002 : 誕生
俺はハクヤ。この村で暮らしている。髪の色は村では珍しい白髪で身長は中の下くらいだ。歳は14歳で明日が15歳の誕生日。この村では15歳から一人前の大人として認められる。大人になってできることは仕事だ。俺の家は農家で、俺もその仕事を手伝う。だけどこれからは、従業員として給料をもらうことが出来る。よし、これで夢への一歩が踏み出せる。俺の夢は『お金をコツコツ貯めて家を建て、結婚して家族と一緒に楽しく暮らす』ことだ。
そんな浮ついた考え事を自分の部屋でしていた。俺の家庭は決して裕福ではないが、貧相でもない。まぁいたって普通の家庭だ。そして俺もこの家庭に似て良くも悪くもない平凡の顔に産まれてしまった。だが、別に後悔はしていない。だってこの世界に産まれることができたことがとても嬉しいからだ。
「ハクヤー!花見いくよー」
この声の主は俺の幼馴染のアイナだ。歳が一緒だからずっと遊んでいた。誕生日が一緒だから、もうかれこれ14年と364日の付き合いだ。
アイナは昔、俺の後ろをちょこちょこ付いてくる可愛い妹みたいだったのに、今では……
「ハクヤ!なんで降りてこないのよ!どうせ変な妄想にでも浸ってるんでしょ。そんなことしてないで早くして、殴るよ!」
顔は可愛くて、とてもポニテが似合う、茶髪の子なのに、なぜあんなに凶暴なんだ。そしてもうひとつ、なんて貧相な胸なんだ。
「そんなことしてねーわ」
俺は少し怒った声でアイナに応える。彼女はドンドン、という音をさせ、二階に上がってきている。ヤベー、来ちゃうよ。俺は部屋を見回す。変な物がないか調べる。机があって、ベッドがあって、本が少し置いてある。おかしな点はなし、部屋へ侵入されても安心。するとドアを勢いよくアイナが部屋に入ってくる。
「ハクヤ!アンタなんですぐ降りてこないの!今日は前日だけど、お父さんとお母さんとおばさんとおじさんと私とハクヤで花見兼誕生日会をするって言ってたじゃん」
そう俺の誕生日は4月3日で、毎年花見と被っている。しかも毎年アイナと一緒だ。
「わかってるって、だから今降りようと思ってたところなんだよ!」
「何よ、なんで怒ってるのよ。そういうところが」
「あなた達、イチャイチャしないで早く降りてきなさい」
俺の母さんが、下から呼んでくる。俺らはふたり揃って言ってしまった。
「「イチャついてないわ!」」
俺らはふたりで1階に降りていくと、俺の親とアイナの親が準備をもう済ませて玄関で待っていた。
「本当にふたりは仲が良いねー」
アイナの母さんがそう言うと皆が笑う。
「「だから、仲良くないわ」」
まぁ、俺らはずっと一緒に遊んでいた。だけど決して仲は良くない。だってあいつは……あいつは俺をいじめてたんだ。俺は少し女の子らしい顔立ちをしていて、ちっちゃい頃はこんな顔だから男の子は相手にしてくれなくて、女の子とあそんでたんだ。だが、そのグループにいたのがアイナだ。アイナは俺に色んな女物の服を着せてきたんだ。俺が嫌がると周りにいた女子が俺を拘束してきて俺は逃げられなくて、あんなことやこんなことを……。あぁー!思い出すだけで腹が立つ。
「なぁ母さん、俺、先行くから!」
俺はそう言って家を飛び出る。なぜなら早くアイナから離れたいからだ。だけど、
「ハクヤ待って!」
アイナは俺を追いかけてくる。あいつ運動神経かいいからクソ足が速い。だけど俺が本気で走れば逃げられない速さではない。俺はちょっと疲れるが少しだけ本気を出す。
「なんで逃げるのよ、一緒に行こうよ!」
「嫌に決まってんだろ。どうしてアイナと一緒に行かなきゃ行けないんだよ」
「だって私達、今日の主役だよ。一緒に行くのが普通でしょ」
「誰がそんなこと決めたんだよ!」
俺は更にギアを上げる。アイナはそんな俺の姿を見て、どんどんペースを落としていく。流石のアイナでも俺の本気にはついてこられないようだ。俺は走って河川敷に向かう。ここから走って5分くらいだ。じゃ、少し運動がてら走りますか。
俺は桜の見える方へと走っていく。
□□□□□
「かんぱーーい!!」
俺らは河川敷の桜の木の下で、花見兼誕生日会を始めた。だが、俺はテンションが上がらない、だってアイナが隣なんだぞ。そんな暗いテンションもすぐに吹っ飛ぶ出来事があった。それは
「父さんは息子と一緒に酒を交わしたかったんだよ」
「あ、ああ、いいよ父さん」
それは酒だ。この村では酒や結婚も15歳からなんだ。まだ、14歳だけど構わず飲む、俺は飲みまくる。父さんと飲んだりおじさんと飲んだりした。アイナの方を見ると、アイナも飲んでいた。大丈夫なのかなー?あいつ、なんかこういうの弱そうだからな。だけど無視しまーす。だって別にどうでもいいもん。
そしてかれこれ3時間、花見をして家に帰るとまた、飲み会が始まる。だけど俺は飲み過ぎで気分が悪くなったので部屋に戻る。
「あぁー!気分悪!美味しいんだけどキツイな」
そんな独り言を言いながらベッドに横になる。少し油断すると吐きそうになる。ヤベー、今日がこんなにキツかったら明日は……考えたくねー!
そんなことを考えてると
ドンッ!
っと、いきなり部屋のドアが開かれる。
「ハクヤぁ〜、まだ飲むはよ〜。早く降りなしゃい!」
入ってきたのはベロベロに酔ったアイナだった。こいつはヤバイぞ。こいつは無視したほうがいい。俺は寝たフリをして過ごそうと思い、目を瞑る。
「なに〜、アンタ無視なの!無視しないで!……って、寝てるじゃん。……私も眠くなってきたな〜。はぁ〜〜、ん、私も寝よーっと」
よし乗り切った!っと思ったのはつかの間だった。アイナはなんと、俺のベッドに近づき、布団に入ってくる。そして俺の左手をガッツリと掴み、眠り始める。やべー、どうしよう。こいつ力強過ぎて逃げれない。もうめんどくせぇー!俺はどうでも良くなり寝ることにした。
明日、俺は目覚めることができるかな〜?俺は半泣きでそう思う。




