表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/37

感謝の気持ちとチョコレートフォンデュ

 そろそろ天気予報の雪が、雨に変わることが多くなったこの頃。とはいえ東北地方に位置するこの辺りはまだ寒く、春はまだ先のことのようだ。

 

 学校が年度末で忙しいという双葉の代わりに、今日は僕が買い物に来ていた。なんでも、双葉が通っている高校という学校は、この時期受験とか卒業式とかの準備を在校生がやるからだとか。

 僕には縁がないけど、学校って楽しそうだなぁってたまに思う。でも、神社にお客さんが来たり、近所の子供たちと遊んだり、こうして出掛けたりするのも楽しいから、僕はこのままが一番かな。

 

 そんなことを考えながら歩くのに合わせて、しっぽがふぁたふぁた揺れた。商店街の賑やかさを心地よく感じる耳は、くりくりと忙しく向きを変えて辺りの音を聞く。

 

「おや。いらっしゃい、葵様」

 

 着いたのは、商店街の中のとある店だ。ちょうどいい言葉じゃ表せないのは、商品のジャンルが幅広いからだった。しいて言うなら、他の店ではそろわない物とかを置いている。

 

「こんにちはー。今日はこれとこれください」

「はい、毎度ありがとうね。ああそうだ、これはおまけね。葵様には、いつもお世話になってるからねえ」

 

 おまけなんて珍しい……こともないけど、何だろうかと気になって見ると、それは板チョコレートだった。

 

「バレンタインもかなり過ぎてるのに、申し訳ないんだけどね。うちでも余っちゃったし、お菓子に加工すると逆に賞味期限が短くなるんだよ」

「そうなんだ。じゃあ僕がもらうね。たぶん今日も子供たちが来るから、一緒に食べるよ」

 

 でも、思ったより多い。

 ここの商店街でも、八百屋さんや魚屋さん、果物屋さんとこの店は違うからこういう品物も置いている。開発計画とかいうのがあって大きなショッピングモールができても、地元の人はこの商店街で買い物をしている。ここでも充分欲しい物がそろうからだ。

 

 帰り道。持ちやすいようにと袋を別にしてもらったチョコレートは、重みで確かな主張をしてくる。

 ……やっぱり、多かったかもしれない。食べきれなかったらどうしよう。

 

 へたんとしっぽが落ち込みながら歩いていると、ちょうど双葉と学校からの道で会った。

 

「あ、葵様。おかえりなさい」

「ただいま。双葉もおかえり。あのね、チョコもらったんだけど、どうしよう」

「……? あー、多いってことですね。そうですね……。じゃあアレをしてみましょうか」

 

 察してくれた双葉は、すぐに何かを思いついたみたいだった。

 さすがだなぁ。でも、アレって何だろう?

 首を傾げた動きに合わせて、ぽてっと両耳も右に傾いた。

 

 神社に着いて買ってきた物を台所でしまっていると、双葉は調理用具を置いてあるところから、小型の噴水みたいな形の物を持ってきた。

 

「双葉、それ何?」

「うちでチョコレートフォンデュができる道具です。今日も子供たち来るんですよね?」

「うん! 楽しそうだね、ちょこれーとふぉんでゅ」

 

 チョコレートフォンデュは、テレビで何度か見たことがある。みんなで集まって、いろんなものにチョコをつけて食べる、料理だったかな。うちでもできちゃうなんて、すごいなぁ。

 

「葵さまー!」

「あーそーぼ!」

 

 いつのまにか、いつもの時間になってたみたいだ。玄関まで迎えに行かなきゃ。あ、チョコレートフォンデュの準備もしないと。

 あわあわすると、頭上では耳がぴるぴる動いてしっぽはぶんぶん振られた。わかりやすく慌てる僕を見た双葉はくすっと笑って、「迎えに行ってあげてください」と言った。

 

「ありがとう、双葉」

 

 ふぁたふぁたとしっぽを揺らして僕が玄関に行くと、今日来ていたのは六人だった。

 

「みんな。今日は特別な洋菓子があるよ!」

「ほんと?」

「やったぁ!」

「葵さま、ありがとう!」

 

 ストーブで暖められた居間。雪はもうそろそろ降らないだろうけど、まだ寒いから使っている。ちゃぶ台の上では、さっき見たフォンデュ鍋がチョコを溶かしていた。これが噴水みたいになるには、もう少しかかるみたいだ。

 僕たちからしばらく遅れて入ってきた双葉は、手に切った果物をのせたお皿を持っていた。

 

「準備できましたよ」

「わーい!」

 

 上がった歓声の中には、僕のものも混じっている。だって、チョコレートフォンデュだよ? わくわくするよね。

 ばっふばっふと動き出そうとするしっぽを、早めに押さえつける。危ない。チョコに毛が入っちゃったら、大変だもんね。

 

 温まってとろけたチョコに、長い銀の専用フォークで刺したいちごをくぐらせる。

 口に含むと、チョコの甘さといちごの甘酸っぱさがいいバランスでおいしかった。やっぱり動き出さずにはいられないしっぽを、まふっと片手で抱え込んだ。

 僕の後を追うようにして食べ始めた子供たちとも顔を見合わせて、「おいしいね」と言い合う。

 

 しばらくして、あれだけあったチョコレートはあっというまになくなった。

 

「そうですか。バレンタインの売れ残りを分けてもらったんですね」

「うん。僕も洋菓子は好きだし、子供たちもよく来るし、うちならいっぱい食べれるでしょ。残ったらもったいないもん」

「そうですね。……ところで、バレンタインって感謝を表す行事でもあるんですよ。この町のみなさんは、みんな葵様に感謝していますから」

 

 そういえば、あの時にもそんなことを言われた。そうだったらいいな。僕はこの町も、この町の人たちも好きだから。

 

「僕も、お礼したいなぁ。でも、来年じゃ遠いね」

「大丈夫ですよ、葵様。三月にはホワイトデー、バレンタインのお返しができる日がありますから」

「……! そうだね、うん!」

 

 今年のホワイトデーは、頑張ってみようかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ