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もふもふ子猫とシフォンケーキ

 白に限りなく近い灰色の空から、ちらちらと雪の降るよくある冬の日。今日は珍しく、来客の予定のない休日だ。

 かと思うと、スマホがメッセージを受信した。普段は沈黙を保っているせいか、ぴこんと控えめな音で通知を報せる。

 

「双葉はあんまり使わないよね、それ」

「そうですね、わざわざ使うまでもないと言いますか。友達はほとんど近所ですしね」

 

 ゲームもどうやら好みに合わないらしく、おそらく平均的な学生のそれよりも、スマホを触る時間は格段に短いだろう。

 家事もあるし、何より硬質な画面より葵様のしっぽの方が触り心地が良いに決まっている。

 

「あ、五十鈴ちゃんです。今から来るみたいですね」

 

 遊ぶ予定なら学校で話すはずだから、急に思いついたのか。いや、最近になって五十鈴ちゃんが急に予定を入れてくる件があった。

 

「もしかして、あやかしのこととかですかね……?」

「そうかも。朔も来るって。それに字を間違えるの、五十鈴にしては珍しいよね」

 

 葵様は人をよく見ている。だからこそ、いろんな人に慕われているのだろう。

 一緒に端末を覗き込む葵様の耳がぴるんと触れた。

 

「あれ、もう来たみたい。早いね?」

「五十鈴ちゃんの家からかかる時間じゃないですね。近くにいたんでしょうか」

「双葉ー! ごめん、開けてくれ!」

 

 噂をすれば影、だ。縁側の方から五十鈴ちゃんの声がした。

 

「はーい!」

 

 返事をして、縁側へ向かう。板張りの廊下の冷たさがしみる。靴下越しにも感じられる冬に身震いしながら、この季節は閉めきっている戸を開く。

 そこには、コート姿の五十鈴ちゃんと朔くんがいた。そしてふたりとも、腕の中にそれぞれ二匹ずつ子猫を抱えていた。

 

「わ、かわいいですね。どうしたんですか、この子たち」

「うん。最近、常世あっちの町に引っ越してきた化け猫さんの子供でさ」

「町で暮らす上での、人との関わりについて宮守さんが説明している。それで、子守りを頼まれた」

「交渉人見習いとしての仕事の一環ってね」

 

 代わる代わる説明し合う五十鈴ちゃんと朔くんの息はぴったりだった。より詳しく聞くと、頼まれた時は向こう側の町にいて、神社へ繋がる出入り口の方が近かったからこちらへ来たらしい。

 迎える私に、五十鈴ちゃんが「双葉、もふもふ好きだろ」と耳打ちしてきた。

 

「すまないな、葵。少しの間邪魔をする」

「うん、大丈夫だよ。あ、子猫だね。妖なんだ」

 

 葵様は一目で見抜いてしまった。私が見ても、普通の子猫にしか思えない。やはり何か、わかるものがあるのだろう。それを違うと嘆くのではなく、自然と受け入れたいと思う。私は、それも含めての葵様が好きなのだから。

 

 私と葵様がいつもいる居間はストーブで暖められていて、放された子猫たちはすぐにくつろぎ始めた。ころころとたわむれる姿がとても愛らしい。

 短いしっぽをぴんと立て、とてとて駆けては兄弟とじゃれ合う。柄の違う子猫たちは、まるで転がる毛糸玉のようだ。

 

「あれ、触らないのか?」

「五十鈴ちゃん。もふもふには、それぞれ適した楽しみ方というものがあります。距離感もまた、その要素の一つです。それに触って驚かせてしまっては、かわいそうですから」

「う、うん。そうなのか……。まあ、配慮はありがたいよ。さすが双葉だ」

 

 私の熱弁に、五十鈴ちゃんはなかば気圧されながらうなずいた。

 猫じゃらしなどをうちに置いていないことを、惜しいと思った。何かおもちゃがあれば、また違った動きを見せてくれただろうに。

 

 子猫たちが次にみつけた遊び道具は、どうやら葵様のしっぽらしい。ふぁたふぁた振られるしっぽに、猫まっしぐらだ。

 

「あのね、僕のしっぽはおもちゃじゃないからね?」

 

 しっぽをよじ登る子猫が、どこまで聞いているのかは疑問だ。先にちょいちょいと手を出す子もいる。

 

「しょうがないなぁ」

 

 これは、私が長めの時間もふもふしたり、司書さんに触らせてほしいと頼まれた時と似た声だ。

 

 葵様は、しっぽを大きくもふぁんと縦に振ったかと思うと、今度はふぁさふぁさ左右に小刻みに揺らす。親猫が自分のしっぽで遊ばせるように、子猫たちをじゃれつかせる。最高に魅力的なもふもふの共演だ。

 じーっと葵様のしっぽと子猫を見つめていると、反対側では五十鈴ちゃんも同じことをしていた。

 

 猫は気まぐれ、子猫ならさらにだ。一匹がとったとった走って向かったのは朔くんの元で、彼の手に頭をこすりつけてにゃーにゃー鳴く。

 

「何だ? まとわりつくな。言いたいことがあるなら話せ」

「……おなかすいた。なんか食べたいー」

 

 みいと不満げに一声鳴いてから、子猫は人の言葉で話した。それでも舌ったらずな声がかわいくて、私は頬を緩める。

 

「買っておいた洋菓子がありますから、持ってきますね。ミルクも欲しいですか?」

「うん、ほしいー。おねえちゃん好き、やさしいからー」

 

 目線を合わせるためにしゃがんだから、至近距離に子猫がいる。膝にすりすりくっつかれれば、服越しの柔らかな毛並みと温かな体温が心地よい。

 三毛柄の頭を一撫でして、私は台所へと向かったのだった。

 

 ミルクを温めつつ、ホールのシフォンケーキを切り分けていて、ふと疑問に思う。

 

「あのー、朔くん。ちょっといいですか?」

「ん、どうした? 双葉」

「ミルクは、何で出してあげれば良いでしょうか」

 

 妖とはいえ、一応猫だ。しかし、平たい皿で出してしまうのも気がひける。

 

 振り返った瞬間、私はぴたりと静止した。あんまりまとわりついたのか、何なのか。理由はわからないが、朔くんの虎に変わった手の中に子猫が一匹。

 葵様とはまた違ったもふもふと一緒の子猫は、大きな手の中でわたわた暴れている。

 

「か、かわいい……っ! 朔くん、そのまま! どうぞそのままで! えーっとカメラ、じゃなくてスマホは……」

「待て、落ち着け双葉。包丁を持ったまま歩き回るな……!」

 

 ささやかな騒ぎを起こし、無事子猫のかわいらしい姿を大量に連写した後。改めて朔くんにもう一度聞いてみた。

 

「コップで良いと思うが。手伝うか?」

「ありがとうございます、助かります」

 

 朔くんに手伝ってもらい、洋菓子と全員分の飲み物を居間へ運んだ。

 とたん、子猫たちが足元にまとわりついてくる。歩いていても、ふわりとしたもふもふの余韻を残して器用に避ける。

 

 中央にあるちゃぶ台の上に、ミルクとシフォンケーキを置く。低いちゃぶ台の上を、前足をかけて覗き込む子猫たちのしぐさがかわいらしい。

 

「ほらお前たち、人の姿になれ。もう出来るだろう」

「あと、食べる前にはちゃんと『いただきます』だぞ」

「はあい」

 

 良い返事で、子猫たちは人の姿に変わった。それぞれ柄の違う耳やしっぽは残っている。

 そんな期待にぴんと立った細長いしっぽの中、ひときわボリューミーな狐のしっぽがぼふぼふ床に叩きつけられていた。

 

「あ。ミルクあったかーい」

「ちょうどいいねー」

「猫舌仕様なのか? 良かったなー。さすが双葉だよ、ありがとな」

「いえ。慣れてますし、性分ですから」

 

 神社には子供たちがよく訪れる。面倒を見るのは慣れているのだ。それに、こういうことは性に合っているし好きだ。

 

「ほら、双葉も。ふわふわで、おいしいよ?」

「あ、はい」


 シフォンケーキに添えるために、ジャムやクリームを数種類用意してある。

 葵様が取ってくれた私の分の一皿には、すでに添えられている。葵様だろう。一口分ずつ、いろんな味を楽しめるようにとの心遣いが嬉しい。

 

 甘い洋菓子と気心の知れた友人たち、至福のもふもふ。冬の暖かな部屋の、居心地の良い穏やかな時間。その大切さで胸を満たして、私はシフォンケーキを口に運んだのだった。

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