009 : 神器
「君は自分の能力がどんな物がいい?」
「そうだな、この状況を打破できるんだったらなんでもいいや。別に能力があったとしても使うことないだろうし」
なんでこんなことを聞いてくるんだ?もしかしてこいつ自身が俺の能力を選ぶってことか?てっきり俺は俺の中に潜む隠された能力っていうのを引き出すって感じだと思ってた。
「なぁ、俺の能力をお前、神が選ぶのか?」
「ちょっと違うな。そもそも能力ってものが武器に宿るものだから、選ぶっていうか作るって感じかな。君は知ってるかい、神器ってものを」
神器……名前は聞いたことはあるが、よくは知らないな。昔、アオ爺が王都に眠る剣の話をしてくれたけど、あれが神器なのだろうか?俺はよくは知らないので首を横に振っておく。
「神器っていうのは私の何代も前の神が作り始めたものだ。君がいた前世の世界にはこういうものがなかったから、前世を探ってみてもないよ」
……ホントだ。魔剣とか言われているものも鍛冶職人が作ったものだ。ってことはこの世界にしか存在しないってことか。
「で、この神器ってのは、神が生涯でひとつだけ創り出すことができる、魂みたいなものだ。今までその神器は11個創り出されている。例えば、何もかもを切り裂く剣やすべてを見通す目薬とかだね」
「その神器ってやつがあればあのピンチを抜け出せれるんだよな」
「それはどうかな、神器っていうのは力が強力すぎる。故にその力と対等、それ以上の素質を持ったものを選ぶ」
神器は神の魂。その意味は神器は意志を持っているってことじゃないかと自分なりに解釈してみる。そんな強力なもの、俺は持つことができるのか。少しは剣術は習っているがまだまだだ。そんな俺が神器を手にしたら……その先のことは考えない。大丈夫……俺なら……
「で、どうだい、神器が欲しいか?」
「持たなかったら死。持ったら死ぬか、生きるか二択あるんだ。それだったら持つ方を選ぶ」
「ハクヤはいい目をしてる。じゃあ、早速始めようか」
すると神は目を瞑り自分の胸に両手を合わせておき、集中している。
「我が名はガネルド。今、神器『プラチナリング』を創る」
すると彼女の胸の周りが光る。優しくて明るい光。ガネルドが手を胸から離すと光は手についてきた。手を器のようにすると光は手のひらの上に乗りどんどんと小さくなっていく。それが指輪へと変わっていく。すると白金の指輪になった。そしてガネルドは俺の前に来る。
「左の薬指を出しなさい。早く」
俺はそれに従って左の薬指を差し出す。そこにガネルドの白くて綺麗な手で指輪を嵌めてくる。そして嵌め終える。……あれ、俺死んでない。ってことは……
「選ばれたのか?」
「違う。今からが……」
その時、俺の心臓はバクンと波打った。
指輪から文字のようなものが出てきて俺の肌の上で動いている。
「な、なんだこれ……うっ、うわぁー!」
頭に激痛が走る。立っているのが困難になり膝から崩れる。
「ここからが本番。頑張れハクヤ」
俺はその言葉は聞こえたが、何を言っているか理解することができず、意識を失っていく。
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「あっ、うっ、うーん?ここ、ここはどこだ……誰かいないのか。ガネルドー!」
俺の言葉は消えていく。周りを見回しても黒、俺はどこにいるのか、そしてここがどこかわからないっていう恐怖で、怖くなりしゃがんでうずくまる。
誰もいない。こんなことが昔もあったなー、確か森のときだったけ、俺の隣には……えっ……
俺が横を振り向くと……
「ア、アイナ……」
「お兄ちゃんなんで私の事知ってるの?」
アイナは可愛らしく首を傾げて聞いてくる。やっぱりアイナだった。
何故俺はこんなことに……そうだ。これはあの指輪の力。俺への試練なんだろう。
「それは……村で見かけたことがあるから」
「お兄ちゃん、村の大人なの?わたし、見たことないや」
やべー、アイナなんでそんなことを言うかなー。どうしよう。あっ!
「そんなことより君はなんでこんなとこにいるの?」
どうにか話題をそらす。でも、森に迷ったときにこんなことがあったなんて言ってなかったな。どうしてだろう……
「わたしにもわかんない。森に迷って泣いてたらここにいたの」
「そうか、その時誰か一緒にいなかった?」
「うんいたよ。ハクヤっていう大切なとっても大切な友達!」
なんか嬉しいな。こんなに俺を大切に思ってくれてたなんて……アイナー、会いたいよー。アイナ……
「どうしたの?なんでお兄ちゃんなんで泣いてるの?」
俺、いつの間にか泣いていた。そんな俺の涙をアイナが拭ってくれた。アイナの手は小さくて暖かくて柔らかい、とっても優しいアイナの手だ。
「ゴメン、なんでもないんだ。ちょっと大切な人のことを考えてただけ」
「なになに、その人って彼女?」
「うん、そうだよ」
「ねぇ、どんな人なの?可愛い?」
俺の好きな人にこんなことを聞かれるなんて恥ずかしいな。まぁ、メッチャ可愛い目で見られたら断れねーけどな。
「うん、可愛かったよ。うるさくてチッパイですぐ殴ってきて、素直じゃなくて、真面目すぎるし、歩くの遅いし」
「嫌いなの?」
「いや、そんなところが可愛くて愛おしい」
「大人の考えることってよくわからない」
「いずれわかるさ。いや、嫌でもわからさられるんだよ」
アイナはちんぷんかんぷんって、顔をしている。俺はそれをなだめる。俺とアイナがけ、結婚してたらこんな子が産まれたのかな?
「また、悲しい顔してる。元気出さないと」
「なんでアイナちゃんはそんなに明るくいれるの?」
「だって明るくしてないと泣いちゃうんだもん。泣いたら多分もう立てない……から……う、うえーん」
俺は何も言わずに抱きしめる。アイナはこの頃から俺より大人だ。だけどそこが彼女を苦しめる。
「いいんだよ。泣いたって。立てなかったら俺が立たせて上げるから……だから思う存分泣くんだ。楽になるから」
「うえーん!怖いよー!ここどこなの!なんでこんなところにいなきゃいけないの!ハクヤーー!会いたいよー!いつもわたしにだけは冷たくて、なんで優しくしてくれないの!どうして……わたしには……」
俺は気づいていなかった。アイナはこんなにも苦しんでいることを……どうして俺はアイナが悩んでいることに気づいてあげれなかったんだ。俺は自分が嫌になる。俺は鈍感だ。言われないとその人のことがわからない。いや、わかるのにそれを面倒くさがっているんだ。自分以外の人に興味がないからだ。どうして俺はこんな人間なんだ。クソ……
俺らは二人で泣いた。メッチャ泣いた。だけど俺はこれが最後の涙とする。もう悲しい思いはしないし、させない。泣いたとしても嬉し涙だけだ。
その時、この暗闇の世界にひとつの光が浮かんでくる。そしてひとつの映像を映し出す。
「ハクヤー!」
アイナはとても嬉しそうに声を出す。そういえば途中にアイナと一回逸れてたときがあったなー。その時アイナは大人の俺と会ってたんだなー。
「さぁ、いきな。君を待っている人のところへ」
「お兄ちゃんも一緒に行こうよ」
「いや、俺はここに残るよ。俺は君とは一緒にいては行けないんだ」
「嫌だ。お兄ちゃんも一緒じゃないとわたしもここに残る」
俺だって帰りたい。アイナと一緒にいたい。そういうことか、これが試練だということか。だけど俺はアイナのそばにいちゃいけないんだ。あのアイナには小さい頃の俺がそばにいてやるんだ。ハクヤはふたりもいらないんだ。
「駄目だ。君はハクヤのところに戻ってあげないと、あの子が心配すると思う」
「だから一緒に帰ろうよ!」
「君には本当のことをいおう。俺の名前はハクヤ、あの写っている男の子の大人になった姿だ。そしてハクヤはふたりもいらないんだ。別に信じなくてもいい。だけどこれだけは信じてくれ、俺は君が、アイナが大好きなんだ。小さい頃の俺も君が大好きなんだ。だから俺は行けないんだ」
「信じるよお兄ちゃん。わたしは信じる。だからハクヤ、ギュってして」
俺はアイナに言われたとおりギュってする。これで俺はアイナとお別れだ。離れたくないなー。ずっとこのままがいいなー。だけどこの時間はもうすぐ終わる。
俺はアイナから離れる。
「じゃあな」
「うん」
アイナは光のところに走っていく。そして
「お兄ちゃん大好き!」
アイナは光の中に消えていく。そしてその光もアイナと一緒に消えていく。
「じゃあ俺もそろそろ帰りますか、オイ神器。俺はハクヤだ。お前がなんて言おうとお前は俺のもんだー!」
俺が自分の思いを吐き出すと、今っさっきみたいに光が現れる。
「じゃあな、暗闇の世界」
俺はこの世界に別れを告げ、光に、未来に向かい歩いていく。