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置いてきぼりとロールケーキ

 僕の耳やしっぽを撫でていく風が、少し冷たくなってきた頃。秋の始まりだ。

 ちょうどその頃から、いつもは用がなければすぐ帰ってくる双葉が遅くなることが増えていた。文化祭の準備だって言って、忙しいのに楽しそうにしている。

 

「葵様、いってきます」

 

 そう言って土曜日なのに双葉が学校に行ったのは、もう何時間も前のことだ。たまにあることだし、いつもの方が遅いとわかっていても、何か嫌だった。

 

 することもないし、いつもなら双葉だっているのに。

 そんなことを考えながら、色づき始めた葉を見て、僕はぼっふぼっふとしっぽを大きく荒々しく床に叩きつける。

 

 この家では暮らしていない双葉の両親や、特にお世話になっている親戚の人は文化祭を見に行ったけど、僕は双葉に留守番を頼まれてしまった。

 

『え……葵様も来たいんですか? それは恥ずかし……じゃなくて、留守番しててくださいよ。神社にあおい様がいないなんて、おかしいですし……』

 

 僕は比較的自由に毎日過ごしている。そりゃあ、一日中出かけたりはできないけど、外にだってよく行っている。

 だからそれは理由にはならないはずで、双葉もわかっているはずなのに。

 

「双葉の…………ばか」

 

 修学旅行とか、学校の行事があるからとおいていかれることはこれまでにもあった。だけど、こんなふうに説明とかもされないままなのは……何か、嫌だ。

 

 もう一度、ばっふんとしっぽで床を打つ。

 

「葵様、ただいま帰りました」

「!」

 

 僕がしっぽをばふばふさせてた縁側は、外からでも見える。だから双葉はそこから来たんだろう。

 

「双葉、遅いよっ!」

 

 裸足の僕は庭の双葉のところへ駆け出した。

 ひっついた双葉の制服からは、色んな匂いがした。箒ではたくようにふぁたふぁたとしっぽをぶつける。きっと頭の上では、耳が落ち着きなくぴこぴこ動いているはずだ。

 

「お、落ち着いてください葵様っ」

「おいていかないでよー」

 

 へたーんと情けなく耳がたれて、しっぽもぽてっと落ちた。慌てたように、双葉が耳も含めて僕の頭を撫でてくれる。

 

「なんで留守番させたのっ?」

「…………。あの、今年うちのクラスはステージでの発表が、女子全員でダンスって。それだけならよかったんですけど……」

「なあに?」

「き、着ぐるみでってことになったんです! 葵様だけには見られたくなかったんです! でも動画録られちゃったみたいなので、私のいないところでどうぞ! あとこれお土産です!」

 

 真っ赤になった双葉は、立て板に水ってかんじにまくし立てた。

 ついでに、リュックの中から色々入った袋がどさっと渡される。覗くと、文化祭のお店――これもクラスの出し物の一つだと教えてもらった――で買ったという食べ物。中には、洋菓子もあった。

 

「ああ、それ私のクラスの商品です。栗味のクリーム入りロールケーキ」

「やった、洋菓子! 双葉ありがとう」

 

 理由もわかったし、洋菓子もある。それだけで僕のしっぽは元気を取り戻してふぁったふぁったと揺れた。

 

「双葉、あっちで一緒に食べよう?」

「はい、葵様」

 

 ちなみに後で、こんなやりとりがあった。

 けーたいで録ったという双葉たちのダンスの動画で、双葉は猫の着ぐるみを着てた。

 

「なんで双葉の着ぐるみは狐じゃないのっ!? ほんとは猫の方が好きなのっ?」

「違います! 狐のがなかったんです!」

「じゃあ仕方ないね……」

「私だって、狐がよかったんですよ……」

 

 ってね。

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