別れ、そして出会い
「パパ!!パパが帰ってきた!!」
僕のことを言っているのだろうか?しかし、僕は子供はいないし、結婚すらしていない。どこにでもいる一般大学生だ。
今日はクリスマス。雪の降りしきる中、咲花 満は公園のベンチから正面のアパートの3階のベランダから顔を覗かせる一人の童女を見上げた。これが満と環奈の出会いであった。
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時は少し遡る。咲花は1か月前から付き合っている彼女と公園のベンチに座っていた。もうすぐ終電の時間が迫っている。彼は少し期待に胸をふくらます。しかし、その期待は簡単に裏切られた。
「別れて欲しいの。」
突然であった。満は一瞬で頭が真っ白になる。
「え・・・?何で??」
今日のクリスマスデートの中で別段失敗というほどのことはなかったはずだ。満は十分彼女を楽しませることができていたと思っていた。では、なぜなのか?思考をめぐらすも、答えは一切出てこない。
「満君ってさ、何がしたいか分からないの。」
「どういうこと?」
「考えを表に出していないの。今日だってそう。一緒に服を買いに行っているとき、私はワンピースの色を赤か白かで迷ってたよね。そこで満君にどっちがいいか聞いても満君は「どっちもいいと思うよ。」って。」
「だってどっちも似合ってると思ったから・・・。」
「他にもある。今日のランチどこに食べに行こうか迷ってた時、満君は「何でも僕はいいよ。」って。」
「それは君が好きなものを食べてほしかったから・・・。」
「違うの!全然違う!いつもそう!満君は判断を人に任せて、自分が決めることに責任を持ちたくないだけ!人の顔色ばかりうかがって全然自分のしたいこと、やりたいことを言ってくれない!私は満君を満足させたいの!満足してほしかったの!それなのにいつもいつも私に何でも決めさせるばっかり!!満君が何考えてるか分かんない!もうそんなの嫌なの!だから!!・・・・・さよなら。」
彼女は満に背中を向けて歩き出した。満は呆然としている。言われてみればそうだ。自分の意見に責任を持ちたくないだけであるのに、いつも何かと理由をつけて人に判断させることをよしとしている。それに大学に入ったこともそうだ。親が目指せと言ったから入っただけで、特に将来したいことがあるわけではない。親が公務員になれと言ったから何となく大学を出て、なんとなく公務員になるんだろうと考えていた。満はただただ呆然とするほかなかった。雪が頭の上に少しずつ積もってきた。どうして聖夜の夜にこんな思いをしなくてはならないんだろう。人生最悪のクリスマスだ。そのときだった。あの子の声がしたのは。
「パパ!!パパが帰ってきた!!」
この瞬間から始まったのだ。今まで他人任せで生きてきた人生に重大な決断を迫られる時が。