017 : 離郷
俺は再び戦闘態勢にを取る。模擬剣をしっかりと両手で握り、腰を軽くおとして、リラックスする。
俺はどうしてもここでアオ爺と戦い、勝っておきたい。それが俺の自信になり、経験になる。その戦いの中で、少しでもアオ爺の技を盗みたい。俺にないものを沢山持っているアオ爺に一歩でも近づきたい。
俺はアオ爺の顔を睨みつける俺の戦いたいという、強い意思を伝えるために……だが、アオ爺は一向に俺の態度に応えてくれない。俺は楽な態勢にする。
「アオ爺?どうしたんだ?早く稽古をつけてくれよ」
「稽古はもう終わりじゃ」
「なんでだよ。まだ始まったばかりじゃないか」
アオ爺は模擬剣を地面に置いて、地べたにあぐらをかいて座る。
「ワシももうこんな歳だ。そんなに動くのはかなりキツイ。少し前までのお前はまだ、弱かったから楽だったが、今のお前は強すぎる」
「そんなこといっても、あの魔物を倒したじゃないか」
「村の皆は知らんと思うが、ワシはあの後一日寝込んだんじゃ。前々から限界を感じつつあったのじゃが、こんなにも衰えてるとは思わんかったわ」
アオ爺も100歳だ。昔、名高い騎士だったとしても衰えを止めることは無理だったのだろう。だが、まだまだ元気そうだ。衰えてるといっても普通の人じゃおかしいくらいの若さを持ってる。だからまだまだ生きることだろう。
俺はアオ爺のように剣を置いて座る。
「なぁ、アオ爺。俺はこれからどこに行けばいいと思う?」
「ハクヤの力ならどこにいっても困ることはないと思うが、この村から一番近い街『ヤマブキの町』へ行け、そこからなら船も出て交通面も便利だ」
「その村ってどうやって行けばいいんだ?」
「お前が昔迷い込んだ森『トドメの森』を抜けた先にある」
あの森の外のことを俺はよく知らない。本や旅人、商人の人に聞くくらいで、俺はどこにも行ったことがない。別に出なくても困ることはないので、出たいと思ったことはないが、興味は少しあった。
「じゃあ、そこに行ってみるよ」
「あの森は気をつけて抜けたほうがいい。山賊などが潜んでいるらしいからな。お前は強いが、寝ているときなどは無防備だ。流石に殺られかねん」
「忠告ありがとう」
俺は立ち上がり、乱れた服をなおす。そして歩こうとした時、アオ爺が、
「ハクヤ、もう行くのか」
少し悲しそうな表情を作り俺に訪ねてくる。俺は首を縦に振る。なぜアオ爺は少し悲しそうなのか考えてみる。
1、『俺が何処かに旅立ってしまうから』
→これはかなりありえる。てか嬉しい
2、『俺が心配』
→これもかなりありえる。
3、『俺やアイナが、遠くなってしまうから』
→これもありえるなぁー
結局のところ全部あってる気がする。自分の孫的存在だった俺達が、大切な俺達が遠くに行ってしまうのが悲しくて、怖いのだろう。最後にアオ爺がしてほしいことをやってあげたい。
「なぁ、アオ爺。何か俺にしてほしいことはないか?」
「してほしいことか?」
「うん。ほしいものとかでもいいけど……」
アオ爺は黙って下を向いて真剣に考えている。
ハッ、と何か思いついたように急にパッと顔を上げる。
「お前たちとの思い出が欲しい」
「俺らとの思い出……」
これは難しい、かなり難しい。多分、俺とアイナとアオ爺の3人の思い出がほしいってことだろう。俺だけだったら何かしてあげることはできるが、アイナともとなるとかなりキツイ。
俺は思考を広げる。アオ爺の為に
俺 アイナ アオ爺 思い出 残るもの 俺が今できること
俺はその思考の中から1つの答えを導き出した。
左手の薬指を見つめる。俺にはこの神器があったんだ。この神器にできないことはない。
俺は創作を始める。
アオ爺、俺、アイナ、草原、笑顔、思い出……
「《俺達の思い出》!」
俺の目の前に光の粒子が集まって来る。少しずつ少しずつその光の粒子は数を増していく。その粒子はある絵を作り出していく。
真ん中にはアオ爺、左にはアイナ、右には俺。背景は広大な草原が広がっている。そして、その中の俺達はとてもいい顔をしている。
俺は自分でも驚いた。ここまで細かく表現できるんだ。そんな俺より驚いていたのがアオ爺だった。アオ爺は立ち上がり俺のそばへと歩み寄ってくる。
「こ、これは……」
「ほら、これが俺が最後にあげるプレゼントだ。大切にしてくれよな」
「あ、ありがとう……ハクヤ……」
アオ爺の目から雫が溢れる。だが、顔はとてもいい笑顔だった。
「じゃあな、アオ爺。すべて終わらせて帰ってくるよ」
「あぁ、だがワシをそんなに長生きさせないでくれよ」
「冗談はよしてくれよ。まだまだ長生きしてくれよ」
「あぁ」
アオ爺はさっきと同じで悲しい顔をしている。が、さっきとは少し違う。俺を優しい目で見つめてくる。
「しゃあ、アオ爺。いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
俺は挨拶を交わし、この村を出る。俺の故郷、サヨナラだ。