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田植えとプリン

 今日は町内会のイベントで田植えがある。この町は農業も盛んで、特に田んぼがある家ではお米を買わなくても良いくらいだ。

 では、なぜあえてイベントでまで田植えをするのかというと、子供たちに農業に関心を持ってもらうためらしい。家の手伝いではなくイベントなら、より効果があるのではという理由だ。

 

 神社が田んぼから一番近いため、休憩所になっている。週末なので学校のない私は、運営の手伝いに駆り出されていた。

 同じく葵様は農作業の方の手伝いだ。子供たちに人気な葵様は、説明などを担当するたび「はーい」といい返事をもらっている。

 

「じゃあ双葉、行ってくるね」

「はい。うっかり田んぼに落ちたりしないでくださいね。洗濯は私の仕事なんですから」

 

 冗談半分に付け足すと、ふぁたりと一つしっぽを振って葵様が応えた。

 葵様は今日はいつもの和服ではなく、つなぎを着ている。ほとんどの大人も同じくつなぎで、子供は学校の体育着だ。私もたまに田んぼの手伝いへ回るため、ジャージ姿をしている。

 

 テーブルや椅子、テントの設営を終わらせる。商店街からの差し入れであるお茶を容器に氷と共に入れ、何種類かのお菓子を入れたお皿と各テーブルに配置する。

 交代制で動いているため、休憩所に来る人は途切れない。ただ私くらいの動ける年頃のお手伝いは、手が空くと力仕事の農作業に回される。

 

「あ、双葉来たんだ。思ったより早かったね」

「そうですね」

 

 稲の苗が入ったごく浅い箱を抱えた葵様が、私に気づいてしっぽをぱふんと揺らした。

 

「おお、双葉ちゃんも来たなが。したば(そしたら)、そこの苗取ってけねが(くれないか)」

「あ、はい」

 

 いつもは標準語で話すことが多い人も、なぜだか農作業をしていると方言になる。ちょっと不思議だ。

 

 あぜ道に置いてある箱を持ち上げる。苗と一緒に入っている土のせいか、見た目の割には重い。これをいくつか田植え機に積めば、準備完了だ。

 ただ数があるので、子供たちを筆頭に入れ替わり立ち替わり田植え機まで苗を運ぶ。途中からは、バケツリレーのようになった。

 

 積み終わると、葵様が田植え機のわずかな空いたスペースに乗り込んだ。

 

「双葉もおいで。苗がちゃんと植えられてるかとか、薬が撒かれてるか確認するんだよ」

 

 そういう口実で、たぶんただ乗りたいだけだ。普通には行けない田んぼの中を通るということに、謎のわくわく感があるらしい。

 

「おー、せめけど三人ぐらい乗れるべ。子供だ(たち)だば(なら)、もうほとんど乗ったがらな」

 

 どうやら順番を決めていたらしい。みんな乗りたがるからだとか。

 お言葉に甘えて、私も乗ることにした。主に確認のためだが。

 

 がくん、と動き出す時にしっかり掴まっていないと、バランスを崩しそうになる。

 田んぼの中を行く田植え機が通った後は、まるで茶色の生地に緑の糸で刺繍したかのように稲が植えられていく。

 独特の振動に、葵様の耳やしっぽの毛先がほんのわずかにふるふると揺れていた。

 

 田んぼの向こうから折り返して、再びあぜ道に戻ってくる。その頃には、私と葵様の休憩時間になっていた。

 

「そういえば、休憩所には洋菓子があるんですよ」

「ほんと? 急ごう、双葉!」

「はいっ」

 

 葵様に手を引かれて駆け込むようにして着いた休憩所では、みんな葵様の洋菓子好きを知っているのでそんな私たちを見て優しく笑いかけられた。

 すぐに出された洋菓子は、よく冷やされたプリンだった。今日の気温は暑いというほどではないが、作業をしてほてった身体に冷たさは心地よく、甘さは疲れを癒す。

 

「おいしーい」

 

 ぴるぴると耳が、しっぽはふぁたふぁたと少しばかり控えめに動く。さすがに朝から働いているだけあって――特に葵様は力仕事をしている――、疲れていたのだろう。

 

「もう一頑張り、ですよ」

「うん!」

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