第2話 オンラインゲーム
課題がやばくで遅れました。
次は3日以内には行けると思います。
「ゲーム…ね。」
『another life online』通称ALO
もう一つの命のオンライン…ね。
《注》某妖精王さんは居ません。
まるで自分にケンカを売っているような、やってみろよ!とでも挑発しているようなゲームに何故か興味を持つ。
葉桜家の者とその他ごく一部の人間しか知らない筈の彼のメールアドレスに届いた差出人不明のメール。
正規の手段で送られて来た訳ではなくハッキングによって送られて来たメール。
送り主は誰なのか、どうやってメールデータに侵入出来たのか。
そんなことは些細なことだとばかりに、貼り付けられたURLの事を考える。
「お?骨牌ぁ、何笑ってんだ?シッポが揺れてんぞ珍しいな。」
「ん、いや。何でもない。」
珍しく面白いと思った感情が外に出ていることに自分でも少し驚くが、前の席の萩原巧に軽く笑って答える。
ゲームのタイトルを思うと何処と無く不機嫌な気持ちになるが、それ以上に興味が湧いていて、送り主などの疑問を放り投げて既にこのゲームをプレイすることは自分の中で規定事項だった。
しばらく前の席のタクとたわいもない話をしているとホームルームが始まる。
ホームルームと言っても、このご時世に教師が教室にやってくることはないし、そもそも担任というシステム自体そもそも既に存在しない。
だからと言って教師と生徒の距離が広くなったかと言われると逆だろう、担任というシステム自体無くなりはしたものの、ネットサーバという、気軽に様々な環境をクリエイト出来る性質のおかげで、部活や課外授業はもちろんのこと、各教師個人がフィールドを作りドッチボール大会を企画したりと教師との身近さという面では一昔前よりも近くなっているだろう。
閑話休題
ホームルーム開始と同時に、教室に有るメインモニターと個人の端末が自動で立ち上がり(既に立ち上げてある場合はホーム画面に切り替わる)ID認証の後、今日の日程と連絡事項が文字として送信されてくる。
また、出席の有無は毎時間ごとのID認証と授業課題提出の有無で確認される。
ホームルームが5分ほどで終わると直ぐに1時限目の開始だ。
今日の1時限目は完璧なデスクワークで、教師や文字による講義もなく、また、この様な授業の場合は一応授業時間は有れど出された課題分を終わった時点で終了である。
何時もならタクを含む他のクラスメイトと雑談したり居眠りしたりしながら授業時間ギリギリまでかけてユックリと終わらせるのだが今日はやりたい事が出来た為、真面目に黙々と解いていく。
真面目に解くと言っても不自然にならない様な速度である。
彼の頭脳は問題を認識すると同時に答えも導き出してしまうのだが、あくまで普通の少し勉強が得意なそれなりに出来るレベルのペースで書き続ける。
「ふあぁ〜終わった」
アバターなので本来欠伸など出ないのだがそこは気分の問題だろう。
何時もなら50分ギリギリで終わる所を、雑談も居眠りもせずに解いた為10分程度でおわる。
それにしても課題量を見ると些か早すぎる様にも思えるが、コレでも本来の骨牌にしては随分ユックリと解いたのだからそんなものだろう。
そんな骨牌をみて、流石だな…。とかはやっ!とか驚いてるいるクラスメイトが数人いるが気にせずお目当のモノに取り掛かる。
「ちょっと潜ってくる、次の時間までには戻るから」
珍しいな、だから急いでたのか。
というタクの言葉を聞きながらメールのURLを進み『another life online』を起動すると学校の現実ネットからゲームサーバにダイブする。
一瞬で切り替わる景色、と言っても切り替わった所には景色という景色は無く、ただ広い空間に自分と受付の様なものがポツンと浮いている感じだ。
「ようこそアナザーライフへ。」
受付の様なものの中に人影が浮かび上がる。
恐らくはゲームAIだろう。
その予想は当たっていた様で、ゲームの説明をしても宜しいですか。という問いにyesと答える。
「本ゲームはスキルや身体能力を駆使して戦うファンタジーゲームです。
ですが他のMMORPGとは大きく違う点が複数存在します。
まずこのゲームのテーマは、タイトル通りもう一つの命です。
よってこのゲームには勿論ルールや法則は存在しますが、ゲームとしての核部分を除く細かな設定は存在しません。
このゲームに登場するNPCは全て人工知能をもつAIであり、全てはマザープログラムに接続されています。
その為、全てのNPCが実際に取った行動がそのキャラクターの歴史であり歩んだ道です。
そしてこのゲーム最大の特徴はプレイヤーのスキルです。
もう一つ命、つまり自分自身。
従来のゲームの様にゲーム側の設定やスキルを習得するのでは無く、その人の特徴や歩みに合わせてスキルやステータスが構築されます。
そして行動も高い自由度を誇り、ゲーム側が作り上げた仕組みの中でプレイするのでは無く、プレイヤーが編み出した技術が、行った行動がゲームの仕組みとして組み込まれます。
つまり、沢山のプレイヤーやNPCが歩み作り上げた物こそがこのゲームの設定になりストリーに成るのです。
つまりNPCを含めた全てのキャラクターはほぼ本当の意味でもう一つの命を持って《もう一つの人生を歩む》というわけです。
このシステムを実現する為に、このゲームをプレイするにはマザープログラムに接続されたゲームAIをインストールしてもらう必要があります。
インストールされたAIはプレイヤーのデータを元にAIの権限を使ってプレイヤー専用のスキルを構築します。
また、構築するスキルにより出る差をなくす為に効果をポイントで表し合計でプラス、マイナス合わせて100になる様に設定してあります。
この時のプラスはメリットでありマイナスはデメリットです。
わかりやすくステータスポイント的に例えるとするならば、100ポイント全てを攻撃に降った場合攻撃は100になり使用ポイントの合計は100になります。
攻撃を150にした場合は防御やスピードから合計でマイナス50引かれることにより使用ポイントの合計は100になります。
つまりメリットが大きいほど大きなデメリットが存在し、汎用的な能力から一点に尖った個性的な能力など様々なスキルが存在することになります。
余ったポイントはアイテムや装備として消費されたり、持ち越されたりします。
そしてこのポイントはレベルアップ時にも手に入り、そのポイントを使いAIがスキルを強化したり新たなスキルを構築したりします。
ただし原則として、スキルの成長や構築はゲームスタート時に構築されたスキルの方向性にあった様にしか変化しません。
また、ゲームスタート時のスキル構築に限り、やり直すことが可能です。
そしてゲームAIインストール後、ゲームを始めるまで24時間の時間が必要とします。
コレはゲームAIがプレイヤーの行動や性格、特徴を把握するのに20時間、スキルを構築、マザープログラムに確認と登録するまでに4時間、合計で24時間かかる為です。
またスキル構築をやり直す場合には、やり直す毎に4時間の時間が必要となります。
コレで一通りの説明は終わりです。
質問はありますか。」
説明を聞いた感じでも面白そうだ、そしてこのゲームのシステムを考えてプログラム組んだ奴のことは少し気になるが…。
まぁ、それは置いておくとして気になることは…。
「ゲームAIがプレイヤーの特徴や性格などを把握する際に得た個人情報等が流出、若しくは悪用される可能性は?」
「無い。と断言できます。
このゲームのほぼ全ての権限はマザープログラムが所持しています。
マザープログラム以外の者、製作者が持っている権限はマザープログラムのゲームに関する全ての権限を破棄する権限だけとなっております。
剥奪では無く破棄ですので、マザープログラム以外がこの権限を手にすることは有りません。
それと同時このマザープログラムはゲーム以外の権限を全く持っておりません。
つまりマザープログラムはゲームプログラム以外に全く影響を及ぼすことは不可能となっています。
この為外部からのハッキング以外でゲーム等のデータが漏れることは有りません。
また外部からのハッキングに関してもオンタイムでデータが更新され続けている為事実上不可能となっています。」
「マザープログラム等の権限について本当かどうかの証明は可能?」
「いいえ、ただ権限に関するプログラムの一部を開示する事は可能です。その点を鑑みての判断はお任せします。」
目の前の空間に無数の文字列が並ぶ。
恐らくは今言っていたプログラムの一部だろう、骨牌は人間の認識を超えたスピードでプログラムを読み取っていく。
問題無いだろう事を確認して軽く頷く。
「うん、問題無い。」
その後も幾つかの質問を繰り返し一通りの気になる事を聞き終える。
今で無くても質問は可能らしいのでとりあえ一旦質問を終了する。
再度質問がないかの確認が終わると選択画面が出てくる。
プログラムをインストールしますか?yes/no
yesを選択してインストールが30秒ほどで終了すると今度はアバターの選択画面に進む。
「アバターは人型しか利用できません。
現実の体を調性したり、パーツを持ち込み、またはゲーム内のパーツを使いカスタムすることも可能です、またスキル構築と同時に自動でアバターを構築することも可能です。」
自動で構築されたアバターもやはり気に入らなければ自分で作ることも可能らしいのでとりあえず自動構築を選択する。
名前などはスキル構築を決定後、最後に登録するらしいのでとりあえず今やれることは終わりだ、時計を見るともう授業も終わり休み時間に入っている時間だった。
確か次の授業はどっかの有名人の講演会だったかな。
眠くなるな。
そんな事を考えながらゲームサーバからログアウトして学校ザーバの現実ネットに戻るとちょうどタクが目を覚ましたところだった。
「え?あっ…。授業終わったのか、やべえ課題おわってねぇ…。」
課題も終わらせず授業途中から寝てたらしい。
少し機嫌のいい僕は軽くジト目で睨むと答えのデータをタクのメールに送信してやった。
「‼︎か、かるたぁ〜。」
グスッ…。
「泣くなよ流石にキモいぞそれ。」
まだ彼の青春に色は無い。