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お花見とシュークリーム

 はらはらと、風に桜が舞う。それぞれの木から散る花びらの数は少ないが、多くの木があるここではまるで桜吹雪だ。

 ここは、町の図書館。裏には広い庭があり、いくつかの種類の木が植えられているのだった。むしろ、庭と言うより小さな森林公園だ。中でも多いのは桜で、毎年桜が咲く頃になると、図書館主催でお花見が行われる。

 

 イベント事には好んで顔を出す葵様は、もちろん図書館へ一緒に行こうと誘ってきた。私も行きたいと考えていたし、司書さんにも是非と誘われていた。

 

 お花見には、商店会も協賛している。当然ながら、小さな町のイベントとはいえ大所帯になる。

 私と葵様が着いた頃には、お花見はもう始まっていた。賑やかな声は途切れずに響き、時折子供のはしゃぐ笑い声が混じる。

 

「こんにちはー」

「あ、葵さまだ!」

「いらっしゃい、葵様。巫女さんも」

 

 若干遅れてくる人たちも多いが、暖かく迎えられる。この町の人たちの、こういうところが好きだ。

 都会の方では近所付き合いがなくなりつつあると耳にしたことがあるが、ここではまだ色濃く残っている。何せ、近所付き合いは長い間続いた習慣のようなものだ。そして長い間続くものには、それ相応の理由がある。

 

 ブルーシートの上に座ると、色々と勧められた。今日はお花見があったので、昼食は食べていない。開催が午後一時からだからだ。

 いなり寿司を差し出されたあたりで、葵様のしっぽの揺れがさらに大きくなった。後方は桜だし、大丈夫だろう。

 上下にばっふぼっふと振られるしっぽに、まわりの雰囲気がほわわんとした。

 

「これおいしいよ。ほら、双葉も」

「じゃあ頂きますね」

 

 受け取ると、耳が嬉しげにぴるんと動いた。いつ見ても可愛い。

 

 一段落して頭上を見上げると、空の青に桜の薄紅色がよく映えていた。昼下がりの柔らかい陽が、淡く花弁を透かす。風に梢を揺らせば、はらほろと花びらを散らす。舞う花が、空気までピンクに染め上げてしまいそうだ。

 ふと目を向けると、ふぁたりふぁたりと揺れる葵様のしっぽに、可愛い飾りがついていた。思わず笑うと、片耳を傾けて葵様が覗き込んできた。

 

「双葉?」

「葵様のしっぽに桜がついていたので、つい」

「そっか。こんなに咲いてるんだもんね。咲くのも散るのも、散ってからも桜は綺麗だよね」

「はい」

 

 ゆったり揺れるふかふかのしっぽ。桜はもったいないけれど、またくっつくだろう。そう考えて、まふっと抱きついた。

 

「双葉、いきなりはびっくりするよ」

「たまにはいいじゃないですか」

 

 暖かいひなたで、幻想的に桜が舞っている。賑やかなお花見は、だんだん盛り上がっていく頃だろう。そうなれば、葵様は特に引っ張りだこだ。もふもふを堪能するなら、今しかない。

 

「やっぱり、葵様と双葉さんは仲良しですねー。私もいつか、そのもふもふに抱きついてみたいものです」

「あ、司書さん。そうやって獲物狙う猫みたいにしてないで、触った方が僕だって変に警戒したりしないのに」

 

 司書さんも、もふもふ好きだ。その特権を活かして――行き過ぎれば職権濫用だが、まだその一線は越えていない――図書館にもふもふ本を続々入荷している。

 

「まあそれはそれとしてー。お菓子屋さんからの差し入れを持ってきました。葵様の好きな洋菓子で、シュークリームですっ!」

「しゅーくりーむ!」

 

 洋菓子の登場で、葵様のしっぽの揺れは最高潮に達した。その勢いに負けたの半分、単純に動きを見ていたいの半分で、私はしっぽを離す。

 途端にぼふんぼふんと、桜が積もって絨毯のようになった地面を叩き出すしっぽ。明るい茶色が、舞い上がった桜のピンクをまとった。

 

「カスタードクリームがこぼれるかもなので、気を付けてください、だそうです」

「はーい」

 

 大人びていたり子供っぽかったり、葵様はなんとなくつかみどころがない。そこも、魅力の一つのような気もするけれど。

 そういえば、それは私に対してだけだと聞いたことがある。相手によって少し態度が違うのは当然だが、こうもくるくる変わるのは、私一人だけなのだと。確か言っていたのは、葵様のお姉さんのツツジ様だったはずだ。

 

「おいしい! 双葉、あーん」

「え? は、はい」

 

 どうしてその流れで『あーん』なのかはよくわからなかったが、とりあえずうながされるまま口を開ける。

 シューは柔らかく崩れて、バニラビーンズで香り付けされたカスタードが甘い。王道と言える、どこか懐かしさを感じる味だ。

 

「ん、おいしいですね」

「うん。だから、双葉と一緒に食べたかったんだ」

「それは……。すごく、嬉しいです」

「あのー? ちゃんと双葉さんの分もありますよ」

 

 あ、司書さんがいるんだった。神社いえでのものと同じ雰囲気になったので、つい流されてしまった。

 

「こう言ってはなんですけど、恋人同士っていうよりは家族みたいでしたよ、おふたり」

 

 確かに葵様も私も年頃で、自分から見ても他人から見ても、これほどの距離ならば、もしかすれば恋人同士のように見えるかもしれない。

 それでも私たちは幼い頃から共にいたので、どうしても互いをそういうふうには見ない。

 恋人以上に大切で、自分とは切り離して考えられないほどあたりまえに近くにいてくれるひと。

 

「人と神だけど、双葉とは家族だから」

「葵様は家族のように大切な方ですから」

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