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絶超変隊アヘガオン

作者: Rolly Dice Key
掲載日:2015/12/08




「テメェラ動くんじゃねぇぞッ!」


 ある天気の良い日曜日。

 今日は絶好の強盗日だと言わんばかりにぞろぞろと彼らがやってきた。

 真っ黒な目出し帽に、真っ黒な上下のジャージ、さらには真っ黒な金を詰め込む袋と全くもって黒々しい彼らが。

 ついでに手には真っ黒に輝く銃が握られていた。いや、ついでではない、こっちの方が大事なことである。


 突然の日常の破壊に銀行の中の人がざわざわとざわめき始めた頃。


「動いた奴から容赦なく殺していくからなッ!」


 強盗達の中の一人が銃を掲げつつ銀行内にいる人を見渡して言った。

 途端、静かになる銀行内。

 しかし人々の混乱はその程度で収まるわけもなく、次の瞬間…………


「キャーッ!」

「くそっ! なんでこんな時に強盗なんて…………」

「どけっ! 俺はこんなところで死んでいい人間なんかじゃない!」


 大混乱。

 誰もが銃を持った強盗から離れようと、奥へ奥へと進んでいく。

 当然強盗は、自分たちの立場を理解していない人々にそれを教えるため銃口を人々へと向け――――


「落ち着け、バカ野郎共」


 突如、響いた声。

 アンギャアンギャと騒がしい中、それらにかき消されることなくその声は人々の耳へとたどり着いた。

 突然のことに人々はキョロキョロと辺りを見渡す。

 そして、徐々に人々の視線が一つになっていった。

 百数十の視線を受けた声の主はというと……


「ん? どした? 俺に惚れた?」

「いやぁん、ピンクってばイエローのそんな自信満々なところがだ・い・す・き!」


 そんな風におどけてみせる金髪のイケメン。

 彼は隣に豊満な肉体を持った女性を侍らせながら窓口の一つに腰掛けていた。いや、よく見れば腰掛けているのは窓口ではない。人だ。


「三十なのに左遷、リストラで職を失い、挙げ句の果てには痴漢冤罪で金を取られた…………電気もガスも水道も止められ、昨日アパートも追い出された…………絶望しか俺には残ってない…………」


 ずっと四つん這いになってイケメンの椅子になっている彼の顔は暗い。凄く暗い。引くほど暗い。

 それも彼の言葉を聞けば納得のいくものであるが…………味わいたくはないものだ。


 椅子になっている黒い彼に、それに座っている黄色のイケメン。

 対比が凄い。これが格差社会なのか。


「おいッ! テメェ何偉そうにしてんだ! 自分の立場分かってんのか!?」


 強盗の一人がイエローと呼ばれた偉そうにふんぞり返っているイケメンに銃を向けつつ言い放った。

 だがイケメンの余裕の表情は崩れない。

 それがどうしたと言わんばかりに顎をあげ、どこまでも相手を見下している。


「クソが、一回痛い目に合わないとわからねぇようだな」


 そんなイエローの態度にどうしようもないと感じたのか、強盗は銃を構える。

 銃口は真っ直ぐイエローへ。

 顔には無表情という表情を浮かべて。


「見せしめだ」


 発砲。

 静まりかえった銀行内に轟く銃声。

 そして撃たれた衝撃からか、上体が後ろへと倒れるイエロー。


 一瞬の静寂。

 そして、悲鳴が爆発した。

 泣き出す者、笑う者、叫ぶ者、塞ぎ込む者。


「うるせぇッ!」


 しかし、それらさえ強盗の叫びと共に撃ち出された弾丸に止められた。

 ゆっくりと、人々を睨みつけるように見渡す強盗。

 恐怖に染まった瞳で注目を浴びる強盗は、ようやく自分たちの立場が分かったかと満足そうに頷いた。

 だが、そんな顔もすぐに固まる。

 何故なら…………


「全く、いきなり撃つなんてひどい人たちだなぁ。懐に百万円がなかったら死んでいたって」


 …………死んだと思われていたイエローが懐から一万円札の束を取り出しながらそのようなことを言ったからだ。


「………………は?」

「ありゃ、これはただの百万円じゃなかったわ、所々に小判が挟まっていたみたい。ははっ、これは俺としたことがうっかりうっかり、あはははっ!」


 思わず目が点になった強盗に追い打ちをかけるようにさらなる爆弾を落とすイエロー。

 全く持って意味が分からない。何故札の間に小判を挟むのか。

 だが今はそんなことどうでもいい。

 大事なことは彼らがどういった存在なのかという事。


 銀行内の誰もがそんな思考にたどり着いたとき、また声が聞こえてきた。


「も、もう……! そんなに目立たないでよ……この衣装って凄く恥ずかしいんだから……!」


 蚊の鳴くような、しかしこの静寂の中なら聞こえるほどの声量で言われた言葉は皆の耳へと届いた。

 そして、人々は何とかキテレツな存在から視線を外し、声の聞こえたイエローの隣の窓口へと視線を向けるとそこには……


「はぅ……みんなが、見てるよぉ……ぁん、恥ずかしいぃ……」


 ……赤色のヘソ出しレオタードを着て、恥ずかしそうに身を捩りながら息を荒くしている、見た目中学生くらいの少女がいた。


『うぉぉぉおぉおおおおおおお!』


 それを見た男達は一瞬にして沸き上がる。

 ヘソ出しレオタードでさえその露出度から十分に興奮剤となるものだ。

 にもかかわらず、それプラス幼さ、羞恥心、そして僅かに感じる快感……………………これは男として叫ばずにはいられないだろう。


 だが人々は忘れていないのだろうか。

 今人々は強盗に人質としてつかま――――


「うぉぉぉおおおお! なんてエロいんだぁぁあああっ!」


 ――――どうやらその心配はいらないようだった。

 目を血走らせ、食い入るように赤色ヘソ出しレオタードを着た少女を見つめる強盗。その様子は完全なる犯罪者だ。既に強盗でもあったわけだが。


 人々(主に男)の視線を独り占めにした赤色ヘソ出しレオタードの少女は、そんな人々の叫びに更に顔を赤くする。

 だが、その内にある正義感に突き動かされてか、はたまたここに来た目的を思い出したからか、彼女はキリッとした顔つきになると強盗達を糾弾し始めた。

 脚は股間を隠すようにクロスさせ、片手は胸の突起を隠すべく胸に添え、残った片手で強盗達を指さす。ついでに顔は真っ赤っか。どう見てもツンデレだ。


「え、えっと、強盗さん、無駄な抵抗はやめて大人しく捕まってくれると嬉しいな~、なんて…………」


 だが残念、ツンデレに必要な元気さが彼女には足りなかったようだ。

 これに少しばかり肩を落とす男共。既に自分たちが人質だということを忘れているのかもしれない。


 そして、この言葉を受けた強盗達はというと、笑っていた。


「はははっはっ! 何を言うかと思えば、嬢ちゃん? 俺達はもう後がないんだ。今ここで銀行強盗を行った。今更元になんて戻れない」


 急にシリアスな雰囲気になる銀行内。

 強盗達には強盗達の思考があり、決断があり、意地があるのだろう。

 銃を片手に、真っ直ぐ少女へと注ぐ視線は熱い。視線は主に胸へと注がれているが。


「で、でも、強盗ってのは悪いことで……」

「あぁ、そんなこと百も承知だ。だが俺達は決めたんだ。当然悩みもしたし、世間へ迷惑をかけることに申し訳なくも思った。だが、それら全てを背負い込んで俺達は覚悟を決めたんだ! だから俺達は――――」

「――――観念しなさい! 罪なき人々を巻き込む悪党共! この私、ホワイトが来たからにはこれ以上の悪行は許しません!」


 強盗がやけに男らしく胸に秘めた決意を叫んでいると、それを邪魔するように彼女が来た。

 初雪のような純白のマントをはためかせ、その美しい顔に自信を張り付けた、彼女が。

 そして彼女は学校で使うものにしては若干長めの竹刀を強盗達に突きつけ、口頭を述べた。


『……………………』


 見るからに正義の味方。

 しかし、そんな彼女がきたにもかかわらず銀行内は微妙な空気にさらされる。

 むしろ幾ばくか彼女を責めるような視線まで見受けられた。


「な、なんですか? 強盗が現れたと聞いてやってきたのですけれど……」


 彼女もそんな視線に気づいたのか、さっきまでの自信ありげな表情に陰りを落とす。


「いや、見れば分かるよね」


 だが、そんな彼女を一刀両断するように、その言葉は放たれた。

 確かに状況を見てみればすぐに分かること。銃を持った覆面集団、真ん中で一カ所に集められている人々。これのどこに強盗以外の何かを疑う必要があるのだろうか。いや、ない。


 すぐにそのことに気がついたホワイトと名乗った女性は若干の羞恥を感じながら、この状況で冷静にそのことを教えてくれた人物へと視線を向ける。

 強盗に襲われて人質にされているという状況であんな冷静に物事を見れる人物。もしかしたらその人は自分で何か策を練っているのかもしれない。

 そんな都合の良い期待を少しだけ抱きつつ。

 だがそこにいたのは――――


「あ、あなたは!」

「どもー、前の怪人討伐以来~? あの俺がばらまいた金はちゃんと回収した?」

「イエロー! ということは……」


 ブラックに座るイエローはホワイトの視線を受けてにこやかに手を振った。人を虐げているのに凄くいい表情だ。

 そしてその人物と面識があったのか、その顔に驚愕を浮かべるホワイト。だがその顔はすぐに、何かに気づいたのか思案顔になり……


「はぁ~い、子猫ちゃん。ご機嫌いかがかしらぁ?」

「ピンクッ! この様子だと他の色も…………」

「いや、他の色呼ばわりはちょっとなぁ~……」

「あ、レッドちゃん! 久しぶりね!」


 他の色呼ばわりにちょっとばかり不満を申し立てるレッドと呼ばれた赤いヘソ出しレオタードの少女。頬を膨らませて不満を露わにする様子はリスのようでとても可愛らしい。頬を赤らめ、体はもじもじと艶めかしく動いているのだが。

 そしてレッドを見つけて心の底から嬉しそうに手を振るホワイトはさっきまでの仏頂面はどこへ投げ捨てたのかと思うほどにすっきりした表情をしている。彼女にとってレッドという存在は一種の清涼剤なのかもしれない。


 お互いにニコニコと笑いながら手を振り合う美少女二人。

 もうここがどんな現場なのか、誰もが疑問に思い始めた頃だろう。


「おい!」


 だが、ここで芯の通った大きな声が人々の耳朶を打つ。

 さっきの決意表明をしていた強盗だ。

 彼は散々虚仮にされ、無視され、邪魔されてなお、その心に宿した炎を消していなかった。

 銃を掲げ、一発。


『ッ!?』


 一瞬にして朗らかだった空気が変わる。

 彼らは思いだしたのだ。今、自分たちは人質であり、命を握られている、一人の被害者なのだと。

 ギロリと人々を睥睨する強盗。その視線に射竦められ人々は身を堅くした。


「…………俺達が要求するのは金と逃走用の車、そして武器だ。時間が経つごとに人質を殺していくぞ。…………こんな騒ぎになっちゃ警察が来る前に逃げることなんて出来ねぇ。普通に逃げては巻くことも難しいだろう。だから俺達は選ぶぞ。徹底抗戦という選択を」


 決意を宿したその目。

 それを見た他の強盗達は、彼に習うかのように姿勢を正し、心持ちを新たにした。

 圧倒的なカリスマ。何故彼は強盗なんてやったのだろうか。

 だが、こと現在に置いてそれはどうでもよいこと。

 今はどうやってこの状況を乗り切り、そして治めるかということだけ。

  正義を掲げるホワイトはさっきまでの脳天気さを捨て、必死に頭を巡らせる。

 が、その時。


「ん? 金? おう、やるよやるよ、ほら犬のように這い蹲って拾え!」


 ずっとブラックを椅子にして座っていたイエローが懐から札束を取り出してまき散らす。

 舞い散る諭吉。まるで銀行内が黄金に輝いているようだ。


「なっ!?」

「えっと、あとは逃走用の車だっけか? すまんな、ちょうど今全部改造中なんだ。俺のプライベートジェットで我慢してくれ」


 そういってイエローはパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、外の大通りに盛大なエンジン音をたてながら、全長三十mほどのジェット機が……


「えっ!?」

「あとは…………武器か。それはどれくらいの規模だ? 戦闘機か? 爆撃機か? 戦車はいらないか? なんならあの夢の武器、超電磁砲レールガンは…………おっと、これはまだ機密事項だったかな」


 途端に騒がしくなる外。何か大重量のものが動く音や、何か鋭いものが風を切る音、さらにはあのSFなどで聞く未来チックな音までが人々の耳に入った。

 次々に集まる音。一体イエローは強盗達を何と戦わせようとしているのか。


 そして途端に騒がしくなる色達。


「もう、イエローはやりすぎだよぉ……」


 レッドは注目がそれたことに残念そうな顔で懸念を示し、


「ぁあん! お金を惜しみなく湯水のように使うイエローに、ピンク、濡れちゃうわぁ」


 イエローの腕に抱きついているピンクは発情した雌犬のごとくイエローへとすがりつき、


「……ふふ、ブラックとなった俺にはまだイエロー様の椅子という仕事があるじゃないか……それに椅子となってすぐ下にいればおこぼれがもらえるかも……」


 イエローの椅子になっているブラックは僅かに垣間見えた希望の光に歓喜し、


「もしもしッ! ホワイト団はまだ到着していないんですか!? またあいつらが好き勝手やっているんですよ!」


 イエローの凶行を見ていたホワイトは携帯電話に必死に語りかけていた。


『……………………』


 そして人々の顔から表情が消えた。


「…………なんなんだろうな、俺の覚悟って」


 強盗も何故か悟りを開いたような顔で棒立ちとなっている。

 いや、当たり前だろう。決死の覚悟で、元は真面目だったであろう彼が仲間を募って実行した銀行強盗をこんなコメディチックにされてしまったのだから。

 もういろいろ台無しだ。

 強盗は疲れたようにその場に座り込んだ。


「はぁ……」

「ん? どうした? 要求は全部呑んだぞ? まだ何か足りないのか?」


 急に座り込んだ強盗を見て、勘違いしたイエローはそう声をかけた。あれで足りないと思うとは、彼は強盗達に何を期待していたのだろうか。

 だが今の強盗にそんなことをいう元気はない。どうやっても逃げられず、例えあらがっても台風の前の木の葉のごとく吹き飛ばされる未来しか彼には見えない。

 だが彼は勘違いしていた。それも、根本的な勘違いを。


 イエローは座り込んで動かない強盗を見て彼が勘違いしていることに気がついた。

 自分を間違った見方で見ていると言う事実にイエローは我慢できず、すかさず言い放った。


「おい、強盗。お前勘違いしてないか?」


 と。

 徐に顔を上げ、イエローを見上げる強盗。


「……どうもこうも、何を勘違いしてると?」


 全く気がついた様子のない強盗にイエローは不愉快を全面に押し出した表情で腕を組んだ。

 一体イエローはこれ以上何を言うつもりなのだろうか。


「俺は嘘が大嫌いでな。自分の口から嘘が出るなんてあり得ない。つまり、俺の言うことに嘘は一つもないということだ!」

「…………は?」


 イエローは自信満々にふんぞり返りながらそう言い放つ。

 が、その言葉を受け取った強盗は当然のように呆然とした。当たり前だ。今まで言ったこと全部本当だよ、と言われてハイそうですかと頷けるはずもない。あんなに非常識なことだらけなのだから。


「ちょっ! 何をするつもりなのですかッ! 彼らは強盗なのですよ! そんなもの与えたら手をつけられなくなるではないですか!」


 そんな中、イエローの暴走を止めるため、一人の少女が意識を取り戻した。

 正義の味方、そして皆のヒーロー、ホワイトだ。

 彼女は先ほどまでみっともなく慌てていた自分をなかったかのように顔をキリリッと引き締め、手に持つ竹刀をイエローへと向けていた。

 だがそんな発言、イエローには通じない。

 案の定イエローは笑いながらホワイトの言葉を一蹴した。


「知らんな! 俺はこいつらが金と逃走用の乗り物と武器を所望したから貸してやると言ったにすぎん!」


 ハハハと笑い飛ばすイエロー。

 しかしこの台詞の中に強盗達にとって聞き逃せない言葉があった。


「…………貸してやる?」

「あぁ、そうだ。お前らがそれらを欲したから俺は用意してやった。しかし無償でやるなど一言も言っていない!」


 なんという鬼畜な所行。闇金、押し売りも真っ青だ。

 普通、強盗が用意しろと言ったらそれは無償に決まっている。

 なのにイエローは当然のように金を請求。

 強盗の顔が悟りを開いた。


「……いくらほどでしょうか」

「ざっと一億はいくんじゃないか? 俺はもう金銭感覚が壊れてるからそんな端金、数える気にもならないが」


 一般的な家庭を持つ男の生涯年収はおよそ二億。

 そして強盗達の人数は八人。

 この数字を見ればなんとか返せる気もしないではない。

 しかし彼らは既に強盗という犯罪を犯した犯罪者だ。なおかつ彼らのほとんどは四十を越えようかというおじさん達。新たな職を見つけることすら難しい。

 更に言えば彼らには生活していく金も必要だ。

 完全な詰み。もう何もやる気など起きない。


「それでも、もう金は動いているんだ」


 だがそんな彼らにイエローは言った。

 そして続けて、こうも。


「払えないなら体で支払ってもらうまでだ」

「え?」


 とんでもないことを言って場を混乱させるイエロー。レッドなんて意味が分かっておらず、急にざわめきだした群衆に対して、可愛らしく首を傾げている。

 だが、イエローの言葉はそのような意味で放たれたものではなかった。


「お前達はこれからの人生を俺の会社で働くことでこの事態への借金返済とする! なぁに、安心しろ。死ぬ一歩手前までで勘弁してやる」

「…………っ!?」


 イエローの言葉にしばらく固まっていた強盗達。

 しかしその言葉の意味が徐々に分かっていくと強盗達の顔は驚愕で固まった。


「ん? どうした、アホみたな顔を更に退化させて」

「お、おい、それは本当か?」

「あぁ、本当にチンパンジーみたいな顔だぞ」

「そっちじゃなくて! 雇うとかそこらへんの話だよ!」

「お前は俺の話を聞いていなかったのか? 俺の言葉に嘘はない!」


 堂々と、漢のごとく堂々と言ったイエローは、返事はどうした、と言わんばかりの視線で強盗達を見下ろす。

 その視線、姿勢、雰囲気に強盗達はイエローが本気で自分たちを救済してくれようとしているのだと理解した。

 そして、嗚咽が聞こえ始める。

 追いつめられ、これからの人生に絶望していた強盗達の、心からの安堵による、嗚咽が。


 ずっと先頭で喋っていた強盗のリーダーらしき人物は目の前で自分達を見ているイエローへと感謝の言葉を告げる。


「ありがとう…………! 本当に、ありがとう……!」

「あの、イエロー様。このワタクシ、ブラックも働かせて――――」

「あぁ、俺は嘘が嫌いで金が大好きな『イエロー』だからな。お前達が嘘をつかず、俺のために働くというなら働かせてやる。あぁ、ブラックは当然ダメだ。今は俺の椅子としての役割があるだろ?」


 イエローの言葉に歓喜の涙を流す強盗達と絶望に打ちひしがれるブラック。心なしかブラックの周りの色素が黒く染まっているような気がする。


 ともあれ、強盗達は新たな職場を見つけ、ここに強盗という悪はいなくなった。

 自分の身の安全を理解してか、徐々に笑みが増えていく群衆。中には人質にされていたというのに笑顔で強盗達に、よかったな、と声をかけるものまでいた。


 一件落着これにて閉幕。

 まさにそんな雰囲気の中、しかし納得していない人はいて。


「待ちなさいあなた達!」


 がやがやと賑やかになってきた銀行内を一喝する声があがった。

 人々の視線がそこに向かえば、そこにいる竹刀を持ち白いローブを纏った人物は眉をつり上げ、強盗達を睨みつける。

 途端に悪くなる雰囲気。

 しかし声を上げた人物――ホワイトは気づかず声を張り上げる。


「あなた達は犯罪を犯したのです! 罪は司法によって裁かれなければいけません!」

『……………………』

「確かに同情するようなところもありました。辛い経験をしたであろうあなた方を裁くというのは心苦しいところもあります。しかし私は正義の者です。犯罪は正義によって裁かれなければいけないのです。だから、私は正義の名の下に、あなた達を裁きます!」

『……………………』

「大丈夫です、あなた達の苦労はちゃんと聞きました。刑は軽くなるでしょう。私がちゃんと口添えします。だからみなさん、しばらくの我慢です。少しの間だけ規則正しい生活を送り、罪滅ぼしをしましょう!」

『……………………』


 静寂。そして非難の視線。

 確かにホワイトの言っていることは正しい。ちゃんと情状酌量の余地まで考えているところは賞賛に値するだろう。

 だが…………ここで言うか。ここで言っちゃうか。

 人々の心は再び一つになった。


「な、なんですか……? 今度こそ私は何も間違ったことは言っていないはずなのですが……」

「あ、あのぅ、ホワイトちゃん? それ、今ここで言っちゃうの? 絶対タイミング間違えてるよ?」

「あんたねぇ、せっかくアタイのマイダーリンがいい感じに締めくくろうとしてるのに、何邪魔しちゃってんの?」


 ホワイトの言葉にレッドが優しく諭し、ピンクが責める。

 友達思いの言葉にはレッドの優しさが、そしてアタイのマイダーリンという台詞にはピンクのバカビッチ臭が漂っていた。対極である。

 そんな言葉を受けたホワイトはというと、


「な、なんですかレッドちゃんもバカビッチも! 私はごく普通のことを言っただけですよ! 何が悪いんですか!?」

「ふふ、お嬢ちゃん、世の中にはな、理不尽ってものが――――」

「そんなことも分からないのか。生真面目馬鹿女。だからお前は政府の犬と言われるんだよ」


 ブラックの気持ちの入りすぎた台詞を遮り、イエローが言った。さっきからイケメンなのと合わせてかなり格好良い。実体は金塊で殴り倒すような横暴者なのに。

 そんな言葉を受けたホワイトはというと、顔を真っ赤にして怒っていた。しかしいつも言われていることなので我を失うことはない。ただ懐に忍ばせていたカッターを投げつける程度だ。ちなみに学校の備品である。


 トスッと軽い音を立ててイエローに突き刺さるカッター。

 だが当然イエローは倒れることもなく、


「ふふ、危ない危ない、腹周りを札束で覆っていなかったら俺の肌に傷が付くところだったよ」


 目に痛い黄色いスーツを捲り上げ、腰バンドのように巻き付けられている札束を見せるのだった。

 

「金の亡者!」

「ハハハ! 最高の褒め言葉だな! 世界は金で回っている! 金を持っている奴こそ正義なんだよ!」


 さっきまで格好良かったイエローのこの変貌ぶりに群衆は引いた。

 かく言うホワイトも汚物を見るような目でイエローを見つつ、軽く後ずさる。

 が、すぐにホワイトは論点をズラされていることに気づき、立ち止まって叫んだ。


「って、そんなこと言ってる場合じゃないのよ! とにかく彼らの身柄はこちらに預けさせてもらいます!」


 ビシッとイエローとその前でひざまづいている強盗達を指さすホワイト。顔はまたもキリリッと凛々しく引き締められていた。

 そんなホワイトの発言を聞いた強盗達は、やはりダメなのか、とうなだれる。

 しかしその顔は、思わぬところから入った言葉に上がった。


「だからそれが違うって言ってんのよ、小娘。アンタって本当に昔から頭がカッタイのね。アンタらもイエロー様の元で働くって言ったんでしょ。ならこれくらいの非常識くらい受け入れなさい!」


 イエローに抱きついたまま鬼の形相で叱咤するピンク。完全にオカンとなっている。

 ビクッと身を小さくするホワイトと強盗達。完全にオカンに怒られる子供となっている。

 それらを見てよしと思ったのか、ピンクはオカンを続ける。


「いい? アンタら」


 無言で言葉を待つホワイト達。

 オカンのウザい、けど暖かい言葉を待っているのだ。

 そして、オカンは口を開き、


「……………………勝てば正義なのよ! 気に入らないなら何が何でも勝ちなさい!」


 悪党そのものな理論を言い放った。

 オカン? とんでもない、彼女は大悪党だ。


「ふざけないで! あなたはいつもいつもそんなこと言って!」

「いーや、ふざけてなんかないわ! これはこの世の真理なのよ! 昔の偉い人たちも勝つことで自分たちを正当化してきたし! ねぇ、イエローぉ? あなたもそう思うよねぇ?」

「おう、その通りだ。勝てば正義。そして勝つためには金がいる。つまり俺が勝者と言うことだ!」

「キャー! イエローカッコいいー!」


 そういいながらピンクはイエローへと抱きついて頬擦りする。相変わらずのビッチだ。

 そしてそれをイライラした視線を隠しもせず見つめるホワイト。こんな茶番につきあってられないのだろう。


『………………』


 そしていつの間にか空気となっているレッド、ブラック、民衆達。特にレッドなんかはあんな恥ずかしい衣装で出てきたというのにこの扱い。悲惨である。

 そんな彼らをさしおいて、イエロー達の話し合いは続く。


「だから、勝てば正義とかそんなものはあり得ません! いつの時代にも倫理観や常識というものがあり、それに従って正義は成り立っているのです!」

「いいや、その倫理観や常識すらも時代の勝者によって作られているものだからな。生真面目馬鹿女には分からないだろうが」


 そう言われたホワイトは馬鹿にされたことにか、はたまた言い返せないことにか、下唇を強くかんだ。


「っ! わっかりました、この際仕方ありません。私はあなたを倒して、勝者として正義を証明して見せます!」


 そしてイエローの挑発にまんまと乗ったホワイト。単純すぎるだろう。

 手に持っていた竹刀を改めてイエローへと向けて向ける。その姿勢は美しく、据える視線は鋭く敵を射抜いていた。


「うわ、持論をひっくり返すやつがここにいる。そうやって流されるからお前は――――」

「――――うるさいうるさいうるさいいいいぃぃぃぃぃぃ!」


 虚仮にされたホワイトは髪を振り乱し、何かを振り払うように駆け出した。

 その速さは並じゃない。

 だが、既にイエローは行動を開始していた。


「残念、俺達は忙しいんだ」


 突如、舞い上がる諭吉の嵐。

 どうやって仕込んだのか、銀行内のありとあらゆる場所から諭吉が吹き上がる。

 その数、およそ百万諭吉。


「うおぉぉぉ……めがぁ……めがぁ……」


 あまりの眩しさにブラックの目がいかれたようだ。


「くっ、これで目くらましのつもりですか!」


 突進の最中、欲望に駆られて身を浸したくなる諭吉の嵐に包まれたホワイトは、しかし自らの欲望におぼれることなく、イエローへと真っ直ぐかけていく。

 そして、視界を埋め尽くすほどの夢は崩れ去り、視界が開けた。

 だがそこには既に彼らの姿はなく。


「よぉく聞け民衆共!」


 不意に聞こえる声。

 何事かと民衆の視線が声の聞こえた所――銀行の玄関へと集まれば、


「知ってるとは思うが決まりだからな! 俺達の自己紹介をしてこの場を去らせてもらう!」


 集まった五人・・は各々好きなようにポーズをとった。


「まずは俺、金こそ正義、成金イエロー!」


 新たな諭吉をまき散らしながらブラック(椅子)へと座るイエロー。


「うふふっ、お金を持ってる男ならなびくわよ、淫乱ピンク!」


 妖艶なしなを作り、男を虜にする視線を投げかけるピンク。


「ふはは……この世に神などいない……全ては絶望の奥底へ……お先真っ暗ブラック……」


 結局椅子となっている椅子、もといブラック。


「ふっ、最後だけちらりと出されるとは……驚嘆の中に生きる、悲運に見初められし女、顔面蒼白ブルー」


 長いの青髪に、スラッとした体型を持つ今までいなかったのに自己紹介だけ出る女、ブルー。


「はわわっ、も、もう私なの? え、えっと、恥ずかしいけどなんでかだ、出しちゃう……赤面レッドっ!」


 そして主役のはずなのに端で小さく丸まっている赤いヘソ出しレオタードのレッド。


 五人それぞれの自己紹介が終わり、五人は息を吸う。

 そして、


『そう! 我らは、絶超変隊アヘガオン!』


 息をそろえ、そう叫んだのだった。


『………………』


 呆気にとられる人々。

 テレビやニュースで度々見かけるあの名前。

 それが目の前で、実物から聞けたのだ。

 恐ろしくて仕方がないのだろう。


 だが、そんな民衆の心を知ってか知らずか、空気を読まないホワイトは糾弾する。


「逃げるなんて! 勝てば正義じゃないのですか!?」

「全く、学がないのか? こんな諺があるだろう、逃げるが勝ち、ってな」

「ご、ごめんねホワイトちゃん。ほら、警察も来てるし……」


 そしてホワイトは警察のサイレン音を聞く。

 それがいけなかった。


「今だ!」


 イエローの叫び声に外へと飛び出す五人+八人の強盗。


「あっ!」


 ホワイトがそれに気づき、声をあげるも時既に遅し。

 イエロー達は用意されていたヘリに乗り込み、手を振っていた。


「はっはっはっ! またな! 偽善者!」

「ばいば~い、また会おうね、ホワイトちゃ~ん!」

「…………強く生きろ、お嬢ちゃん」

「成長期はまだなのかしらぁ? ばぁい、つるぺったんさん」

「……つるぺったん……私もそうなのだが……」


「ビッチと成金は黙っててください! もう! まだ逃がしてしまいました!」


 だんだんと遠ざかっていくヘリ。

 それを見送るホワイトの立ち姿は悔しさを滲ませ、しかしどことなく楽しさを醸し出しているように見えた。


「あー、君」


 するとそんな彼女に後ろから声をかけてくる輩が。

 彼女は振り返りつつ、清々しい笑顔で返答した。


「はい、なんでしょうか?」

「見て分かるとおり警察なんだけどね…………あれ、どうしてくれるのかな?」


 警察の指さす先には膨大な破壊の跡があった。

 銀行はもちろん、道路や標識、信号などにも被害は拡大している。何故か一般の建物にはかけらも傷ついていないが。

 そしてそれを見たホワイトは数秒だけ固まって、


「あぁいぃつぅらぁぁぁああああああ!!!!」


 平和の戻った町に響きわたるほどので声量で、叫んだのだった。



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