九話:良一、『競技』において敵の猛攻に遭う
「挑戦者よ。先手を取るか? それとも後手を取るか?」
対戦者である紫の衣の男がそう聞いてきた。
「ぼ、僕が決めていいんですか?」
僕が少し驚いて聞くと、男は黙った。
「あ、あの?」
うろたえる僕。
男はため息をついた。
「これは神聖な儀式であるが、同時に皆はこの対戦を見るのを楽しみにしているのだ。もうちょっと格好良く、威厳がある感じで喋れないかね。」
「え」
「さっきの自己紹介はなかなかよかったぞ。」
「……。」
わかった。こうなりゃやけくそだ。
「汝、先手か後手かの選択権を我にゆだねると申すか!?」
僕はビシッと指を突きつけ、声を張り上げた。
「然り!これは挑戦者に与えられる権利と知れ!」
男も演劇のような調子でそう返してきた。
観客は歓声をあげ始めた。
僕はじゃんけんのチョキの握りかけみたいな手で自分の顔を隠して、
「なれば! 我、先手を取らんと欲す!」
そう言った。
「汝の権利は認められた。では開始だ! 宣言を!」
「よかろう!」
僕、よかろう、とか言っちゃったよ。こんな言葉を使うのははじめてかも知れない。
さて。
頭をフル回転させる時間だ。
頭の中に二十八枚の牌のイメージを浮かべる。
7777777
666666
55555
4444
333
22
1
これがこのゲームに使われる二十八枚の牌だ。
ここから、今、僕から見えている十四枚の牌を引く。
今見えている牌は7が四枚、6が三枚、5が二枚、4が三枚、3が一枚、2が一枚。
つまり、僕の脳内イメージの牌はこうなる。
777
666
555
4
33
2
1
これが、僕の手牌にありうる牌の候補だ。
ここは素直に7か6か5を宣言するところだろう。
この三種は、どれも三枚存在しうるのだ。
3を宣言してもいいかもしれないが、これは二枚しか存在し得ないので、確率が悪い。
4や2や1は一枚しか存在し得ない。これを宣言するのは後回しでいいだろう。
7か6か5か。ここは勘だ。
「我、宣言す! わが手牌に5、有りや!」
僕の宣言に観客がどよめく。
「否!」
帰ってきたのは否定の言葉。
え。
僕の手牌に5、ないの?
しまった、自分の番が終わってしまった……。
一瞬うろたえるが、そこは表情には出さないでいく。
つもりだ。
表情に出してないつもりだが、表情に出てしまっている気がするのは何故だろう、気のせいだろうか。
「宣言の権利は我に移った!」
男が声を張り上げる。
「我、汝に問う! わが手牌に5の牌、有りや無しや?」
僕の目に映る、彼の手牌は7,7,6,5,5,4,2。
「有り。」
微妙な屈辱を感じながら、僕は彼の手牌の5を一枚、表向きに倒した。
満足そうな笑みを浮かべる男。
これで彼の手牌は一枚減り、彼の勝利が近づいたのだ。
「我、続けて問う! わが手牌にさらなる5の牌、有りや無しや!」
彼の今の手牌は言うまでもなく、先ほどから一枚減って、7,7,6,5,4,2。
「有り。」
焦りを感じながら、彼の5の牌を倒した。
二連続で当ててきたか。
ここで調子に乗ってもう一度5を宣言してきたら、それは外れなんだけどな……。
そう思っていたが、
「我、さらに問う! わが手牌に7の牌、有りや?」
彼は宣言を変えてきた。7か。
彼の手牌は7,7,6,4,2。
「有り。」
やばい。
三連続で当ててきたか。
額に脂汗が滲んでる気がする。
僕は彼の手牌の7を倒す。
これで彼の手牌は、7,6,4,2のわずか4枚。
彼があと4度宣言を的中させると彼の勝利なのだ。
「四度宣言す。わが手牌に、7の牌、有りや無しや!」
冗談じゃないぞ。
四連続的中とか……。
「有り。」
僕はそう言うしかない。
彼の7の牌を倒したとき、僕は僕の手が震えている事に気づかざるを得なかった。
やばい、やばすぎる。
これ、なんかのイカサマじゃないだろうな!?
そんな疑念までが脳裏をよぎる。
「わが五度目の宣言である! わが手牌に5の牌、ありや無しや?」
僕はほっとした。
「無し。」
そう答えた。
「なれば宣言の権利は汝に移った。」
男が言う。
さあ、怒涛の反撃開始だ。そうならなくてはいけない。