013 : 遭遇
「起……ろ、起きろ!ハクヤ!」
この声はアオ爺、か。俺はこの声に応えたい。だが、今俺の体は言うことを聞いてくれない。この体は俺のものであって俺のものじゃないようだ。
俺はひとまず安心した。今、こうしてアオ爺が俺に話しかけているってことはアオ爺が敵をやっつけてくれたんだろう。てか、アオ爺、神器無しであの敵を殺るなんてスゲーな。流石アオ爺だ。あの人確か、魔物上位種を一人で殺ったという武勇伝を持ってたなー。俺が今回倒した魔物は中位種でも下位の方だ。年老いてしまったアオ爺でもギリ勝てるレベルだろう。
「ハクヤ!起きて!お母さんだよ」
「ハクヤ君!」
沢山の人が俺に話しかけてきてくれる。クソ、俺もこれに応えて皆を安心させたい。だけど俺のこの睡魔には勝てない。今でも夢の世界に連れてかれそうだ。
俺はどうにかして皆に俺の安否を知らせたい。俺が生きていることは胸に手を当ててみてわかっていると思うが、意識を戻しているかを知らせたい。
俺は全力で口を開けて言う。
「だ……いじょ……ぶ」
俺の言葉をきいて、皆が一斉に喜ぶ。歓喜の声を上げる人も居れば、嬉しさのあまり泣いてしまっている人もいる。ここまで俺のことを思ってくれるなんて……メッチャ嬉しいな。
これでまず一安心だ。詳しいことは俺の意識が次戻ったときにしよう……
「だけどアイナは……ハクヤ君!アイナは……アイナはどこに行ったの!」
俺はその言葉が胸に引っかかる。だが、俺の意識は睡魔に引きずり込まれていく。
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俺は目を開ける。
そこに見えたのは一面緑が広がる草原だった。空は快晴。草原の中にある川はとても綺麗な水を運び、いかにも夢の世界って感じがする。ってか、これ完璧夢じゃん。
俺は少しこの夢の草原を歩いて見ることにした。どうせ今の俺は少しの時間じゃ意識を戻さないから暇だしな。
一面に広がる草原の美しさを感じながら俺は歩き続ける。こんな草原を、アイナと一緒に歩けたらなー。俺はそんなことを考えながら俺は草の上に寝転がり、目を瞑る。
俺は妄想を含まらせる。
こんな草原にふたりきりで、そうだなアイナは白のワンピースを着てて、隣で一緒に昼寝してて……
「暖かくて気持ちいいね、ハクヤ」
「そうだな」
そうそうこんな何気ない会話を……って、えっ!?どういうことだ。俺は隣を見る。そこには白のワンピースを着てて草の上で寝ているアイナがいる。どう、いうこと、だ?
俺はここが夢の中だと思い出した。それ納得がいく。このアイナは本物じゃない。それを思うと悲しくて……
「何、ないてんの?何か変なこと言った?」
アイナはオドオドとして俺に尋ねかけてくる。俺はその姿を見て、笑顔を取り戻す。
「いや、ゴミが入っただけだから」
こんな日常が遅れたらなー。俺は悔しくなる。どうして俺はアイナを助けられなかったんだ!後悔という文字が俺の全身に乗りかかる。
俺は発想を切り替える。もう過ぎてしまったことは戻らない。なら、偽物のアイナでもいい。今、この場所にいるアイナと今を楽しもう。
「ねぇハクヤ?川の方に行こうよ」
「あぁ、わかった」
俺らは起き上がり、二人で歩いていく。すると、途中でアイナが俺の手を掴んでくる。えっ?と思いアイナを見てみるとアイナは顔を赤らめて平然をよそおおっていた。俺は何も言わずに手を繋ぎ歩く。
俺らは靴を脱いで川に入る。川は冷たくて石がゴツゴツしてヌメヌメして歩きづらい。だけどこの感じが川らしい。
俺は魚を捕まえようと体制を低くして水の中を、見ている。すると
「ハクヤ!」
ビシャ!
アイナが水を掛けてきた。俺もたまらず水をかけ返す。俺が、アイナが、俺が、と交互に水をかけあう。これ、多分傍から見たら超うざいんだろうなー。だけどまぁ、ここには俺ら2人しかいないんだ。今をめいいっぱい楽しみたいしな。俺らは水をかけあった。互いの服がびしょ濡れになるまで。途中服がすけて下着が見えるがどうにかして性的欲求を抑える。
一時間程度たっただろうか。俺らは流石に飽きて川から上がる。濡れた服を乾かすために草原に寝転がる。
「ねぇ、ハクヤ」
アイナが俺を呼んでくるので首を捻って呼ばれた方を向く。だが、服がすけて下着が見えてしまっているので俺はすぐにアイナとは反対側の方向を向く。ヤバイ!アイツに胸ないなーっなんていってたけど案外あるじゃん。着痩せするタイプなのか?
「ハクヤ!どこ向いてんの。今から大切な話するから私の方見てて!」
俺はアイナの方を向き直す。アイナの目はガチだ。アイナは本当に大切なことを言おうとしている。俺はできるだけ胸を見ないように心がける。
「で、大切な話ってなんだ?」
「あぁ、うん。あのね……私がきくのは何かおかしい気がするけど……私って死んじゃったんだよね?」
「……う、うん」
この、俺の夢の中のアイナは自分のことを知ってる。ってか、意思を持っている。ここは夢の中ではあるがここにいるアイナは本物だ。アイナは気分が落ちたようだ。だがそれを隠すように笑顔を無理矢理作る。それは苦しくて辛い笑顔だった。
俺はアイナを抱きしめた。強く、強く抱きしめた。アイナは俺の胸に顔を埋める。
「アイナ。苦しいなら俺に言え!お前の悲しんでる顔は可愛くねぇー!見たくねぇーんだよ!お前はいつも強がってて……俺は男で、お前は女だ。俺にだってかっこいいことさせてくれよ!勝手に俺を庇おうとして、勝手に死にやがって……俺を一人に、しやがって……」
俺は自分の想いをさらけ出す。その想いをきいてアイナは俺の服をギュッと掴んで泣き出す。
「ゴメン。一人にしてゴメン。カッコつけちゃってゴメン。死んじゃってごめん」
「俺こそゴメン。守れなくて」
「いいんだよ。ハクヤが生きててくれて私は……う、うぇーん、私も、私も一緒に生きてたかった。ハクヤと一緒にこれからもずっと一緒に……」
俺はもっと強くアイナを抱きしめる。アイナが愛おしくてたまらない。アイナが泣いているのが悔しくて、泣かせてしまった自分が悔しくて、死なせてしまった自分が悔しくて……
俺も自分が情けなくて、アイナがいなくなってしまったことが悲しくて……俺も泣いてしまう。
俺らは何分泣いただろうか。そんなに泣いてはないと思うが、二人で抱き合ってたせいで緊張でとても長く感じた。
俺らは抱き合うのをやめて離れる。今でもアイナのいい香りが、柔らかい肌の感触がする。もっと抱いていたい。だが、そうしている理由がない。そんな時
「ハクヤ、もう少し……もう少しギュッてして」
そうだ。好きな人、愛してる人を抱きしめることに理由なんて要らない。俺はアイナをまた抱きしめる。今度はさっきより優しく。だが、さっきより固く抱きしめる。
「ハクヤもういいよ」
「嫌だ!離れたくない!」
俺はまだ、こうしていたい。まだ、多分時間は……
「もう時間なんだ……」
「え!?」
「私はガネルドっていう神とあったんだー。そのガネルドさんって人にハクヤのことを話したら私をハクヤの元に連れってってあげるって」
アイツがこんなことをしてくれるなんて。ありがとうガネルド。俺は天に向かって祈りを捧げる。
「だけど2時間しか一緒にいられないって言われたの。だからそろそろガネルドさんが……」
そんな会話をしている中、この世界が光に包まれる。光の中から声が聞こえる。
「ハクヤ。久しぶり?だね」
光の中から現れたのはガネルドだった。もう、意味がわからん。あの時からだ。前世の記憶が戻った時からだ。あの時から一日立たずにこんなことになったんだ。原因は全部こいつのせいだ。俺は立ち上がり、怒りをガネルドに向ける
「ガネルド。全部お前のせいだ。俺の、人の人生で遊びやがって、それでもお前は神か!」
「それは悪かったと思っている。私は君のことをいじることは出来るが、人生を操ることは出来ないんだ」
こいつは人の人生を簡単に操って、挙句の果てには運命だぁ!?
「調子に乗んな!!」
「ハクヤ!!」
俺を止めてくれたのはアイナだった。アイナは立ち上がり俺の前で俺を沈めてくれる。
「考えてみて、私達がこうやって会えたのもガネルドさんがハクヤをこの世界に呼んでくれたから、それにハクヤと一緒に過ごせたのもガネルドさんのおかげなんだよ!そんな言い方しちゃ駄目!」
俺は自分は馬鹿だ、とけなす。どうしてこんなことに気づかないんだろう。
「ガネルド、すまなかった」
「私も君たちの人生をメチャクチャにしてゴメン。だが、コレが運命なんだ。アイナ行こう」
「ハイ」
アイナはガネルドの元へ。そして、手を繋ぐ。俺はそんな光景を黙って見る。アイナはそんな俺の方を向く。
「じゃあね。ハクヤ……」
悲しい笑顔を浮かべて言う。こんな笑顔でお別れは嫌だ!
「アイナ!待ってろ。俺もすべてを終わらせてそっちへ逝く。時間はかかると思うが待っててくれ。絶対どこにも行くなよ!」
アイナはとてもいい笑顔を浮かべる。そして光に包まれていく一瞬で消えていく。
「あ~、逝っちゃったか……あれ、なんでだ?涙が……アイナは待っててくれるんだ。泣くなよ……俺……」
俺は一人で泣き続ける。俺ってダセェーな。そんなことを思いながら俺は泣き続けた。