見た。
「あ、葵様。早かったですね」
「か、貸し出しですよね。ちょっと待ってください」
ふわわっと、微妙に逆立った僕のしっぽの警戒に気づいているのか、反応が慎重だ。
これなら今日は大丈夫かな。特にいつも狙ってくる南波ちゃんも、写真で満足してるみたいだし。
ただ、手続きの終わった本を差し出す時、カウンターから出てきた。
先手を打って、本ごと南波ちゃんの手をぎゅっと握る。ついでに、耳もくりんと傾けてみせる。
「ありがとね。でも、今日はダメだよ? また今度ね、南波ちゃん」
「む……。わかりました……」
名前で呼んであげると、ちょっとおとなしくなるところが彼女のささやかな弱点だ。嬉しいらしく、それ以上は迫って来なくなる。
改めて本を受け取って、図書館を後にした。僕も双葉も、本の入ったトートバッグを持っている。選んだ本は全然違うものだけど、僕らは並んで歩く。
「葵様。途中で洋菓子店に寄って、何か買っていきましょうか」
「うん! 僕、カップケーキがいいな。春限定のメニューがあるんだって」
そうして買ったカップケーキ。僕は春仕様のいちごスペシャルで、双葉は限定メニューの耳としっぽ付きのものを選んだ。
「犬のも猫のもかわいかったですけど、やっぱり私は狐が好きですね」
そう言って笑う双葉が何よりかわいくて、僕も笑い返す。
春はまだ少し先だ。だから朝夕は寒いこの時期。でもそれを理由に双葉と手をつなげるから、嫌いじゃない。
ふたり一緒に歩く道。ふぁたりふぁたりとしっぽを揺らして、同じ家に帰る。




