父親のプレゼント
満はただ黙ってその女の子を見つめる。すると、今度はその女の子の母親と思える人物が顔を覗かせた。
「え?鉄二さん?」
いや、鉄二って誰だ。完全に人違いじゃないか。まぁ雪も降って暗いから少し似てれば間違うこともあるか。その子の母親はすぐさま部屋の中に戻った。女の子は相変わらず満を見つめたままだ。すると、母親が慌てふためいた様子でアパートの中から出てきて、満の目の前まで走ってきた。
「嘘・・・・鉄二さん。」
いや、この距離でも見間違うとか、どんだけその人と僕は似てるんだ。
「すみません。人違いですよ。」
母親は少し悲しそうな顔をして話し出す。
「そう・・・・ですよね。そりゃそうでした。私の言う鉄二さんは1か月前に亡くなったんですから。すみません、迷惑ですよね。」
「ああ、いえ大丈夫です。ですけど、そんなに似てるんですか?その・・・僕と鉄二さんって人は?」
「はい・・・本当に顔も体型も身長から、双子でないかと思うほど。」
驚きだ。まさかそれほどまでに自分と似た人物がこの町に住んでいたなんて。逆になぜ20年もこの町に住んでいて、人違いに合わなかったのかが不思議に思えてくる。
微妙な空気が流れる。当然であった。見ず知らずのの男女がクリスマスの夜に公園のベンチでむかいあっているのだから。
「あのっ!…もしよかったら何ですが…その…連絡先教えてもらえませんか?」
突然のことに頭がついていかない。たった今知り合った人に先立たれた夫に似ていると言われ、連絡先を聞かれだのだ。しかし、その女性の容姿は悪くない。子供を産んでいるとはいえ、明らかに20代後半である。満とは離れていても8、9歳というところだろう。彼女にフラれた直後のことでもあり、満は躊躇うことなく携帯電話を取り出した。
「ありがとうございます!あの…また今度私の娘に会ってもらえませんか?」
「は…はぁ…。」
娘とはさっきのベランダから顔を覗かせた子のことだろう。
「実はまだ娘は4つでして、夫が亡くなったことを理解できていないんです。今でもいつか帰ってくると信じているんです。今日だってサンタさんにパパが帰ってくるよう頼んでいたところでして…。」
「そこに僕が現れて、パパが帰ってきたと思ったんですね。」
「はい。夫が亡くなってから娘はずっと元気がないんです。ですが、さっきあなたの顔を見たとき、久々にあの子はとびきりの笑顔を見せてくれました。本当に勝手なお願いなんですが、あの子に父親として一度会って欲しいんです。」
「はぁ…まぁいいですけど。」
幼子を騙すようなことをするのはいささか気が進まないが、特にはっきりと断る理由もないので、とりあえず承諾した。
しかし、その承諾が後に彼自身を苦悩の日々に陥ることになっていくのであった。