ガトーショコラに粉雪砂糖
ぱしん、小気味良い音が枯れ葉もなくなった公園の中に響く。日陰には雪が積もりつつある、冬の始まりだ。
手に持ったラケットを振るう。打たれたシャトルが反対側のコートへ緩い放物線を描いて飛んでいく。
そう。バドミントンだ。
「いっくよー!」
葵様が、大きくラケットを振りかぶる。ぱんっと強い音。
次の瞬間、シャトルが私側のコートに叩きつけられた。スマッシュだ。私のラケットはギリギリで届かなかった。
「負けました。葵様の勝ちですね」
「えへへ。ありがとうございました」
葵様がぺこり頭を下げると、一緒にぺたんと耳が前に倒れるのがかわいい。ついでに、ちょっと得意げにしっぽがはたはた動いていた。
試合を見ていた子供たちが、葵様のまわりに集まる。葵様にバドミントンを教えたのは彼らで、ここ最近バドミントンが流行っているかららしい。
私も学校の体育の授業でも球技でバドミントンをしていると話したら、葵様に試合を申し込まれ今に至る。
「でも、どうして急に試合をしてみたいなんて言ってきたんですか?」
「寒くなってきたし、双葉と遊びたかったし、あとスポーツの秋忘れてたから」
そういえばこの秋は、葵様に「〇〇の秋探し」で色々なことを一緒にやったのだった。今回もそれの一環らしい。
「確かに、そろそろ外で遊ぶには寒い季節になりましたね」
初雪が降ったのは最近の話だし、今週も天気予報は雨マークの中に雪だるまが混ざっている日が多い。紅葉も終わり山が眠るこの頃は、もう冬と呼べるくらいだ。
「そうだね。これからは、誰かのおうちで会うことが多くなるよね」
「神社にも遊びに行くよ、葵さま!」
「広いからかくれんぼもおにごっこもできるし、ゲームしてもいいよね!」
うちの神社の、ある意味冬の風物詩な風景だ。
葵様は老若男女関係なく、幅広い層の人々に好かれているので、そもそも来客が多い。特に冬は、遊びに来る子供たちで賑わう。
「あ、もう夕方だね。みんな、遅くならないうちに帰ろっか」
葵様の呼びかけに「はーい」と子供たちの声がそろう。それは引率の先生……と言うよりは、面倒見の良い近所の兄貴分だ。
二人子供が駆け寄って、葵様と手をつなぐ。順番が決まっているのだと前に聞いたことがある。
歩くたび、ふぁたふぁたとゆったりしたリズムでしっぽが揺れる。それにまふっと抱きつく子もいた。葵様のしっぽは人気だ。
ふと、雪が降ってきた。ちらちら舞うのは、柔らかく軽いからだ。
神社に近づいていくごとに、一人二人と子供たちとは別れていく。この辺りには、民家が少ないからだ。
すっかり冷えた手に息を吐きかけていると、葵様に手を握られた。
「つないだ方が、あったかいよ」
頭上で雪のくっついた茶色い狐耳が片方、ぴるんと揺れる。
「そうですね」
笑い返して、ぎゅっと力を込める。私より大きくて、暖かい手だった。
「葵様?」
「しっぽの方が良かったかな。双葉も好きみたいだし……」
なぜだかそんなことを真剣に考えていた。困ったようにくてんとなっている両耳がかわいい。
「手の方がいいですよ。だって並んで歩けますから」
ぽふっと一揺れするしっぽが、私の足を叩く。
「そっか。うん、そうだね」
「……今日は、洋菓子がありますよ」
「すぐ帰ろう、双葉!」
歩調が一気に速くなった。走る葵様に引っ張られながら、私は手から伝わる気持ちに同調したのか、なんだか帰るのが楽しみになっていた。
おやつとして出されたガトーショコラを見つめ、葵様が「雪みたいだね」と呟いた。窓の外の風景には空からの雪が、ガトーショコラには砂糖の雪が降っていたのであった。




