036 : 自身
ブラウンの指からコインが弾かれる。
それは今日三回目の落下であり、最後の地面である。そのコインらはじめや、二回目と同様に、湿った音をさせて落ちる。
「《箱》」
俺は開始直後に神器を使用する。
鬼ごっこの範囲の面積に、3メートルの高さの箱を創り、俺とブラウンを閉じ込める。
「これでどうだ。気に乗ってることもできないだろ」
「まぁ、そうだな。だが、このくらい壊せるけどな」
そう、この壁などブラウンの神器にかかれば、豆腐のように柔かく、もろい。だが、俺は壊されないと確信していた。
「いや、あんたは壊さないさ。だってそっちの方が、面白そうだろ」
「そうだな。乗ってやろうじゃねーか。このくらいのハンデで丁度いい」
乗ってくれると思ったぜ。
だが、それでも俺の目隠し程でもない。もっと奴を追い詰めないと。
だが、そんなに考えている暇もない。あれをやるしかないな。
俺は1回目で習得した。考えながら行動を行う。
右、左、右、右と、風や匂いは感じるんだが、ことごとくかわされていく。
やっぱり当たらないか。
今のこの状態を10分間やったところで、勝つことは出来ない。なにか、ブラウンをあっと言わせる術はないのか。
これまでやっていたのは、ブラウンを自分に合わせるって言うことだ。そうすることによって、自分の不利を減らしていっていた。多分それが一番の、勝利への道のちか道だろう。だが、それじゃ勝てない。
逆転の発想だ。
今の自分は目が見えない。なら、見えない自分を見えるように近づけばいい。
正直、自分でも考えている意味がわからない。だが、それは俺の頭の中で、キラリと輝き、今にも掴めそうなところに来ている。
「なにか掴んだようだな」
「まぁな。ってか、なんでわかったんだよ!」
「お前が気持ち悪い笑みを浮かべてるからだろ」
えっ!いつの間に!?
俺も遂に壊れだしたな。この状況が楽しくて仕方ない。笑みが顔からはなれない。
前までの俺じゃあありえないことだ。自分の力の限界を勝手に感じていたんだ。だが、今の俺は違う。限界を超えることが楽しい、と知ってしまった。それもこれも神器のおかけだ。
だから神器よ。力を貸してくれ。
すると、俺の目の前は真っ暗になってしまう。
□□□□□
この感じ久しぶりだな。
俺は目を開けて、あたりを確かめてみる。だが、目を開けたところで、見えるのは閉じていたときと、変わらない世界だった。
俺は目隠しでも付いているのかと、目のあたりを触ってはみるが、布製のハチマキは見当たらない。
「もしかしてここって、暗闇の世界なのか?」
俺は以前にも、ここに来ていた。それは神器との契約を結んだときだ。
その時は、神器を所持するに当たっての試練だった。ってことは今回もそういうことなのか?
俺は暗闇の世界のどこかで、あぐらをかいて座る。
動いたところで、この世界には何もない。ここは神の魂なのだ。その魂は、必要なものしか、ここには呼ばない。
「久しぶりだなハクヤ」
この声に聞き覚えがある。
幼いが、何かちょっと威圧感がある声。だが、そこには可愛さが溢れている声。
「ガネルド、お前が俺をここに呼んだのか?」
「んー。私っていうより、私の魂が勝手に君を呼んだのよ」
神器と、神は意思疎通が出来ないのか?少し疑問が浮かぶが、今はそんなこと関係ない。
「だが、理由はわかってんだろ。俺がここに呼ばれた理由を」
「まぁね。あなたがここにいる理由は、神器がハクヤに適応しようとしているの」
「神器が俺に?」
少し意外だった。俺の方に問題がある物だと思ってたからな。
「そう。ハクヤは強くなりすぎた。身体的な部分もあるけど、特に精神面でだ。それに神器は応えようとしてるの」
「てことは、これから俺は試練を受けなきゃいけないのか?」
「そんなことはないと思う。神器が、君を相応しくないと思ったときくらいだけだと思う。ただ、神器が進化する間、君にここにいてほしいってことだろうと、思う」
なら、心配ないか。今からまた試練だとか言われたら、ちょっと滅入ってしまう。
だが、試練じゃないのなら、ここには暇を作りに来たってことになる。なら、やることは一つだな。俺はガネルドを見る。
「なぁ。なんでお前は、神器にプラスαの力があることを黙ってたんだよ」
「それは、私自身にもその能力の内容を把握できてなかったからだよ。別に悪気が合ってしたわけじゃない。ただ、一つ言って置かなければならないことがある」
「なんだよ?」
「神器ていうのは便利な道具、だが、時として、自分自身を傷つける道具になってしまうこともある。この神器の言葉の力にはそんなことはないが、これから習得する、プラスαの能力にはあるかもしれない。それだけは気をつけておいて欲しい」
「忠告ありがとよ。だが、俺は死なねぇーよ。俺は魔王を倒さないといけないからな」
その言葉を聞き、ガネルドは優しい微笑みを浮かべる。
「そろそろ時間だ。君の成長を天から見ているよ」
「あぁ、見とけ。俺の英雄譚をな」
俺はそう言うと目を閉じる。
「暗闇の世界。久々の再開だがもうお別れだ。俺は強くなる。お前に相応しい人になる。だから、お前も俺に力を貸してくれ!」
俺の大声が、暗闇の世界に響き渡る。すると、目の前に白い靄がかかっていく。そして、俺はもとの世界に引きずられていく。
「じゃあなガネルド。また会おう」
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