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お祭り巡りの夜

 太鼓の響きと笛の音が、夜の空気を震わせる。夜なのに眩しいローカル線の列車の駅前には、カラフルな出店が立ち並んでいた。甘い香り、食欲をそそるような匂いが入り交じり、会場のどこででも楽しげな人々の声が聞こえる。

 今日はお祭りだ。年に一度、商売繁盛を願うこの町伝統の祭り。

 

「双葉、お祭りだねっ」

 

 今日は珍しく柄のある浴衣を着た葵様がはしゃいでいる。いつもは無地の物が多いが、やはりお祭りの日は特別らしい。

 明るい茶色のしっぽが、歩くのに合わせてふぁたりふぁたりと揺れていた。

 

「肝心の神様がここにいてもいいんですかね……」

「毎年双葉はそこ心配するよね。大丈夫だよ、今日のは宵宮だから」

 

 そういう問題だっただろうか。まあ、私が気にしてもしょうがない。その辺りのことは、葵様がきちんと先代に教わっているはずだ。神事は明日の本祭でやるし、大丈夫だよね。

 

「ね、何食べよっか」

 

 少し先に行った葵様が首をかしげると、片耳だけくてっと傾く。

 

「たこ焼きはどうですか?」

「たこ焼き! うん、それにしよう。じゃあ、はい」

 

 ごく自然な動きで、葵様は私に手を差しのべる。迷うことなく私もその手をとる。

 別に人が多くてはぐれやすいわけでもないし、足場が悪いわけでもない。でもそうするのがあたりまえみたいに、私たちは手を繋ぐ。

 

「たこ焼きくださいっ」

「葵様じゃねえか、一年ぶりだな。ほれ、特別に一個サービスだ」

「やったぁ! えへへ、ありがとうございます!」

 

 祭りの時、葵様は率先して買い物をする。楽しんでいることが伝わるし、葵様自身人と接するのが好きだからだ。

 おかげで、年一回祭りに来るだけの店主とも顔見知りで仲がいい。

 

「あの、ありがとうございます」

「いいってことよ。それに巫女さんと分けるなら、そっちのがちょうどいいだろ?」

 

 このお店のたこ焼きは一パック五個。二人で一つ買った私たちに配慮してくれたという理由もあるらしい。

 

「双葉、あっちのベンチ空いてるよ」

「はい」

 

 たこ焼き屋さんの店主に一礼して、店を後にする。

 座ったベンチで開けたたこ焼きは、ほかほかと温かかった。

 

「んー。あっついけど、おいしいね」

「そうですね。外はかりっとしてるのに、中はとろとろで最高ですっ」

「あ! 双葉、次はあれがいい!」

 

 びし! と指を指すのと一緒に、ぴんと狐耳が、そしてふわふわのしっぽがぶんっと動く。

 指した先にあったのは、クレープの出店だった。次は甘いものが食べたくなったのだろう。そして洋菓子が。

 

「わかりました。行きましょうか」

「うんっ」

 

 再び手が私たちを繋いで、さっきまでたこ焼きを持っていたからか、暖かさを伝えてくる。

 

 からんころんと下駄の音が夜空に溶ける。行き交う人の顔は皆一様に楽しそうで、時には私や葵様に笑顔で挨拶をしてくれる。

 

 長い列ができていた出店からクレープを買って、さっきとは違うベンチに私たちは座った。今度のは休憩所で、座る場所を探していたら、そこにいた人たちが誘ってくれたのだ。

 

「双葉の、何?」

 

 クレープは好みのトッピングを選ぶことができて、私は葵様とは別のものを選んだ。

 

「ストロベリーとチョコです。葵様は?」

「僕のはねー、きゃらめるとばなな!」

 

 そちらもおいしそうだ。私のものとはまた違った甘い匂いがしているし、何より葵様のしっぽを見ればわかる。上下にばっふばっふと、いつもの五割増しの勢いで振られている。耳もぴこぴこと揺れている。

 

「いただきますっ」

 

 声をそろえて、私たちはそれぞれ自分のクレープを一口食べる。

 チョコの甘さがストロベリーの酸味を引き立てていて、クリームが二つをとりまとめていておいしかった。

 トッピングたっぷりのクレープを食べるときは、こぼれることに注意しなくてはならないけど、最初の数口だけは例外だ。遠慮なく、もう一口。

 

 さっきから葵様のしっぽが今度は横振れになったらしく、やたらぼふんと背中のあたりにぶつかる。

 それがふと、止まった。

 

「双葉双葉。あのね……一口だけ、交換してくれない?」

「いいですよ。はい」

 

 二つ返事で了承して、私の分のクレープを渡し代わりに葵様のそれを受けとる。

 こちらはバナナがメインといった感じだ。だけどキャラメルとクリームも程よく存在を主張していて、これもこれでおいしい。

 

「おいしかったー……」

 

 幸せそうに、葵様が一息つく。

 

「葵様は本当においしそうにスイーツ食べるねぇ」

「あたしもクレープ食べたくなってきたなぁ。買いに行こうか」

「そうねぇ。わたしも行こうかしら」

 

 正面に座っていた商店街の奥さんたち数人の団体が、がたんとテーブルをわずかに揺らして立ち上がる。

 確かに葵様があんなにおいしそうに食べていたら、自分でも買いに行きたくなるだろう。

 

「そうだ、もうすぐ花火だよ。行こ、双葉」

「はいっ!」

 

 祭りの空気を胸一杯に吸い込んで、私たちは花火を見るのにちょうどいい場所を探すため歩き出した。

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