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三十八話 少女は開放されるが意識を失う。良一は彼女を連れて帰る。

前回までのあらすじ:

奴隷少女を助けるために負ければすべてを失う競技ゲームに挑んだ良一は、鮮やかに二位勝利を勝ち取るが対戦相手により不正を疑われる。良一は自分の思考を説明し、不正がなかったことを立証することで実質的な勝利を勝ち取った。

 檻に閉じ込められている少女のところにたどり着く。

「見ててくれたか? 勝ったよ! って言うかなんとかなったよ、君は助かったんだ!」

 僕は彼女が喜んでくれるだろうと思って、そう声をかける。

 ところが、彼女は何も言わない。

 顔をこちらに向けることもせず、ピクリとも動かない。

「……寝てる?」

 まさか、自分が処刑されるかどうかが決まる勝負が行われているさなか、眠ってしまったのか。

 表情を確認しようと思ったけど、檻に閉じ込められている関係でよく見えない。特徴的な赤い髪の毛だけが見える。

 一人の村人が近くまで来た。手に、鍵を持っている。檻の入り口を閉じている南京錠タイプの錠を解錠し、檻の入口を開けた。男は少女の頭を動かし、顔が見えるようにした。

 彼女は苦悶の表情で気絶していた。

 さらに、顔色が異様に青い。顔色の変化が分かりにくい褐色の肌でも、一目瞭然だった。

「こ、これは……?」

 僕は動揺した。どうすればいいか分からない。

「この檻に長時間閉じ込められてると、全身の血行が悪くなるからな。助けてやりたいなら、早く出してやらにゃあ。」

「お、お願いします!」

 僕は焦って叫ぶ。

「まずはこの台から下ろそう。あんたはそっちを持って。」

 僕は言われるままに台の上に載せられている檻の片側を持つ。

 衝撃を与えないように、檻を台の下に下ろした。

「俺は檻を抑えてるから、あんた体を引っ張り出して。」

 ぼくはそのようにした。女の子の体に手を伸ばして、檻から彼女の体を引っ張り出そうとする。

 不意に彼女の体が動いた。まるで檻の中にとどまろうとするように、脚が動いて体を引っ張り出せなくなる。

「ど、どうして?」

「急に体に血液が流れるようになって、脚が痙攣を起こしたな。これじゃ出しにくいな……。」

「ど、どうすれば……。」

「はいな。任せな。」

 太った中年の女性がそういいながら割って入ってきた。片手にのこぎりを持ってる。

 彼女は木製の檻を手際よくのこぎりで切断して、壊し始めた。

 ほどなく少女は檻から開放された。

 体は時々ビクッと痙攣を起こすが、表情は随分楽そうになった。

「ど、どうなんですか、この子の容態は……?」

 僕は周りの人に聞く。

「大丈夫さぁ。檻から出りゃ、あとは放っておいてもよくなるさ。」

 中年の女性が請け合った。

「う、あ……。」

 声が聞こえて、僕は改めて少女の方を見た。うっすら、彼女の目が開こうとしていた。

「だ、大丈夫?」

 僕は彼女の肩を持って体を軽く揺すった。

「あ……処刑?」

 彼女は焦点があっていない目で、そんなことをつぶやいた。

「違うよ、だれも君を処刑しない。死ななくて良いんだ! 僕が……僕がなんとかした!」

 少女は僕の言葉が聞こえないのか、聞こえても理解していないのか。顔に理解の色は浮かばない。

 彼女はただ左右を見渡して、中年の女性が手に持っていたのこぎりに目を留めた。

「あー、のこぎり。」

 彼女の顔に奇妙な笑みが浮かんだ。

「そんな気はしてた……体の端っこのほうから切り落としていくんでしょ、知ってる……。」

 僕は胸に痛みを感じた。言葉が出てこない。

 もう大丈夫なんだ、そう言ってあげたいが、声が出てこない。

「あたし、ちゃんと泣きわめきながら死ぬから、それでみんな胸がすっとして、心から笑える……そう言うふうに終わるんだって……。」

 どうしてだろう、僕は彼女をそう言う運命から救ったのに、彼女のそう言う言葉を聞くと目から熱いものが溢れるのが止まらなかった。

「大丈夫だって!」

 僕は衝動的に、両手で彼女の頭を持って、僕の方を向かせた。

「僕が分かる? 分かるだろ?」

「ああ……あんたは……。」

「そうだ僕だ、分かるだろ?」

「よかった……あんたは……大丈夫だったんだ……それならよかった……。」

 少女はそう言うと、すっと目を閉じ、気を失った。

 僕がうろたえて左右を見回すと、

「疲れで気を失っただけだ。そのうち目を覚ますさ。」

 僕を落ち着かせるように、村人がそう言った。

 少女は、僕とニニナが借りている家に運ぶことになった。

 少女は僕が抱きかかえて、今運んでいるところだ。

「ふふっ。」

 あることに気づいて、僕はちょっと笑った。

「どうしたのですか?」

 僕の横を歩くニニナが聞いた。

「いや、僕は随分多くのものを賭けてこの子のために戦ったわけだけど、今気づいたら僕はこの子の名前も知らなかった。それが可笑しくて。」

「そうですね。ご主人さまは変わった方です。」

 ニニナは微笑んだ。

「そいつの名前、多分ナララだよ。」

 近くにいた村の青年が僕にそう話しかけてきた。

「えっ? どうして名前を?」

「いやだって、そいつもともとこの村の子だから。何年も前に脱走して、それからみんなその名前では呼ばなくなったけど、たしかそう言う名前だったよ。」

「そうだったのか……教えてくれてありがと。」

「どういたしまして。それはそうとさ、その子とエッチするの?」

 直球の質問に僕は苦笑した。

「まだ考えてない。」

 僕は正直に答える。

「何のために自分の奴隷にしたんだい? 変なの。」

「変かな?」

「大いに。あんた違う世界から来たって話だけど、その世界ではそんなことをするのかい?」

「……まあね。」

 僕は話を打ち切って、家に入った。


 気を失ってる少女――ナララ――を寝床に横たえようとすると、

「ご主人さま、その子をそこに寝かせるのですか?」

 ニニナが僕の前に立ちふさがった。

「そのつもりだけど……。」

「あの、その子、体が汚れていますから、体を清めてからのほうが良いのでは……。」

「ん? ああ……。」

 言われてみると、彼女の体は汚れていた。

「わたしが、水を汲んできます。」

 ニニナがそう言った。

 僕はとりあえずナララを床に横たえた。

 ニニナはすぐに、両手に水を汲んだ桶を持って帰ってきた。

「では、その子の体を洗いましょう。」

 そう言ってニニナは桶を床に置くと、手早くナララの服を脱がせていった。

 痩せた体だった。

 胸の膨らみも小さい。

 肋骨の形がよく見えた。

 前に見たように、右腕には手首から先がないし、左脚には足首から先がない。

(だいぶ前に失ったと言ってたっけ。)

 ジロジロ見ちゃ悪いかと思って、僕は目をそらした。

 ニニナが濡らした布で彼女の体を拭いていく。


「その子の服も、買ってあげないと駄目だな。」

 僕のつぶやきに、

「ご主人さまは……。」

 ニニナが何かを言いかけた。

「ん?」

「ご主人さまは、わたしを愛してくださったように、この子も愛するのですか。」

 ニニナはナララの体を洗いながら、そんな事を言った。

「セックスをするかどうかってこと? さっきの村の人みたいなことを聞くんだね。」

「すいません。どうしても、気になるのです。」

「その子次第かな。」

「この子次第……?」

「うん、この子が嫌がるならしない。」

「ご主人さまは、本当に心がお優しいのですね。」

「そうかな……。全然、聖人君子とかじゃないんだけどな。」

「どの辺りがですか?」

「女の子の裸を見て、エッチしたくなっちゃうところとか……。」

「まあ。その欲は、わたしでも満たせますか? わたし、この子より、胸、小さいですけど……。」

「君のことしか見てないよ。良かったらこっちに来てほしいな。」

「ありがとうございます。」

 ニニナがしずしずと僕のもとにやってきたので、僕は彼女を抱きしめて、そのまま寝床に倒れ込んだ。

「続きをする約束があったよね?」

 僕が確認すると、ニニナは顔を赤らめ、頷いた。

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