三十九話 ナララ、状況を把握する。三人でナララの服を買いに行く。
前回までのあらすじ:
良一は負ければすべてを失う競技に挑み、結果、処刑される運命だった奴隷少女を救うことに成功した。意識を失っている彼女を連れて帰る。そのあと、良一は競技に挑む前に約束した通り、ニニナと体を重ねた。
「う……うーん……あれ? ここは?」
女の子の声が聞こえた。
ナララだ。
ナララが意識を取り戻したんだ。
そう気づいた僕は、すぐさま彼女のいる方を確認した。
「あたし……どうして……。」
ナララは上半身を起こして、自分の左手の辺りを見つめていた。
「ナララ、大丈夫? って言うか、ナララって言うんだよね? 名前。」
ナララはゆっくりとこちらを振り向いた。僕を見て、少し嬉しそうな表情になる。
「ああ、あんたか。元気?」
そういったあと、急に真顔になって、
「あんた、大丈夫か? 勝負には勝てたの? ひどいことされなかった?」
心配そうな顔で、そう言って僕の方に這いずりよってきた。
「なんとか、おかげさまで勝てたよ」
正確には、勝ったことになった、だが、そこの正確さはどうでもいいと思った。
「あたし、どうなったんだろう?」
ナララは今その点に気づいたように、独り言を言った。
「もう大丈夫だよ。誰も君を処刑しようとはしない。」
僕は言った。
「え? 本当に? どうして? 本当に?」
「そりゃ、僕が勝負に勝ったから。」
僕は胸を張って言った。
「覚えてるだろう? 君のために戦ったんだ。そして勝ったんだよ。」
「本当に? あんたがあたしを助けてくれたの? 本当に?」
彼女の顔に、純粋な喜びの色が浮かんだ。
その時、
「あの、ナララさん? あなた、自分の主人に対して、『あんた』呼ばわりはないのでは?」
僕の背後から、ニニナの、妙に冷たい声が聞こえた。
「あ……え? あー、ナララって名前で呼ばれるの久しぶり……。え? 主人? ご主人さま?」
「ああ。」
僕は説明する。
「君を助けたいって長老に言ったら、そのためには君を僕の奴隷にしないと行けないと言われたんだ。だから、えーと、君がすでに僕の奴隷になってるかどうかは分からないけど、まだなってないならこれからなる事になると思う。」
「大変申しわけございませんでした!」
ナララはすごい剣幕でひざまずいて頭を深く下げた。日本人なら土下座をしているところかな、と僕は思った。
「ああ大丈夫、そんなにかしこまらなくても。」
「どうかお許しを!」
「大丈夫だって、許すよ。」
「ありがたき幸せです!」
「あのさ、もっと普通に話せない?」
僕がそう言うと、ナララはえへへ、と笑って、
「いやー、もういちどあたしにご主人さまができるなんて、思っても見なかったから……。」
そう言った。
「それは、嬉しいことなの?」
「嬉しいよ、だって、ご主人さまの命令聞いていれば、毎日ごはん食べられるんでしょ? 悪いことしないですむ、って言うか、みんなの恨み買わなくてすむんでしょ?」
「あ、ああ。そうだね。」
結構重い言葉が帰ってきて僕は動揺した。
「あたし、一所懸命働くよ! なんでもやる! それで、あたしなんの仕事すればいいの?」
ナララは期待に満ちた目で僕を見つめた。
「……。」
言葉に詰まった僕。
ナララは少し首を傾げた。
「考えてない。」
「え?」
「そ、その時が来たら言うから。」
「……はい。」
ナララはそれしか言わなかったけど、なんだが失望したように見えた。
ここで自分の気持ちを正直に行っておくと、自分はいずれナララともセックスをしたくなるだろうな、とは思った。というか、恥ずかしいことかも知れないが女の子僕の奴隷になる、という状況でそれ以外は思い浮かばなかったのだ。
だけど、輝く目で「何の仕事をすればいいの?」と聞いてきた少女に、「性奴隷」と答える度胸は僕にはなかったのだ。
「あ、ところで質問いいですか、二つほど。」
気を取り直して、という感じで、ナララは口を開いた。
「ああ、どうぞ。なに?」
「あたし、どうして裸なのかなーって思ったんですけど。」
「ああ、それは……体が汚れてたからきれいにさせてもらったんだ、勝手にやって悪いけど。」
「ああ大丈夫です! むしろありがとうございます!」
「いや、どういたしまして。それでもう一つの質問は?」
「ああ、その。どうしてお二人は裸なのかなーって思ったんですけど。」
そう言われて、僕は、僕とニニナが裸のままだったことに気づく。
ちょうどセックスし終わったぐらいのタイミングでナララが目をさますもんだから、こうなってしまった。
「いや、これは別にね……ふふっ、あはっ……。」
言い訳をしようとして、何故か笑いがこみ上げてきてしまった。
「え?」
何が起きたか分からなくてキョトンとするナララには悪いけど、なんだか自分が裸だと気づかず話をしていた自分が可笑しくて、笑いがツボに入ってしまった。
たっぷり3分間ぐらい笑っていた。横を見るとニニナも笑っていた。
最後の方、ナララもつられて笑ってた。
とりあえず僕とニニナは服を着た。
ナララも服を着ようとしたが、着ていた服はもうボロボロで、しかもかなり汚れていた。
顔をしかめて自分の着ていた服を見て、どうしようか迷ってる。
「ニニナ、服を貸してあげるわけにはいかない?」
「えっ」
ニニナは少し嫌そうな顔をした。
どうもニニナは、ナララにいい印象を持っていないようだ。
「しょうがないな。ナララ、僕の服を貸すよ。」
「わたしの服を貸します!」
ニニナが急にそう言った。眉毛を釣り上げてちょっと怖い顔になっている。
ニニナの心情がよく分からない。
もしかして、僕から服を借りるような栄誉を、ナララには与えまいと思っているのか。
推測が当たっているかどうかは分からないけど、僕はため息を付いた。
ナララの新しい服をどこかで手に入れようという話になった。
家の外に出ると夕焼けももう沈もうとしてる頃、ちょっと今から他人の家を訪ねるには遅い時間かも知れないが、でも着る服がないというのも可哀想だ。どうにかしようと思った。
家を出たところで出会った村の子供に、服を手に入れたいならどこに行けばいいか聞いた。ナサビと言う名の女性が服を作るのが趣味で、半ば衣料品店のようなことをしていると聞けたので、その人を訪ねてみることにした。
教えてもらった家まで歩いて行こうという段になって、次の問題が発生した。義足をなくしたナララが歩けないのだ。ナララは片足でぴょんぴょん跳びながらついてこようとしたけど、流石に無理がある。疲れるだろうし転ぶかも知れないし。
「あー、大丈夫です、なんだったら四つん這いで行くので……。」
ナララはそう言うけど、それも可哀想だと感じた。
「ニニナ、ナララに肩を貸してあげるわけにはいかない?」
そう言うと、ニニナは少し嫌そうな顔をする。ためらっているようだ。
「じゃあいいや、ナララ、僕が肩を貸すよ、こっち来て……。」
その言葉に、ニニナが間髪を入れず反応して、
「わたしが肩を貸します。貸させてください。」
そう言ってナララの体を支えた。
(さっきもこんな事があったような。僕の方を借りるような栄誉をナララに与えまいと思ったのかな?)
僕は天を仰いだ。星が見え始めている。
「行こう。」
僕はそれだけ言って、歩き出した。
ナサビさんの家はすぐ分かった。
服がほしいと伝えると、ナサビさんは喜んで家の中に招き入れてくれた。
気のいいおばさんという感じの人だった。
ナララのための服がほしいのだと言うと、ナサビさんは「ふむふむ。」とだけ言って、何かを考えるような表情になった。それから、僕に聞いた。
「あんた、この子を性奴隷にするつもりかね?」
「なっ……。」
僕は面食らった。
「それ、重要ですか?」
今、ナララ本人がいるところで、その話を出されても……。と心のなかで思った。
「いやね、性奴隷にするなら、色気のある下着とかも必要だろう?」
「はいその通りです!」
僕は思わず食い気味に答えた。
「だろう? そう言うのは必要かどうかと思ってね。」
「必要です!」
「分かった分かった。」
ナサビさんは笑顔で答えて、
「いくつかあるから取ってくるよ。」
そう言って違う部屋に入っていった。
何気なく室内を見渡すと、ナララが両手を口のあたりに当てて、ひどく赤面しているのが見えた。
(しまった……。本人のいる前で、実質的な『性奴隷にする』宣言をしてしまった……。)
自分の顔が赤面するのが分かった。
「あ、違うんだ、これは違うんだ。あとでちゃんと説明するから、大丈夫だから。」
ナララに言い訳なのか何なのか判然としない事を言う僕。
ナララは赤面したまま、こくこくと頷いていた。
言いたいことが伝わっているのかはよく分からなかった。




