020 : 大穴
俺は襲い掛かってくる獣を近くまで引きつけて躱す。そして背後に一撃を放つ。だが、相手が相手だ。上手く身をよじらせて躱す。そして転がりながら俺と距離を取る。
流石にやるな。だが、
「《透明化》」
今さっき、何故気づかれたのか。その原因は多分、俺の後ずさったときの足音で気づいたのだろう。なら、
「《飛行》」
俺は地上から少しだけ浮かぶ。これで木の葉を踏まずに移動できる。これなら……
俺は宙を飛び、獣の背後に回り込む為に獣に近づく。だが、獣はそれに連れて、後ずさる。
なぜだ?俺は推測する。
1、『俺の透明化が上手くできていない』
→これは可能性が低い
2、『風の動きで読んでいる』
→これなのか?
3、『こいつは映像を見てるのではなく、体温で捉えている』
→これか?
2か3が正解だと思うが、どっちかがわからん。探ってみるか。俺は2を試してみる。
「【ゼファー】」
俺は奴の少し後ろに心地よい風を吹かせる。これでそちらの方を向けば奴は風を読んでいることになる。だが、一切、気づかず俺の方を見続けている。ってことは風を読んでいないってことか。なら3ってことになる。だが、体温を見てるってことを試すのは難しい。なら……
俺は自分自身の体の形やどんな大きさだったかを想像する。
「《人形》」
俺は自分の右の方に自分の人形を置く。
これで俺の人形の方を見たら、あいつは体温ではなく、俺が見えてることになる。だが……
グルルルルゥゥゥゥー!
あいつは俺から目を離さない。ってか、徐々に俺との距離を詰めてきている。俺は剣をしっかりと握り直す。もう透明になったり、飛んでても意味がないので、すべて解く。
流石にキツイな。あの犬みたいの何百倍も強い。ってか比にならん。
俺は獣が近づいてくるにつれ、一歩ずつ下がっていく。だが、このままじゃダメだ。相手より有利にならないと。俺は脳みそをフル回転させる。探せ、導き出せ、俺が勝てる作戦を。
俺の頭には1つの考えが浮かんでいた。だが、その作戦はあまりにも無謀だ。だが、やるしかない。
俺は下がっていた、足を一歩前に踏み出す。それを見て狼は警戒心を高める。そうだ、俺に気を向けろ。
俺は右に全力で走る。途中に木に剣をふるい、木をなぎ倒す。カダガタと音を立てて手折れていく木を、簡単そうにそれを躱してくる。それでいい。俺はボソッと呟く。そして、現れたものを手で握り隠す。
獣は俺との距離を徐々に縮めてきていた。俺と狼との速度には圧倒的な差がある。奴は俺に合わせて速度を落としていた。俺の様子を伺っているのだろう。
そんなとき俺は木の根っこに引っかかってコケてしまう。勢いのまま俺は盛大に転がる。
「ガァァァァァーーー!!!
そのすきを好機と思った、狼が俺に襲ってくる。だけど
「バーーーカ」
俺は狙っていた。俺に油断して襲い掛かってくるのを。俺は手に握っていた爆弾を投げる。この爆弾の稼働方法はイメージしていた相手に当たることだ。
バン!!
威力は低い。だが、目はどんな生き物でも弱点だ。しかもこいつの一番厄介なところは目だ。だから、こいつの一番の弱点は目になる。
多分、音や感覚で読むのはこいつには出来ないだろうと読んでいる。普通の狼などは耳がいい。だから俺と少し戦い、俺がどんな攻撃をしてくるかなんとなくは学習するはずだ。だから俺の言動に耳を立て、馬鹿ではない限り、ものすごく警戒するだろう。だが、こいつは襲い掛かってきた。これほどまでの強敵ならかなりの知能はあるはずだからな。
俺は転んでいた状態から起き上がり、目を破られて困惑している狼の方を向く。
「お前は確かに強い。だが、自分の能力に過信し過ぎていた。それがお前の弱点だ」
俺は持っていた剣を狼の方に思いっきり振りかぶって投げる。
グサ!
狼は何が起きたか解らず、声を上げずに地面に倒れていく。まさか、自分が、餌の一部の人間に負けるがハズがないと思っていただろうからな。
俺は服の汚れを叩いて、泥を落とす。そして、人形などの、創造したものを消していく。流石にこんな本物に近い人形が落ちていたら怪しまれるからな。
証拠も隠滅ができたことだし、ヤマブキの町へ向かおう。俺は歩き出す。
カサカサカサ
俺は音がする草の方を振り向く。そこから現れたのは、またしても狼だった。しかも一匹じゃない。ぞろぞろとその数を増やしていく。5匹。それが敵の数だ。
終わった。俺の村人?人生もここで終わりか……15年か、長っかたかもな。あぁ、あの、クソみたいに暇そうな魔王の仕事をしなきゃいけないのか。クソォーー!!
俺は心の中で嘆いた。もう死ぬんだったら何もせずに安らかに一生を終えたい。俺は目を瞑り、この人生を振り返る。アイナや沢山の人との思い出、楽しかった思い出、辛かった思い出。全部を振り返った。だからもういい。
「好きなだけ貪りつけ!!」
俺は歯を食いしばり、目を瞑る力を強くする。これから俺は喰われる、そんなこと考えてしまい、悔しさが頭を埋め尽くす。
だが、俺はいつまで経っても死にはしなかった。聞こえる音は、剣が肉を切り裂く音と、狼の鳴き声だけだった。
俺は恐る恐る目を開ける。そこにいたのは獣の血で赤く染まって顔はよく見えないが、長身で、歳は30くらいのおじさんがいた。
「お前には素質がある。ここで死なれちゃ困るんだよな」
「はぁ?」
「だからお前、俺の弟子になれ」
俺はその人の発言に頭が追いついていなかった。
これで第一章完結です。これからも楽しんでみてください