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クリスマスとシュトレン

 降り積もる雪は、ふわふわと宙を舞ってから落ちるものだ。風にあおられて、その行く先は不規則で予測不能だから、見ていて楽しいのだと葵様は言った。

 

 ゆったりとしっぽを揺らすのは、雪と同調しているからだろうか。

 静かな冬の背景の中、ほんの時折ふぁたりと床を打つ音が聞こえる。聞こえない雪の音を探っているのか、耳はくりっと方向を変えてはぴるんと先だけが動く。私はそれを家事や宿題の合間に見ているのだった。

 

 このあたりの学校は、ほとんどどこも冬休みに入っている。だが今日は珍しく近所の子供たちが遊びに来ていない。なぜなら神社に来客があるからだった。

 

「あ」

 

 声と同時に、葵様の耳がぴんっと反応する。例の来客が到着したのだろう。

 

「こんにちはー! ただいまかな? でも、ここうちじゃないしなぁ。まあいいや。双葉ー、いるんでしょー?」

「はーい!」

 

 返事をして玄関へ向かおうとすると、窓際に座っていた葵様も立ち上がってついてきた。ふぁたふぁたと、しっぽの揺れる速度が速くなっている。

 玄関で私と葵様を待っていたのは、三十代程度の町中では目立つ巫女装束の人と、真っ白な狐耳としっぽを持つひとの二人組。私の母と葵様のお姉さんだ。

 

「久し……」

「双葉、久しぶりー。いい子にしてた?」

 

 最後まで言う前に、むぎゅうっと抱きしめられた。

 それにしてもいくら離れて暮らしているからといって、いつまで子供扱いするんだろう。だけど、こんなふうに微妙な距離感なんか簡単に飛び越えてしまう人だから、普通と違うこの関係でもこじれたことはなかった。

 

「お土産あるわよ。葵様に、うちの双葉がお世話になってるお礼」

「こっちだって、双葉ちゃんさは弟がお世話になってるからなぁ」

 

 お母さんに答えたのは私でも葵様でもなく、葵様のお姉さんだった。東北地方の訛りで話すひとなのだ。

 

「玄関先は寒いし、お姉ちゃんもおばさんも中どうぞ」

 

 葵様とお姉さんのツツジ様が並ぶと、もふもふがいつもの倍で見ていてより満足感があった。葵様の明るい茶色とツツジ様の真っ白なしっぽがぶつかると、低反発のおかげでもふぁんととても魅力的な動きをする。

 居間は、つけておいた暖房で暖められていた。葵様の保温性の高いしっぽの方が好みだけど。

 

「はい、これお土産ね。シュトレンって言って、菓子パンなんだけど充分洋菓子に入るんじゃない?」

「洋菓子!? ありがとう、おばさん!」

 

 ぼっふぼっふと葵様のしっぽが大きく振られる。

 

「もう、わかりやすく喜んでくれるんだから。葵様は可愛いね」

 

 へにゃんとした緩い笑みで、お母さんが葵様の頭をなでる。本人の中にだけある可愛いの規準を満たした相手は構いたいらしい。その中に私と葵様も含まれるのだ。

 

「ほんと、葵はお菓子っこ好きだな」

 

 「好き」の「き」には濁点がついているふうな言い方で、ツツジ様は耳をふるんと動かしつつ言った。

 

「双葉ね、いつも一緒に洋菓子食べてくれるんだよ」

「んだなが(そうなの)。双葉ちゃんは優しい子でいがった(良かった)なー」

 

 今度はツツジ様に抱きしめられる。顔の横にふこふこした狐耳の感触。葵様とはまた違ったもふもふだ。

 

「弟もいいけど、おなんこ(女の子)もいいな。双葉ちゃん、めんけー(可愛い)からな」

「ありがとうございます……?」

「そりゃあ私の子だもの。可愛いに決まってるよ」

 

 そう。この二人、身内が大好きなのだ。スキンシップも大胆で、距離も近い。

 

「お姉ちゃんだけずるい。僕も双葉ぎゅーする」

「わっ?」

 

 葵様にも抱きつかれれば、もふもふが二倍だ。間近で二色のもふもふしっぽが堪能できる、特等席。

 

「おっと。ツツジ、そろそろ帰らないと」

「さいっ(しまった)。葵、双葉ちゃん、へばまんつ(じゃあまたね)!」

「また来るね。双葉、葵様」

 

 慌ただしく、二人は帰っていった。マイペースなところや、他にも色々似たところがあるため馬が合うのだそうだ。要は相性ぴったりの二人組。一緒にいるのがとてもしっくりくる。

 

「帰っちゃったね」

「ですね」

 

 ちゃぶ台の上に、箱に入ったままのシュトレンとやらが置きっぱなしになっている。開けると、蓋の裏に手紙があった。

 

『シュトレンは、砂糖で包んであるので保存がききます。クリスマスの一ヶ月以上前から作っておいて、毎日少しずつ食べていくものだそうです。ドライフルーツとかが馴染んで、毎日味が変わるからだとか。食べ頃はクリスマス当日になったはず! これは私とツツジで作りました』

 

 砂糖に包まれたシュトレンは、ツツジ様のしっぽみたいな白さだった。切り分けられていたので、葵様と一つずつ手にとって食べてみた。

 ドライフルーツやナッツが食感のアクセントになっていて、砂糖は甘過ぎないが、生地そのものにはじゅんわりした甘さがあった。

 

「クリスマスプレゼントなのかな」

「そうみたいですね」

 

 私と葵様はもう一切れシュトレンを食べ、甘いプレゼントに舌鼓を打ったのだった。

台詞の方言等でわかりにくい箇所があった際、ご指摘頂ければ訂正・標準語訳を致します。

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