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三十七話 良一、自分の理論を説明し、皆を納得させる

前回までのあらすじ:

奴隷少女を助けるために負ければすべてを失う競技ゲームに挑んだ良一。三人対戦で一位勝利は逃すもの二位で勝利するが、対戦相手は良一のイカサマを疑う。説明により潔白を証明できれば勝利したものとみなすという事になり、良一はなぜ自分が手牌を看破出来たかを説明し始める。

 テーブルの上に、僕が説明のために並べた牌。

 それは次のように並んでいる。


333

444

55

6666


「もう一度いいますが、ここからさらに3牌を除外するところまで、巫女マヌヌは自分の手牌の候補を絞り込むことが出来たのです。その前提で、巫女マヌヌはまず『6』を宣言しました。」

 僕は説明を聞いている審判役の男や、観衆が話を理解しているかどうか、様子をうかがって見る。皆それなりに理解しているように見えた。僕は説明を続ける。

「言うまでもなく、この競技ゲームは可能性の高いところから宣言していくのが定石です。宣言に成功すればもう一度宣言ができるのだから、そのほうが有利だからです。それを踏まえて、まず巫女マヌヌが『6』を宣言したということはどういうことか?」

 僕がそう言うと、観衆の村人の一人が口を開いた。

「6が一番可能性が高かったってことか?」

 僕は頷く。

「そうですね、一番可能性が高かったか、一番可能性が高いうちの一つだった、そんなところでしょう。だから、巫女マヌヌから見えていた僕の手牌を考える時、僕の手牌に『6』が2枚あるような事態は考えにくいです。その場合、『6』の可能性がそれだけ減って、『3』や『4』の方が可能性が高いからです。ところで……。」

 僕は説明を続ける。

「巫女マヌヌには宣言の仕方に一つのクセがありました。それは、同じ数字を連続で宣言していく傾向です。それを踏まえて、こう考えます。『もし、僕の手牌に、6が1枚も含まれていなかったら巫女マヌヌはどう宣言したか?』」

 横目で巫女マヌヌの表情を伺うと、ひどく硬い表情になっていた。僕が彼女の思考を言い当てているのが、気持ち悪いと感じているのかも知れない。

「その場合、巫女マヌヌは『6』を宣言したあと、もう一度『6』を宣言したはずなのです。最初に『6』を宣言したときには『6』は一番可能性が高いただ一つの数字だし、その次も一番可能性が高い数字のうちの一つだからです。巫女マヌヌはこういう時、同じ数字を連続で宣言して、あとの思考を単純にする性格があったのです。」

 僕は言葉を続ける。

「しかし、実際にはそうではなかった。巫女マヌヌは『6』のあとに『4』を宣言した。もし『6』が単独で一番可能性が高かったなら、そうしたはずなのにも関わらずです。と言うことは、『6』は単独で一番可能性が高かったわけではないのです。『6』は、一番可能性が高いうちの一つだった。他にも同じぐらい可能性が高いものがあったのです。それが『4』です。そして、『6』と『4』が一番可能性が高かったと言うことは……。」

 僕はテーブルの上の牌から、『6』を一枚取り除く。


333

444

55

666


「この形です。僕の手牌に『6』が一枚だけ、含まれていたから、『6』も『4』も3枚ずつの形で、可能性が等しかったのです。僕の手牌の、僕から見えない3枚のうちの1枚は、『6』です。」

 観衆から感嘆の声が聞こえた。


「さらに、もう一度巫女マヌヌの宣言をおさらいしますが、それは6→4→6→3→5→4と言う順でした。6と4を宣言したあと、次は6に戻っています。これは、6と4を取り去ったあと、6が再び最も可能性の高いもののうちの一つになったということです。試しに、今の可能性を表す牌から、6と4を一枚ずつ取ってみると……。」



333

44

55

66


「こうなります。3が、一番可能性が高いですね。しかし、巫女マヌヌが次に6に行ったということは、この3は無かったのです。つまり、僕の手牌に3があったので、巫女マヌヌは3を1枚除外して考えることが出来たのです。」

 僕はテーブルの上から3の牌を取り去る。


33

44

55

66


「この9枚から、まだ判明してない僕の手牌の最後の一枚を引いたものが、巫女マヌヌが考えていた可能性の最終形になります。そしてそれは、その後の彼女の宣言を見れば推測できます。宣言は6→3→5→4でした。彼女にとって、この4つは同じように高い確率であるように思われたのでしょう。それは、このパターンしかありえません。」


 僕は、『2』の牌を取り去った。


33

44

55

66


「僕の手牌にあった2を除外することが出来て、3も4も5も6も、同じ確率に見えたので、この4つを宣言したのです。巫女マヌヌはその時、考えるのではなく祈るような、勘に頼るような表情をしていたのを僕は覚えています。その表情もこの状況を裏付けています。すべての確率が等しくなったので、思考では答えを求められなくなったのです。」


 僕はみなの理解を確認するように、村人たちの表情を見た。大体の人は僕の理論を理解してくれているようだった。少なくとも強い疑問を持っている人はいないようだった。


「ここまでの理論で、僕の手牌は明らかになりました。最初に判明した6、次に判明した3、そして最後に2です。僕は強い確信を持っていたので、自分の番が来た時にそれを小さい数字からでも、宣言することが出来たのです。説明は以上です。ご清聴、ありがとうございました。」


 僕は軽く一礼をした。


 最初は小さく、徐々に大きく、拍手と歓声が上がった。

「すげーぜ!」

「天才か!」

「こんな読みがあるのか……。」

 僕は、審判を買って出た男の方を見た。

「見事である。」

 男は言った。

「挑戦者、コーヅキ氏は自分の考えを見事説明してみせた。コーヅキ氏が自分の手牌を看破するのに、不正は必要なかった。それが明らかになった以上、コーヅキ氏は競技に勝利したものと認定する! 良いか?」

 男が二人の巫女に確認するように言った。

 巫女、マヌヌは悔しがっているのか、こちらから顔が見えないほどうつむいていた。

 横に立っていた巫女マヌアが優しく彼女の肩を叩くと、マヌヌはしっかりと頷いてみせた。

 それを見て男も頷く。

「挑戦者、コーヅキ氏は、競技に勝利したものとみなす!」

 男が叫ぶと、周囲を取り囲む村人たちも大きな歓声を上げた。


「ご主人さま!」

 ニニナが僕の方に走ってきた。

 僕の胸に飛び込んできた彼女を抱きしめる。

「ニニナ、君のおかげで勝てた。って言うかまあ、勝ったとみなしてもらえた。」

 我ながらちょっと締まらないな、とは思う。できれば完全勝利したかった。

「わたし……ご主人さまが負けたと思った時は……あの時は……。」

「僕も負けたと思った。」

 僕は笑ってみせた。

 ニニナは僕の胸に顔をうずめて、肩を震わせている。

「泣いてるの?」

「す……すいません……わたし……。」

「大丈夫だよ。」

 僕はニニナの方を優しく叩いた。


 男が咳払いするのが聞こえた。

「さて、挑戦者よ。本来であれば、競技の勝者には賞金を授与することになっているが、今回は違うのだったな。」

 男が言った。

 一瞬、僕は何のことだか思い出せなかった。

「あの罪人を処刑から救うには、神へ許しを請う捧げものをしなければならぬ。大かご12個分の食料が必要だ。その食料を賞金で賄うのではなかったか?」

 言われてようやく思い出した。

 そうだ、僕はあの追いはぎの少女のために戦っていたんだった、自分の全財産に身分まで賭けて。

「そうでした!」

 僕はあの少女が閉じ込められている檻を見た。

 今も彼女はあんな小さな檻に閉じ込められて、苦しんでいる。

 僕は檻の方に向けて走り出した。

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